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特集:第73回全日本大学バスケ選手権

東海大・佐土原遼、大学バスケ界のシンデレラボーイは「スイッチが入ったら負けない」

佐土原は大学4年間で力をつけ、強豪・東海大を支える選手に成長した(撮影・全て青木美帆)

全国未経験から名門チームの門をたたき、大学4年目にして関東大学リーグのMVPに輝いた。「MVPをもらえるなんて、高校の時は想像もしなかった。ただただうれしいです」と受賞の感想を語った東海大学の佐土原遼(4年、東海大相模)は、大学バスケットボール界きってのシンデレラストーリーの体現者だ。

192cmという身長は上位チームのインサイドとしては小さいが、体重97kgの分厚い体とパワーを生かし、留学生センターとも互角に戦える稀有(けう)な存在。一方でアウトサイドのプレーも巧みで、シュート力とクイックネス、走力を生かした仕掛けでマッチアップを翻弄(ほんろう)し、アウトサイドのプレーヤーも苦もなく守れる。半ば絶叫に近いディフェンスボイスを絶えず出し続け、チームメートを鼓舞する献身性も魅力だ。

日大vs.東海大、リーグ優勝決定戦で見えた春からの変化 米須の3Pと大倉の存在感

同期に気後れ、それでも「阿蓮にはないもので勝負」

高校時代の最高成績は県準優勝。全国大会の出場経験こそないが、佐土原の才能は当時から目を引くものがあった。常人離れしたフィジカルで同県のトップ選手たちを圧倒し、高校3年時の関東大会(Bブロック)1回戦では、体の至るところを傷めながら40分間コートに立ち、1人で54得点を挙げた。東海大の陸川章ヘッドコーチは、高校2年時に初めて佐土原を見た時の印象を「フィジカルの強さや得点に絡む力を見て、『この子はすごい』と強烈なインパクトを覚えました」と話している。

とは言え、進学先の東海大で活躍する青写真は全く描けなかったと佐土原は言う。「入学当時は不安しかありませんでした。試合に出ているところも想像できなかったし、とりあえず1年間は頑張ろうという感じでした」。加えて、同級生には、ウインターカップで優勝した八村阿蓮(4年、明成)や全国屈指のガードである大倉颯太(4年、北陸学院)ら、全国で名を残したそうそうたるメンバーが集結。「僕から見たらみんなスーパースター。最初は気が引けて、全然しゃべれなかったです」

佐土原(右)は鍛え上げたフィジカルの強さを武器に、攻守ともに力を発揮する

佐土原にとって大きな幸運だったのが、八村の存在だ。インサイドを主戦場にプレーする2人はほとんどのメニューでペアを組み、練習に励んだが、その中でも特に実りが大きかったのが1対1だったと佐土原は振り返る。

「阿蓮はでかいし腕も長いし、ひたすらブロックされて。最初は『こんな選手がいるんだ』って感じでしたけど、そのうち『阿蓮にはないもので勝負しよう』と思うようになって、自分の方が勝っているドライブや3ポイントで攻めつつ、阿蓮の得意プレーを守ろうと考えるようになりました。そこからちょっとずつ自信がついてきたような気がします」

互いに大の負けず嫌い。周りで見守るスタッフや選手たちが驚くほどの熱量をもって行われたという1対1を通して、佐土原は世代屈指のプレーを肌で感じ、自分の武器を見つめ、大きく成長。1年時の春の関東大学選手権(スプリングトーナメント)から大倉とともにロスターに名を連ねた。

もう1つ佐土原が大きなターニングポイントとして挙げるのが、昨年春から数カ月にわたって続いた自粛期間。部の活動が休止し、体育館も使えず、実家に帰った部員も少なくない中、大学から20km足らずの位置に実家がある佐土原はあえてそれを選ばず、寮に残った。同じく帰省しなかった学生トレーナーらの力を借りながら自らの弱点をつぶし、更なるスキルアップに充てようと考えたのだ。

「瞬発力に課題を感じていたので、それを改善できるようなメニューを出してもらいながら、1~2日おきにウェートをして、自分の体をもう一度見直しました。最近になって、スプリントや走り始めの一歩が早くなったり、ダンクが軽くできるようになったりして、成果が出てるなって思います。メンタル的にもバスケ愛が深まったというか。バスケが好きだって気持ちがどんどん高まってきて、自粛が明けてからは今まで以上に努力しようという意識に変わりました」

「#俺たちの佐土原」

誤解のないように書いておくが、佐土原はコロナ禍以前から非常に練習熱心なことで知られる選手だった。高校時代は「部活が終わってヘロヘロになった後に、大人のクラブチームでバスケをしていた」と話し、大学入学後も、その熱心さが招くオーバーワークによって、いつもどこかに痛みを抱えていた。ただ、自粛期間にバスケへの思いと自分の体を見つめ直したことによって、アプローチが変化。4年生になってからは、チーム練習の前に、外部のスキルコーチとのワークアウトを加えるという更なるハードワークを課しているが、ケアの時間を以前よりも入念にとることで、コンディションをきちんと維持できるようになったという。

佐土原(右)はインサイドプレーヤーながら、フェイダウェイシュートやフローターシュートといった難しいシュートも打てる。ワークアウトのたまものだ

大学バスケをフィーチャーするメディア「CSPark」は、「#俺たちの佐土原」というキャッチフレーズを添えて佐土原を紹介する。彼らがこのフレーズに込めた真意は分からないが、佐土原のコートでの立ち振る舞いは、見る者の共感と親近感を呼び、「頑張れ!」と思わせる不思議な力があるように感じる。本人にそう向けると、少し照れ臭そうに話した。

「SNSに届くメッセージを見ていて、参考にしやすい選手だと思ってもらっているのかなって感じることはあります。颯太とか阿蓮は、能力もスキルも高くてなんかマネできない感じがあるじゃないですか。でも自分はスキル云々(うんぬん)というよりも、『ちゃんと体を鍛えてちゃんと走れるようになったらこうなるよ』みたいな感じ。そういうところが、多くの方が応援してくださるというか、見てくださる理由の1つなのかなって思います」

敗れた大東文化大相手でも「次はたぶん大丈夫」

12月6日に開幕するインカレの目標は、当然ながら昨年に続く優勝。けがで長らく戦列を離れた大倉が完全復帰した状態で臨む予定のこの大会で、佐土原は「生まれ変わった東海を見てほしい」と言う。2回戦では、リーグ戦で唯一の黒星を喫した大東文化大学と対戦する可能性が高いが、「最後にやり返すチャンスができてうれしい」と対戦を歓迎。「あの試合は自分が足を引っ張って負けたけど、次はたぶん大丈夫。『俺のスイッチが入ったら負けない』っていうくらいの気持ちでいます」と心を躍らせている。

リーグ戦からはベンチスタートに回り、経験の浅い下級生たちを引っ張っていた。コートに立った時の頼もしさは抜群だ(中央が佐土原)

全国大会に出られず高校を引退し、名門チームで有名選手たちに気後れし、それでもバスケットボールへの愛情とたゆまぬ努力を糧に一歩ずつ成長し、最終学年に花開いた。勇猛なシンデレラは華奢(きゃしゃ)なガラスの靴を踏みつぶし、自らの太い腕でハッピーエンドをつかみに行く。

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