バレー

特集:全日本バレー大学選手権2022

中京大学・古藤宏規 「書くのをやめてよかった」退部届、今は主将として全幅の信頼

3回戦に進出した中京大学の選手たち。左手前の青いユニホームが主将の古藤(すべて撮影・井上翔太)

第75回 全日本バレーボール大学男子選手権大会

11月30日@武蔵の森総合スポーツプラザ(東京)
中京大学3(22-25.25-19.25-21.25-16)1福山平成大学

会心の勝利でベスト16進出だ。逆転の末、福山平成大学との2回戦を3-1で勝利した中京大学の選手たちは、満面の笑みを浮かべ、お互いを称え合った。

「試合中にブロックをコントロールできる」

その中心にいたのが、主将でリベロの古藤宏規(4年、清風)だ。第1セットは相手の高さにひるみ「怖さが出て、攻め急いで勝ち急いでしまった」と言う。だが第2セット以降は得点されても、すぐに取り返した。古藤の好レシーブから何度もチャンスが生まれ、それも狙い通りだった。そう振り返るのは、現役時代、日本代表としてバルセロナ五輪にも出場した青山繁監督だ。

「試合中に自分たちのブロックをコントロールできる。それが宏規のすごさです。『このコースは拾うから、触りに行かずに開けてくれ』と指示を出して、実際に自分が拾ってチャンスにする。あれはなかなかできることじゃない。今でも自分がコートに入って、『ブロックはこうしろ、レシーブはこう』とやれたら楽だな、と思いますよ。でも今は、バタバタした時もあえて、ああしろこうしろ、とは言わないし、言わなくていい。中に宏規がいれば、立て直してくれますから」

元日本代表の青山繁監督が指揮を執る

チームメートだけでなく、監督からも全幅の信頼を寄せられている。

だからこそ、心から思う。あの時、「退部届を書くのをやめて本当によかった」と。

大学入学当初に感じた、物足りなさ

高校3年時の春高バレーで準優勝した際も主将を務め、さかのぼれば小学校、中学校でも全国大会に出場してきた。古藤の選手生活を振り返ると、まさにエリートと言うべき道を歩んでいるのだが、すべて順調だったのかといえば、そうではない。

中学1年の秋、尿にたんぱくが出て体がむくんでしまう「ネフローゼ症候群」を発症した。病気とは無縁のやんちゃな少年が突如、長期入院を余儀なくされ、中学時代の3年間だけで7回、入退院を繰り返した。高校入学後も再発を繰り返し、「バレーボールを辞めようか」と考えることもあった。だが院内学級で出会った子どもたちや、ともに全国優勝を目指した仲間の支えもあり、飲み薬を服用しながら競技を続け、春高ではベストリベロに輝いた。

全員が未成年で、バレーボールだけでなく生活指導も厳しかった高校時代とは異なり、中京大学では自主性が重んじられた。大人として扱われるからこそではあるが、何か物足りない。当時の古藤は高校時代と異なる環境に不満を抱き、「練習をサボることもあった」と振り返る。

厳しかった高校時代から環境が変わり、入学当初は練習をサボることもあった

あえて説明を加えるならば、大学に入学後もネフローゼ症候群の再発を繰り返し、一時はむくみが小腸にまで広がって、体重が7kg落ちたこともある。体調が万全ではない時期もあったことは事実だが、練習を「サボる」理由は体調以前の問題で、古藤の甘えを青山監督は見抜き、叱責(しっせき)した。

「これから上級生になろうとしているのに、その調子でしかできないならもう辞めろ。明日、これにサインして持ってこい」

突き出された退部届を見て、最初は単純に腹が立った。こっちから辞めてやる、とも考えた。だが時間が経ち、少しずつ冷静に振り返った。高校時代の恩師からも事あるごとに「環境のせいにするな」と言われ続けてきたにも関わらず、サボっていたのは自分だった。

翌朝、髪を短く刈り、古藤は青山監督に自分の甘さを詫びるとともに、こう言った。「もう1度チャンスを下さい。自分たちの代が終わる時、『古藤がいてよかった』と絶対に言わせてみせます」

エース活躍の背景に、古藤のバックアップ

その集大成となる場が、まさに今、学生生活最後の全日本インカレだ。

福山平成大との試合後、青山監督は「自分が現役時代は『練習でできないことは試合でもできない』と言われ続けて、それが当たり前だと思ってやってきました。でも今の子たちは、良くも悪くも、練習でできないことを突然試合でスイッチを入れて、こちらが驚くような姿を見せてくる」と感嘆した。

高さに対して消極的になっていた攻撃も、2セット目からは臆さず、真っ向勝負だけでなく軟打も織り交ぜ、バックアタックも絡めた多彩な攻撃を展開。柱になったのは、1回戦の大阪体育大学戦でも要所で高い決定力を見せた、エースの加藤幹也(4年、県岐阜商)だ。

チームメートに声をかける古藤とエースの加藤(4番)

十分な攻撃準備をさせまいと、相手にサーブで狙われた。第1セットは「ブロックを避けようとしすぎて、ミスが続いた」。第2セットに入る前、青山監督からの指示を受け、切り替えた。「ブロックの上から打つ。抜こうと無理するのではなくコースを狙って当てて出す」。高さから逃げるのではなく、むしろうまく使ったスパイクが次々決まり、第4セット終盤にも加藤のスパイクで連続得点。「チームのエースとして貢献することができた」と笑みを浮かべ、その背景に古藤のバックアップがあったことを明かす。

「サーブレシーブで崩されても『ここまでは取るから、ここだけやってくれればいい』と、試合中にすぐ声をかけてくれるので、立て直しやすい。頼りになるリベロでキャプテンです」

「応援されるチームを作ろう」

躍動したのは加藤だけではない。オポジットの平野千尋(2年、瀬戸内)は苦しい状況で立て続けにスパイクを決め、ミドルブロッカーの島風渡(3年、松阪工)も随所でブロック、スパイクで得点を挙げた。点取り屋たちがそれぞれの役割を果たす中で、古藤が「涙が出そうなぐらいうれしかった」と振り返ったのが、前衛だけでなくバックアタックも放つなど積極的な攻撃姿勢を見せた渡邊慎之介(4年、荏田)の活躍だ。

どちらかといえば攻撃型の加藤に対し、対角に入るアウトサイドヒッターの渡邊は守備型で、役割の比重もスパイクよりサーブレシーブのほうが高い。もちろん守備面の貢献度は高いのだが、その反面、攻撃に対して消極的な面も目立つ渡邊に対し、常に「打ち込め!」と言い続けた成果が、「これ以上ない形で出た試合だった」と古藤は言う。

渡邊の活躍に古藤は「涙が出そうなぐらいうれしかった」

「どれだけ『打ち込め』と言ってもフェイントで逃げていたのに、今日の試合ではどんな状況でも逃げず、何が何でもねじこんだる、という姿勢だったのがめちゃくちゃうれしくて。今まで、相手の攻撃を拾ってから着実に攻撃する形をいかにつくるか、とずっと練習してきたけど、なかなかできなかったんです。でもこの試合ではまさに、ブレイクの取り方も攻撃もディフェンスも、練習でできなかったことができた。試合中なのに、うれしくてめっちゃ泣きそうになりました」

ベスト8進出をかけ、3回戦は日本体育大学と対戦する。「チャレンジャーとして向かっていくけれど、この2試合でつかんだ戦い方と勢いをぶつければ十分戦える」と自信をのぞかせる。

「内容や結果はもちろんですけど、とにかくこのチームに対してずっと口酸っぱく言ってきたのは『応援されるチームをつくろう』ということ。どこが相手でも、誰が見ても一体感のある『応援されるチーム』になれるように全力で戦うし、もちろん、勝ちに行きます!」
学生最後の戦いにするのはまだ早い。まだまだもっと強くなれる、と証明するのはこれからだ。

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