関西大学・坂之下晴人主将、ラストシーズンにもう一度神宮、そして日本一へ
大学ラストシーズンとなる今秋の関西学生野球リーグ戦。関西大学の主将を務める坂之下晴人(4年、大阪桐蔭)は、並々ならぬ思いで9月4日を迎えた。開幕戦の立命館大戦。8番・二塁手でスタメン出場した坂之下は、1打席目は中飛に倒れたものの、2打席目は先制のお膳立てとなる犠打を決め、3打席目は左前打、4打席目では左越え二塁適時打を放つなど2安打1打点だった。
青学の泉口、慶大の福井と大阪桐蔭高出身の主将
「初戦が大事だと思っていたので、まずは勝てたことが良かったです。自分自身、打撃フォームとか何かを変えた訳ではないですけれど、強く振ることを意識してきたので、それが結果に出たことは良かったです」。大阪桐蔭高時代は2017年の第89回選抜高校野球大会で二塁手として優勝。軽快な守備を何度も見せ、当時、二遊間を組んでいた泉口友汰(青山学院大主将)とため息が漏れるようなスーパープレーも披露してきた。
今年、同学年には1年生からレギュラーの野口智哉(鳴門渦潮)、強肩強打の主砲・久保田拓真(津田学園)というドラフト候補がいる中で、坂之下はどちらかと言えば守備や小技などでチームを側(そば)でアシストする役目だ。
だが、それでも坂之下は強い存在感を示してきた。高校時代も見せていたように、ここ一番での守備力、そして上位打線への繋(つな)ぎ役。派手さはないが、チームの勝利に結びつける動きが、開幕戦から光った。
コロナ禍で出場辞退、春は5位
昨年から学生スポーツ界を悩ませる新型コロナウイルス感染拡大。以降、学校内の規定で全体練習はできず、100人を超えるチームはいくつかの班に分けての練習が続いている。1班で約2時間の練習時間があり、その班でのノックや打撃練習などは行えるが、これまでのように全体を見渡した練習はできない。今春のリーグ戦では、4月中旬から新型コロナ感染拡大の影響で、関大は約1カ月間、リーグ戦に出場できなかった。不戦敗もあり最終的には5位で終わった。
主将として、チーム全体の状態を把握するために、目配りをするにも限度がある状況がずっと続いている。もどかしさがないと言えば嘘(うそ)になるが、今はこうやって試合ができるだけでもありがたいと思っている。
ただ、日本一へのこだわりは人一倍強い。「2年生の時に全国大会(秋の明治神宮大会)を経験させてもらって、決勝で慶(應義塾)大に負けてあとひとつ勝てば日本一というところで負けて悔しかったですね。それから日本一というはっきりした目標ができて、昨秋からはいっそう本気で目指そうとしたら、新型コロナウイルスの影響で大会もなくなって……。特にこの学年(4年生)はとてもコミュニケーションを取れる学年。みんなで色々な情報交換はよくやっているんです。その中で話の最後にはやっぱりラストシーズンこそは優勝しようという話になります。この秋も日本一への強い気持ちで戦っています」
打撃で貢献できたことは自身からすると「うれしい誤算」だったと話す。「自分はどちらかと言うと守備でチームを引っ張るタイプ。打撃でアピールするタイプではないので……。それで2安打もできたことはうれしいです。今日は後半勝負だとベンチで言っていて、後半に何とか(自身の適時打で)1点を取れたことは良かったです」
名人芸の守備力
その自身が武器と言う守備では、相変わらず機敏な動きを見せる。「バッターを見て動くことは当たり前。相手のデータを取ってポジショニングすることも大事なのですが、自分はあまりあてにしないんです。その時の雰囲気を見て、こっちに飛んでくるな、という“匂い”で判断します」
独自の感覚で、二塁の位置からは細かい動きを見せる。高校時代より変わったことを挙げるとすれば大きな声を出すようになったことだろう。高校時代は福井章吾(慶大主将)という強いリーダーシップを持つ主将のもとで汗をかき、仲間と甲子園優勝を目指した。声でチームを鼓舞し、励ますことも重要な役目だと思っている。
この秋も新型コロナウイルス感染拡大の影響で、他リーグでは出場辞退する大学もあり、“見えない敵”への不安は拭い去れない。それでも持っている力と仲間との結束を強くし、ラストシーズンは無事にスタートが切ることができた。開幕戦は5-0、2回戦も3-1で勝ち、まずは1歩、というところか。
2年前の秋、大学野球の聖地・神宮球場で味わった勝ち上がる喜びと、最後に勝ち切れなかった屈辱。その両方を知るからこそ、このシーズンは全うしないといけないと思わされる。高校時代の同級生・福井は今春の全日本大学選手権で日本一を成し遂げただけに、次は自分が、と高ぶる思いもある。
完全燃焼し、頂点へ――坂之下の胸中には、今、その言葉だけが刻み込まれている。