自分を信じ、全力でいったルーキーイヤー オリックス・バファローズ黒木優太3
今回の「プロが語る4years.」は、オリックス・バファローズの黒木優太投手(26)です。右ひじの手術を乗り越え今シーズンに完全復活をかけます。立正大学の先輩でもある4years.野球応援団長の笠川真一朗さんがこれまでの野球人生に迫る4回連載の3回目は、ドラフト2位で入団しセットアッパーとして活躍したルーキーイヤーです。
うれしさ半分、悔しさ半分の2位指名
「プロにいける実感はあった」そう言う黒木だが、指名を待つ2016年10月のプロ野球ドラフト会議当日は食事がのどを通らなかった。「すごい選手でも指名漏れすることがある。高校の時もみんなが集まってるのに指名はなくて。もう人が落胆するところを見たくなかったです。それを考えると少なからず不安はありました」と当時の心境を語った。そして、オリックスから2位指名を受けた。「正直、1位でいきたかったですね。だからうれしさ半分、悔しさ半分でした。しかも1位は年下の山岡(泰輔、瀬戸内-東京ガス)。ここから先は絶対に負けたくないと思いました」と1年目からの飛躍を誓った。
迎えた春季キャンプ。自信を持ってプロに入ったが、自分よりすごい人が山のようにいる。テレビで見ていたプロ野球選手のプレーには感動を覚えたが、同時に危機感も抱いた。「最初から飛ばしていかないと、アピールしないと、出ばなをくじかれたら一生ファームだと思いましたね。先発には金子(弌大、現・日本ハム)さんや西(勇輝、現・阪神)さん。後ろには佐藤達(也)さんや平野(佳寿)さん。自分の居場所を探さないといけないのに、入り込める場所が少なすぎました。だから本当に必死でした」
黒木は自分の長所を存分にアピールすることに決めた。「とりあえず球が速いのをアピールしようと全力で投げました。スピードは誰もが見てすぐわかるものなので」。黒木はキャンプ、オープン戦と決して臆することなく自慢の直球を武器に勝負した。力強いボールとマウンド度胸。「自分ではそんなに手応えはありませんでした」と言うが、それでも確実にアピールに成功して開幕1軍の座をつかんだ。
オールスターにも出場
2017年3月の開幕戦。東北楽天ゴールデンイーグルスとの試合で延長十回表に公式戦デビュー。1回を無失点に抑えプロ初ホールドを記録した。「シーズンの途中からじゃなく開幕戦でバーン!と投げられたのは大きかった。一発目って大切です。それなりの心づもりで準備してきたから不安は一切なかったですし、楽しくて仕方がなかったですよ。(立正)大学の頃は2部でお客さんなんて全然いなかったですけど、あの日は人もいっぱいで応援もガンガン鳴ってました。こういう所で野球ができるのは幸せなことだと思いました」。日の当たることが少なかった黒木の存在が多くの野球ファンに知れ渡ることになった。相手がプロ野球の強打者であってもルーキーとは思えない強気の投球で対峙(たいじ)していく。大学時代から変わらない力強い姿をテレビ越しで見ていた僕は自然とにやけていた。黒木という純粋な野球小僧がどこまでいくのか。期待せざるを得なかった。
そして黒木は順調に結果を出し続け、4月中旬からはセットアッパーとして活躍。13試合連続無失点に初勝利、初セーブ。オールスターゲームにも監督推薦で選出された。プロ1年目から55試合に登板し、上出来の成績を残した。それでも本人は「悔しかったですね。満足していません」。何もわからない手探りの状態から投げ続けた1年目のシーズンを黒木は振り返った。「とりあえずいけるところまで全力でいってみようと。疲れとか気にせずに。知らないが故の強みもありました。でも変に知ったような感じで過ごしていたら結果も変わっていたと思います。1年目は誰もが初めてのことだから、先輩の調整法をまねしてもよくないと思っていましたね。先輩方も長年やってきて自分に合った調整法にたどり着いてるわけで。どの時期に疲れてくるのかなとかそういうのをまず自分で知れたらいいと思ってやらないと、成長できないです」
好成績にも満足せず
本当に自分のためになる1年間にするために、黒木は自分で考えたものを優先するようにした。「それを含めて、最後の1カ月、1軍で投げられなかったのは悔しかったですね。だから自分では上出来とは一切思わなかったです。1年間最後まで投げ続けたかった。シーズンオフもどうやって疲れを取ればいいかわからないし、調整も難しい。それでも次の年に向けて、これからの自分にとって正しい方法を見つけるには、失敗してもいいからマイペースに自分の信じたやり方をやってみようと思いました」
そして2年目を迎えた黒木。成績だけを見ると1年目よりも落ちた。でも悲観はしない。「体をしっかり休めようとオフにあんまり投げなかったのが良くなかったのかなと思います。でも後悔はないですよ。次につなげれば問題ないですし、良い気付きになった。そう思うと失敗って別になくて、引き出しが増えると思えば怖いものはありません」。自分の選んだ過程を成長につなげる時間を過ごすことができていれば、黒木にとって不安は無かった。目先の結果だけにとらわれない。成長への気付きはいろんなところに転がっている。黒木は2年目を終えたこの年、結果より大きなものを見つけたのかもしれない。
そしてもうひとつ大きなことに気が付いた。それは「打たれて負ける責任は半端なく大きいけど、それを気にしすぎるのもよくない」という考えだ。「周りから見られているとか、お客さんがいっぱいいるとか、そんなことに気を奪われてはいけないと思いました。大切にしないといけないのは、あくまで僕と打者との1対1の勝負。それだけに向き合おうと改めて投手の原点に立ち返ろうと思いました」。これは決してチームメートやファンを無視した独り善がりの考え方ではない。プロの投手として自分が成長していくには、見ている人の感情を突き動かすには、やっぱり自分の投球しかない。一人ひとりの打者との対戦で勝つ。それこそが自分の仕事だ。そんなヒントを見つけたからこそ、3年目への思いは強かった。