花巻東高校の遠藤広樹さん けがに悩んだ法政大時代の経験生かし、16年ぶり都大路へ
今回の「M高史の陸上まるかじり」は、岩手の花巻東高校陸上競技部で駅伝監督をしている遠藤広樹さんのお話です。一関学院高校では全国高校駅伝に出場。法政大学卒業後、指導者の道へ。監督就任3年目で花巻東高校を16年ぶりに全国高校駅伝(女子)に導きました。
中学時代は無名「勉強もやるなら」と一関学院へ
岩手県出身の遠藤広樹さん。中学に陸上部はなかったものの特設の陸上部、駅伝部という形で走っていました。
「走るのが好きでしたが、中学のベストは1500mが4分54秒、3000mは10分30秒で、通信陸上では県大会にも出られませんでした」というほど無名選手だった遠藤さん。それでも駅伝を走っているうちに楽しさを感じ「やるなら県内で1番強いところでやりたいと、一関学院高校へ進みました。親も特別進学コースに行って『勉強もして陸上もやるならやってもいい』と約束しました」
一関学院高校に入学したばかりの頃は、持ちタイムも一番遅かったそうですが、けがにも悩まされながらも1年生、2年生と全国高校駅伝(都大路)のエントリーメンバー入り。ただ、本番では補欠と悔しさも味わいました。
けがや貧血を乗り越え、都大路で力走
けがや貧血を乗り越えて、3年生の夏は調子も上向いた矢先、9月に疲労骨折。それでもあきらめずけがから復帰し、11月の岩手日報駅伝(一関・盛岡間駅伝競走)では11.2kmの長距離区間で区間新記録を樹立。「監督からは夏前に『(都大路)1区で行くつもりでいろよ』と言われていました。そう言ってもらえたので、私自身も都大路の1区を走ってやるという気持ちはあったので、日報駅伝では11.2km区間を志願して、都大路の1区を走れるようにアピールしました。風が強い中で区間新を出せたのは私だけで、自信になりましたね」
迎えた都大路本番では、各校のエースが集まる1区で区間13位の力走。「5000mの自己ベストは14分52秒だったので、持ちタイムでは1区の中で40何番でした(笑)。それでも、調子が良かったので絶対勝負してやろうと思っていました。チームとしては入賞を目標にしていたので、区間1桁で持っていきたかったのですが、悔しかったですね」。チームとしては13位。ちなみに、この年(59回大会、2008年)は佐久長聖高校が2時間02分18秒の高校最高記録(当時)で優勝するなどハイレベルな都大路となりました。
「高校3年間、好きなことをやりにいって、走らせてもらって楽しかったです。高校では下宿生活でした。ただ他の部員のように監督の家に下宿するのではなく、特別進学コースだったので別の下宿先でした。下宿先の方に食事など気を遣っていただいてお世話になって、応援もしていただきました」
治って走ってを繰り返した大学生活から、指導者の道へ
高校卒業後は法政大学へ。「実は高校3年生の1月の都道府県駅伝に出場した時に、足が治ったと思って走っていたところ、痛みが出てブレーキとなってしまい、岩手県にも迷惑をかけてしまいました。その後、半年から1年近く走れず……。治って走って、治って走ってとけがの繰り返しで……。結局、思うような走りができない大学生活、陸上生活となってしまいました」
大学4年間で出場したレースは3本のみ。相次ぐけがとリハビリに苦しんだ4年間となりましたが「そういう状態でも最後まで面倒を見てくださった当時の成田(道彦)監督(現・法政大学陸上競技部副部長)、坪田(智夫)コーチ(現・法政大学駅伝監督)、どうにか応えたいという気持ちでしたが、本当にけがばかりでした。指導者となった今でも、色々と教えていただいてお世話になっています」
教員免許を取得し、卒業後は指導者を目指すことになった遠藤さん。「本当に陸上競技が好きなんです。実業団でマラソンもやってみたかったですが、競技の方ではダメでした」。けがにより選手としては挑戦できなかった思いを指導者として挑戦することになりました。
学生時代は社会学部で地歴公民の免許を取得。卒業後は非常勤講師をしながら科目等履修生として保健体育、情報の免許も取得し、幅広い科目を教えることができるように。その後、2017年から花巻東高校で非常勤講師の外部コーチという立場で、3年間指導に携わり、2020年に花巻東高校陸上競技部の駅伝監督となり、現在3年目です。
「自分自身がこれだけ、けがをしてきたので、けがをした子にはどうにかしてあげたいという気持ちが強いですね。けがをしないのが一番ですし、誰だってけがしたくてするわけではないです。選手には気になった時点で言うように話はしています。やっぱり走って結果を出してくれるのが一番うれしいですね」
トレーニングに関しては「動き作り、ストレッチは当時、自分が選手でやっていた頃より勉強しています。時代に乗り遅れないように指導者もアップデートしていきたいです」。またトラックやロードだけでなく、クロカンも積極的に取り入れています。「高校のすぐ隣に花巻市の陸上競技場があり、総合運動公園には広く芝生が広がっています。起伏もとれる2kmのコースと平坦(へいたん)な1kmのコースがあるので、不整地で自然と鍛えられますね」
チームを16年ぶりの都大路に導く!
監督就任3年目にして、女子が岩手県高校駅伝で16年ぶりの優勝を飾り、全国高校駅伝出場を決めました。16年ぶりの都大路ということで現在の高校1年生が生まれた年以来の出場。「私が高校1年生の時、女子の(岩手県)優勝が花巻東高校でした。やっと16年ぶりに勝てたのはうれしかったですね」
下級生中心のメンバーで岩手県高校駅伝を制しましたが「タイムで引っ張るよりも声かけやコミュニケーションを大切にしています」と、3年生で女子主将の高橋知広(ちひろ)選手はチームをまとめ、積極的に声をかけてきました。
男子も岩手県高校駅伝3位、東北高校駅伝7位と勢いのあるところをみせています。男子主将の小野寺颯太選手は「全国に届かず悔しかったので、東北高校駅伝で入賞しようと練習から高め合ってきました」と果敢にチームを引っ張ってきました。
女子15名、男子17名と長距離部員がいる中「伝え方も違いますし、男女でメニューも教える方法も違いますが、どちらも指導していて楽しいですね。大変と思うことよりも楽しさの方が強いです」と遠藤さんは言います。
メジャーリーグで活躍する野球の大谷翔平選手、菊池雄星投手をはじめ部活動がとても盛んな花巻東高校。「陸上部は長距離だけではなく、短距離も強い選手がいますし、学校全体としても色々な部活が盛んで全国大会に出場しています。学校としても人間形成を大切にしています。人としての成長、当たり前のことを当たり前にできて、学校でも応援されるような選手になってほしいです。陸上で生活できていけるのは本当に一握りですし、今のうちに人間形成をして、卒業してからどこへ行っても恥ずかしくないような人になってほしいですね」
都大路に向けては、「(16年ぶりということで)私も生徒も、初出場と変わらないような気持ちでいます。全国高校駅伝では一つでも上の順位を目指して走れればと思います。将来的には全国大会で入賞できるようなチームになりたいです。高校だけではなくてその後も続けていってくれる子が出てくれればと思いますし、日本代表までいくような選手が育ってくれればと思いますね。また陸上だけではなくて、社会人になってからも何か陸上をやってきたことが生きてくればと思っています」
陸上競技への情熱が伝わってくる遠藤広樹さん。学生時代にけがで苦しかった経験を生かし、指導者として現状打破し続けています!