野球

連載:監督として生きる

大阪経済大・高代延博監督(下) 人脈を駆使し「いつかプロの練習を見学させたい」

長年野球界に携わってきた経験をこれからも生かす(撮影・沢井史)

今回の「監督として生きる」は、関西六大学野球連盟に加盟する大阪経済大学の高代延博監督(69)です。社会人野球の東芝から1978年ドラフト1位で日本ハムファイターズに入団。現役引退後は広島東洋カープや中日ドラゴンズなどでコーチを務め、2009年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)ではコーチとして世界一も経験しました。3回連載の最終回は、長年野球界に携わってきたからこそ、選手たちに伝えたいことについてです。

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社会人野球への練習参加も積極的に

プロ野球界は派手な世界にとらえられがちだ。高代監督がNPBのコーチとして指導してきた頃の主な教え子は、緒方孝市、野村謙二郎(元・広島東洋カープ)、金本知憲(元・広島、阪神タイガース)、荒木雅博(元・中日ドラゴンズ)、福留孝介(元・中日、阪神)など。数人を挙げただけでもそうそうたる顔ぶれだ。

だが、一流選手たちにも苦労の時期があったことを高代監督は知っている。そういった話を今の選手たちにすることも、どこかに限界を感じている。チームの意識改革に向け、高代監督は今、あらゆる策を練っている。

「いつか、プロの練習を見学させてあげたいんですよね。最近はコロナ禍でなかなか難しい部分もあったと思いますが、今はどうなのかな。球団にお願いすれば、練習は見られると思います。ナイターの試合がある日、午後2時からの練習も、見れば何かを得られるんじゃないかな」

試合前の練習は、選手たちが自分で考えて動いている時間がある。「先に1時間走ってから何かを始めるとか、選手それぞれのルーティンもあるし、見ていて勉強になるはず」

阪神時代は鳥谷(1番)や福留(8番)らにアドバイス(撮影・朝日新聞社)

さらに社会人野球への練習参加も、積極的に行っていこうと考えている。長年野球界に携わってきた人脈を駆使し、成長のきっかけを外部にも求める。「やっぱりね、レベルの高い野球を見せたいんですよ。それに、練習であるケースを説明すると、時間がかかるし分かりにくいでしょう。自分1人のエネルギーで表現するのは限界がある。レベルの高い野球を見てもらえれば、実際の場面を例に『今のケースは……』と選手らに伝えられます」

「ボコボコにされるのが目的」の関東遠征

プロ野球の指導者時代とはひと味違う高揚感を胸に、これまで歩んできた。大阪経済大のコーチ時代を含めると約2年半、選手たちは少しずつではあるが成長しているとうなずく。

「それを選手たちに言ったらそこでストップしてしまうから、あえて言いませんよ。成長にはピリオドはないですから」。高代監督は苦笑いを浮かべるが、プロアマを問わず、現在の選手たちによく見られる傾向も指摘する。

「リーグ戦に限らず常に思っているのですが、選手はすぐに結果を欲しがってしまうんです。プロ野球でも結果を求めすぎて、ずっとやってきたことを放り出して、違うことに手を付けて、逆に当たり前のことができなくなる選手がいてね。結局、振り返ったらその選手が一番伸び悩んだんですよ。コツコツと我慢強くやることが大事。こちらも根気良く教えていきたいので、選手たちもそういう姿勢でいてほしいですね。『俺が言ったから良くなった』というのが完成ではなく、『それを続けてこそ完成やぞ』と」

秋のリーグ戦開幕前の夏休み期間に、関東遠征も予定しているという。母校の法政大やかつて所属した東芝など、強豪チームとオープン戦を組んでおり、高いレベルのチームを体感することが狙いだ。

「ボコボコにされるのが目的です(笑)。いい試合をすれば自信にはなりますが、点差がつけば足元を見つめ直すいい機会になる。いずれにせよ、秋につながる遠征になればいいけれどね」

中日時代の高代監督。今はプロで培った人脈を生かす(撮影・朝日新聞社)

直後には秋のリーグ戦が開幕する。

「やること、聞くことすべてが『勉強になります』って選手が言ってくれているみたいだけれど、勉強になるだけで終わったら困るよ(苦笑)。それを実戦でどれだけ生かしてくれるかだよね。監督のサインによって動くのは選手だし、主役も選手。選手を躍らせるためにサインを出しているのに、躍らなかったら勝てるわけがない。サインをポンポンと出した中で、場面を理解して動けるようになって、初めて大商大と良い勝負ができるようになると思います」

絶対王者と互角に渡り合うための「課題」

昨秋に続き、大阪経済大は今春のリーグ戦も2位。絶対王者とされる大阪商業大とは大きな差を感じている。これからクリアしていくべき課題はたくさんある。

「今のままでウチが勝てるとは思えませんが、互角に戦えるようになったら、勝てる可能性は出てきます。下手な野球で負けるのが一番悔しいですから、まずは守備から。確実にアウトを取って、相手に点を与えないこと。そこからでしょう」

昨年の春夏にベストナインを獲得し、昨秋は首位打者にも輝いた下山滉太(3年、桜宮)は一般入試から野球部に入部。「大経大は一般入試でもレギュラーになれる」という口コミが広がり、練習に参加する高校生が増えているという。最近は高校野球界でも元プロ選手の監督が多く、「練習を見に来てほしい」もしくは「見学したい」という声が増えている。

「こちらからも出向くことはあるけれど、そういう声は本当にありがたいよね」

コーチ時代も含めて3年目となった大学野球での指導生活。選手たちと同じ目線を大事にし、決して偉ぶらない。コツコツと着実に、高代イズムは浸透してきている。挑戦する意欲が、衰えることはない。

挑戦への意欲が衰えることはない(撮影・沢井史)

監督として生きる

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