野球

連載: プロが語る4years.

戻った球速154km、リハビリ経験も自信に オリックス・バファローズ黒木優太4

2019年6月に右ひじの手術を受けた黒木優太(本人提供)

今回の連載「プロが語る4years.」は、オリックス・バファローズの黒木優太投手(26)です。立正大学の先輩でもある4years.野球応援団長の笠川真一朗さんがこれまでの野球人生を振り返る4回連載の最後は、2019年の右ひじ手術から背番号「54」を取り戻し復活への思いに迫ります。

自分を信じ、全力でいったルーキーイヤー オリックス・バファローズ黒木優太3

2019年6月にトミー・ジョン手術

黒木は2018年の2年目シーズン終了後、フェニックスリーグでは先発転向を目指した。しかし、19年の1月頃から右ひじに痛みを抱えていた。誰に言われるでもなく、それでも自分の意志で投げ続けた。6月にはひじが伸びない、曲がらない。最後は電気が走る感覚に襲われた。「そこでやっと手術だなと思いました。そこまで投げ続けた理由は後悔すると思ったから。中途半端にやるのが一番良くないと思っていました」。もう手術するしかない。治さないと投げられない。そんな状況だったからこそ手術に対する怖さはなかったと言う。右ひじの内側側副靱帯(じんたい)再建術(通称トミー・ジョン手術)を受けた。

そしてリハビリを開始。「最初は野球を見るのがしんどかったです。それは野球が嫌とかじゃなくて、見ると気持ちが焦ってしまうから。でも治すなら丁寧に、丁寧に。そう自分に言い聞かせながら自分の体と向き合いました」。周りからは「良い機会だと思ってゆっくり休みながらやればいいんじゃない?」と声も掛けられたという。それでも黒木は1日たりともリハビリを休まなかった。「トミー・ジョン手術は『手術5割、リハビリ5割』と言われています。しっかりリハビリをしないと投げられない。『これをやらないともう投げられない』と言い聞かせて毎日継続してましたね。頑張ったとかじゃなくて、普通に自分の欲求です。やらないと後悔するので」

背番号124の育成選手に

これまで長期間ボールを投げなかったことは一度もなかった。焦りもあっただろう。そして大学時代から常に投げ続けてきたが故のけがだと僕は思った。あまりにも心配になって、当時、手術が終わってリハビリを続けている黒木に連絡して会うことになった。落ち込んでいる姿はまったく感じず、元気そうで安心した。「大丈夫っすよ!なるようにしかならないんで!」。はたから見れば困難な状況。それでも笑える強さが黒木らしくて格好良かった。
支配下登録から育成契約に。背番号も54から124に変わった。それでも黒木は絶対にくじけない。投げることが好きだから。

育成選手となり背番号は124に

投げ続けてきたことがけがの原因だったとしても後悔してないか?と尋ねてみた。「1mmもしてませんよ。僕の場合は投げ続けて強くなれたんで。投げ続けなかったらプロにも入れてない。だからこの手術もリハビリも自分にとって必要な過程だと思っています。すべてが良い経験になってます。そう胸張って言い続けられるように、これからの時間も大切にします」とひょうひょうと言い切った。

当たり前のように取り組んだリハビリは現段階で少しずつ実っている。2020年のフェニックスリーグでは154km/hという本来の球速をたたき出すなど、実戦で登板するまでに戻れた。道のりはまだまだこれからだが、黒木にとっては大きな一歩だ。「キャッチボールができたときはものすごくうれしかったですよ。楽しかったです。そして球速も戻ってますし、リハビリは間違ってなかったっていう答え合わせにもなったので良かったですね。この経験もまたひとつ自分の中で自信になりました」。明るい声で答えた。

取り戻した54番

12月には再び支配下選手登録されることになった。黒木は自らの飽くなき向上心でもう一度、背番号54を奪い返した。並々ならぬ苦労の末につかんだことだろう。それでも辛い姿を僕に見せなかった。黒木はいつまでたっても良い意味で変わらない。試合中の闘争心むき出しの熱い表情。負けた後の話しかけられない鬼気迫るほどの表情と練習姿勢。手術やリハビリは進化するためのひとつの過程だと、契約更改後の会見での笑顔を見て僕はそう感じた。

様々な経験を乗り越えプロ4年目を終えた。これからどのような投手になりたいのか。「けがをせずに通年投げ続けて成績も残せる投手。どんなに良いモノを持っていてもけがをしたら投げられないので。そのためにこれからもリハビリを続けます。リハビリを通じて自分の体の変化もわかるようになってきました。これはすごく大きいことだと思います。もっと自分の体のことを知って、もっと良い球を投げたいですね。少しは大人になったんですよ!」。黒木は笑った。

がむしゃらに投げ続けてきたこれまでの野球人生。がむしゃらにやらないと本当の課題は見つからないし、成長もできない。常に向上心を持って全力で投げ続けてきたからこそけがをしたのかもしれない。それでも、そのけがさえ「自分にとって必要な過程」と言い切れる自信。それは黒木自身が自分にうそをつかずに純粋に野球と向き合い続けてきたからだと僕は信じている。

「リハビリの方法とか、シーズン中の過ごし方とかもそうですけど、昔から人に流されずに自分の我を通してきたのが良かった。人に流されて人に言われたことだけをやって失敗しても最後に責任を取るのは自分。自分の信じてきたことをやるからこそ、それでダメだったときにも諦めがつくし、納得できる」。黒木はわがままだけを言うやつじゃない。わがままが言えるほど、周囲を納得させる時間を積み重ねてきた。そして日頃から自然に自分を厳しく追い込むこんでいるから、人にも優しいし協調性もある。だからこそ頼りになる。

「自分が納得して全力で」

学生に向けてメッセージを送ってくれた。「我がないのはいけない。我がありすぎてもいけない。その狭間を見つけてほしい。協調性も大切。言葉にすると難しいんですけど、その辺、笠川さんわかっているでしょ?」と言われたので代筆します。

恐らく黒木が言いたいことは「まず自分が納得する方法を選んで、その方法に全力で取り組む。その方法が実を結ぶまで丁寧に過程を積み重ねれば、他人はそれの邪魔をしないし、他人の邪魔にもならない。自分の我を出したいなら、自分の我を出せるようになるまで、こだわりを持って挑戦し続けてください」と言うことだと解釈した。

誰かよりも上だとか下だとか本当は関係ない。自分らしく精いっぱいやることに意味がある。まず自分のことを精いっぱいに取り組むから他人からの見られ方も、他人に対する見え方も変わる。それまでは頑張り続けるべきだと。黒木はそう言いたいのだと思う。

どんなにつらいことがあっても上だけを見据えてきた。
困難という風に立ち向かうように走ってきた。
人に見せないその苦労の先には、必ず明るい未来が待っている。これからも燃え盛る炎のような直球で僕らを熱くさせてください。応援しています。

プロ2年目のフォーム。豪快な投球を取り戻せるか(撮影・朝日新聞社)

最後に現状からの変化を恐れずに投げ方を変え、常に挑戦を続ける黒木からのアドバイスです。「人はそんなに器用じゃないので1個増やしたら、1個減らさないと元には戻れません。最終的に戻れる大きい軸がないとグチャグチャになる可能性があります。その大きな軸をまず自分で見つけて、あるいは作って、それから変化を求めてください。その軸がひとつあれば、他のどこをイジっても大丈夫です。僕の場合、その軸は『真っ直ぐきれいに立つ』です。何かあった時にそこに戻れるので、フォームを変化していくことに怖さがありません」

「旅行が楽しいのは、最終的に帰る家があるから」。僕は黒木の話を聞いてそう思った。
現状に迷っている皆さん。まずは原点に立ち返って大きな軸を作ってから変化をすることに挑戦してみてはいかがでしょうか。

プロが語る4years.

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