ラグビー

連載:ポストコロナの等身大~東京都立大学ラグビー部物語2023~

残留?降格? 最後に彼らを束ねたミエナイチカラ 東京都立大学ラグビー部物語20完

駒澤大との入れ替え戦を終え、笑顔で記念写真に納まるプロコーチの藤森啓介(前列左端)と部員たち(すべて撮影・中川文如)
【前回記事はこちら】スマホ震わすトライの後、入れ替え戦に張られた伏線 東京都立大学ラグビー部物語19

確かに、右隅の難しい角度ではあった。

でも、彼なら、決めても不思議じゃなかった。

東京都立大学ラグビー部の誇るスーパーブーツ、フルバック(FB)の松本岳人(院2年、所沢北)が左足を振り抜いた。

ゴールキックは左のポストをそれた。

12月10日、関東大学リーグ戦。3部7位の都立大は4部2位の駒澤大学との入れ替え戦に臨んでいた。後半34分のこの時点で22-17。5点をリード。

続くキックオフ。後のない駒澤大がアクセルをふかした。献身のタックルで都立大は踏みとどまる。ただ、シーズンを通じて繰り返された反則グセが、またも顔を出してしまった。じりじり後退。後半40分、トライを許した。22-22の同点。

駒澤大戦の最終盤、ゴールラインを背に防戦一方を強いられながら、ロック加藤洋人(左手前、4年、高津)ら全員が体を張ったディフェンスを貫いた

あの松本のキックが決まっていたら、24-22。まだ、2点をリードしていたはずだった。これから蹴られるトライ後のゴールキックが決まっても、そこでようやく24-24の同点になるはずだった。同点なら3部の都立大が残留を果たすのが、入れ替え戦のルール。あの松本のキックが決まっていたら、余裕十分に、相手のキックの行方を見届けることができていたはずだった。

でも、現実は違った。駒澤大のキックが決まれば、逆転される。しかも、中央寄りの簡単な位置、そこまで駒澤大のキッカーは3本蹴って成功率100%だ。4部降格が眼前に迫る。

祈り、考え、走った

「相手の選手やマネージャーには申し訳ないけれど、どうか、外れてください」。気配りのマネージャー岡田彩瑛(3年、立川)は、スコアをつけながら祈った。

「逆転されるのは仕方ない。残されたロスタイム、どうすれば再逆転できるか」。ゲームリーダーのセンター(CTB)青木紳悟(院1年、川和)、脳内フル回転で策を練り直していた。

「どんなに上手なキッカーも、この場面、絶対、緊張するはず。さっきの僕が、そうだったから」。わずかな可能性を信じて、松本はプレッシャーをかけるため、走った。

様々な思いが交錯したキック。

ゴールポストの右へと、それていった。

ロスタイム。都立大が貫くべきは、献身のタックルを重ねるのみだった。タックル、またタックル。

ノーサイドの笛は鳴った。

引き分けで3部残留をつかみ、抱き合って喜ぶ選手たち。キッカーの責任と向き合い続けた松本岳人(左端)も笑顔

3部残留。伏線は回収された。泣きたいのに泣けない。連敗街道に複雑な感情を抱いてきたマネージャー川添彩加(3年、徳島北)の頰(ほお)を、歓喜と安堵(あんど)の涙が伝う。

コーチも選手もマネージャーも、みんな、抱き合って、みんな、泣いた。

なぜか涙の消えたシーズン マネージャーは泣きたい 東京都立大学ラグビー部物語18
マネージャーも感極まった。唯一の4年生、八木幸音(左から2人目、4年、新宿)をねぎらうのは岡田彩瑛(左端、3年、立川)。川添彩加(中央、3年、徳島北)の目にも涙

ラストゲームだから

それぞれのストーリーに区切りをつけるための、2023年のラストゲームでもあった。

チーム随一のハードタックラー、フランカー渡辺蒼大(院1年、川和)にとって、1年2カ月ぶりの実戦だった。

昨季のリーグ戦で左足首の靱帯(じんたい)を切り、骨も折れた。手術とリハビリに耐え、グラウンドに復帰できたのは1カ月前。この入れ替え戦だけは、どうしても出たかった。なぜなら、シーズンのラストゲームだから。

昨季のラストゲームも劇的な勝利で締めくくられていた。うれし涙に暮れる仲間を、松葉杖にもたれて見届けることしかできなかった。

「最終戦って、雰囲気が違うんです。1年間の集大成だから。このために、やっている。今年こそ、どうしても出たかったんです」

学生として4年間、院生として2年間。スーパーブーツ松本にとっては6年間の集大成だった。

入学した時は選手が40人もいて、ほとんどがラグビー経験者だった。それがいま、学生に限れば選手は25人、ほぼ半数が初心者の小所帯になった。コロナ禍のダメージ、環境の激変、身に染みて味わってきた。「4部に落ちたら、部の存続に関わる」。危機感に突き動かされていた。

最初は頼りなかった1年生、日ごとにたくましくも映った。「最初は世代間ギャップ、ありました。僕が入学した頃より、おとなしいなって。でも、ちょっときっかけをつくってあげれば、ぐいぐい絡んできてくれるんです。うれしかった」

やっぱり、みんな、人のつながりを求めていた。

未来への「裏ミッション」

リーグ最終戦から入れ替え戦に至るまでの3週間。悩めるキャプテン、プロップ船津丈(4年、仙台三)は、ようやく手応えをつかんだ。

声を出すのは自分だけ。そんな練習の空気が、変わった。

「『もっと、こうした方がいいんじゃないですか?』って、1年生や2年生が提案してくれるようになった。上級生も下級生も、選手もマネージャーも、3部残留のため、自分じゃなくてチームのことを最優先に考えてくれた3週間でした」

試合後の円陣、笑顔で語りかける藤森啓介(左)。キャプテン船津丈も肩の荷を下ろした

プロコーチの藤森啓介(38)は、研究を深める組織マネジメントの粋を余すことなく注ぎ込んだ。

勉強に忙しい院生をフル稼働させれば、入れ替え戦は回避できたかもしれない。でも、それじゃあ、次につながらない。リーグ初戦に敗れた時、院生と4年生に「裏ミッション」を伝えた。「下級生や初心者も積極的に起用する」と。

院生の力をマックスで結集させるのは、入れ替え戦。基本は我慢だ。下級生と初心者に、試合という舞台で、経験学習と成長のサイクルをリサイクルさせる。そうやって全体の底上げを図りながら2023年を乗り切れたら、きっと、違った未来が待っている。

もちろん、勝てなければ、選手もマネージャーも不安が募るばかり。だから、日々の練習が終わるたび、笑って集合写真を撮った。みんな、このチームが好きだと思えるように。自分じゃなくて、誰かのために、仲間のために、チームのために、何かをしたいと思えるように。

ボクらの証明写真

入れ替え戦前日の風景は象徴的だった。練習前の恒例、チームビルディングタイム。お題は「学年ごとに集合写真を撮ろう。『自分たちの学年が一番仲がいい』って証明できる写真を」。手をつないでジャンプしたり、Choo Choo TRAINをまねてみたり。選手もマネージャーも、みんな、それぞれに笑顔になれる場所が、この部にはある。その証明写真だった。練習が終わると、フライングで感極まる者がいた。

入れ替え戦前日のチームビルディング。4年生(左上)、3年生(右上)、2年生(左下)、1年生(右下)、どの学年も仲がいい。この関係性が、ミエナイチカラの源だった

そうやってつながれた、一体感。ピンチでキセキを起こす、ミエナイチカラ。そのミエナイチカラが束になって、最後、あのゴールキックを、ポストの外へと押し出した。

入れ替え戦が終わった。2023年のストーリーに、エンドマークがともされようとしている。

円陣で藤森が語りかけた。

「選手もマネージャーも、みんなが主役。いい選手、いいマネージャー、いいチームになったね。コーチはダメだけど」

「いいコーチ!」「いいコーチ!」。部員から合いの手が飛ぶ。

日が暮れていく。昼時の陽気から一転、冬の冷たい空気がグラウンドを包み込む。

2023年の青春を締めくくる記念撮影、いつまでも終わらない。

シアワセとは…

勝敗を超えて、「日本一、幸せなチームになる」。

このチームが掲げた唯一無二の目標だ。

選手も、マネージャーも、気づいた。

自分のためじゃなくて、誰かのために、何かを成し遂げようとする。

みんながそういう気持ちになって、みんなが誰かのために何かを成し遂げることができた時、巡り巡って、自分自身に幸せが舞い降りてくる。

そう、みんなが幸せになる。

それが、幸せのカタチなのだと。

東京都立大学ラグビー部、そんな若者たちが集う場所なのだと。

入れ替え戦前日、最後の練習を終えて集合写真に納まる。アオハルの証明写真

ポストコロナの過渡期の時代。ごく普通の学生たちが、1人のプロコーチに導かれながら、揺らぎと成長を重ねた歩み。ごく普通の学生たちが、勝敗を超えた部活の価値を探し求めた物語。今回で完結です。1年間、ありがとうございました。

ポストコロナの等身大~東京都立大学ラグビー部物語2023~

in Additionあわせて読みたい