ラグビー

連載:ポストコロナの等身大~東京都立大学ラグビー部物語2023~

スマホ震わすトライの後、入れ替え戦に張られた伏線 東京都立大学ラグビー部物語19

駒澤大戦の後半19分、スクラムサイドを突いてトライを挙げる中原亮太。青木紳悟(左端、院1年、川和)、坂元優太(左奥、5年、香住丘)、神保蒼汰(右手前、2年、相模原)、斉藤遼(右端、5年、八王子学園八王子)の分厚いフォローにも支えられていた(すべて撮影・中川文如)

みんなの心に最初に火をともしたのは、たった一人の4年生マネージャーだった。

決戦の日曜日は、冬の日差しがまばゆい昼時に差しかかっていた。12月10日。関東大学リーグ戦3部7位に沈んだ東京都立大学ラグビー部は、上げ潮の4部2位、駒澤大学との入れ替え戦を迎えていた。

キックオフの50分前、ウォーミングアップが始まる。マネージャー10人も選手と一緒に円陣を組んだ。

八木幸音(新宿)が、震える唇で思いを伝える。

「私たちマネージャーは、試合に出ることはできません。でも、選手のみんなに『勝たせてください』とは言いたくない。そうじゃなくて、みんなで力を合わせて、みんなで勝ちたい」

「下級生は『4年生を勝たせて卒業させたい』と言ってくれた。でも、そうじゃない。みんなで力を合わせて、みんなで勝ちたい」

涙を浮かべながら円陣を組む八木幸音。マネージャーたちの思いを代弁した

八木の震える声が、みんなの心を震わせる。何人かの涙腺、もう決壊する。

練習メニューを一つこなすたび、円陣は組まれた。そうやって心の結束を高めていくのが、決戦に臨む時の都立大の流儀だ。円陣が組まれるたび、4年生が感謝と覚悟をスピーチに乗せる。

この一戦、先発を外れた伊藤祥(桜美林)。「僕は3年からの途中入部だったけど、みんな、受け入れてくれた。ありがとう」

寡黙でも体を張ったプレー。背中で示し続けたロック大滝康資(國學院久我山)も泣いていた。「今年は全然勝てなくて悔しくて、でも、このチームでラグビーするのは楽しかった。最後、勝って、笑顔で記念写真を撮りたい」

ムードメーカーのロック加藤洋人(高津)、いつだって笑顔だ。「お前ら、準備はいいか!」

最後、勝てないチームを悩みながら引っ張ってきたキャプテン、プロップ船津丈(仙台三)が叫んだ。

「みんなのことが、大好きだ。先発15人は、試合に出られない選手とマネージャーの思いを背負って戦おう。試合に出られない選手とマネージャー、大きな声で応援してほしい。絶対、勝とう」

決戦の幕開けを告げる笛の音が、冬の青空に響いた。

パントの雨に打たれても

前半17分、ペナルティーゴール(PG)で3点を先制される。のしかかるプレッシャー、それまでのリーグ戦とは質が違った。選手たちの動きが硬い。ひときわ表情がこわばっていたのは、ウィング(WTB)の大森拓実(1年、日野台)だった。

コロナ禍と少子化の打撃が深刻な部員不足。楕円(だえん)球と初対面の新入生にも広く門戸を開き、「初心者過半数」でスタートしたチームを象徴する一人だった。細身の体で、「ラグビー、やっていけるかな」。サッカーから転向した初心者の彼もまた、悩みながらシーズンを過ごしてきた。

足技はサッカーの応用が利いても、ハンドリングは苦手。そこを駒澤大に狙われた。ハイパントが集中的に降ってくる。捕球ミスを誘う作戦だ。

パントの雨に打たれながら、アップで目の当たりにした先輩たちの姿が脳裏に浮かぶ。泣きながらタックルバックにぶつかる選手、見守るマネージャーの真っ赤な涙目。その姿がまた、プレッシャーを増幅させる。「絶対、ミスできない。普段は緊張なんてしないのに……」

待てよ。

「それほど、この都立大ラグビー部は、自分にとって大切な存在になっていたんだ。だから、緊張するんだ」

吹っ切れて、チャンスを切り開いた。

前半21分、鋭い突破でチームを勢いづけた大森拓実。背後でピタリとフォローするのは加藤洋人(左端)

前半21分。中盤でパスを受け、得意のステップを踏む。長駆、抜け出した。「先輩たちのためにも」。ゴールラインまで、あと5m。波状攻撃からフッカー高尾龍太(院1年、高津)がトライ。ゴールも決まって7-3と逆転。

みんなの動き、ほぐれてきた。ただ、上げ潮の駒澤大、やっぱり難敵だ。

プライドの証明

前半36分、さらに後半8分。いずれも痛恨の反則を犯し、ラインアウト起点で連続トライを許す。7-17、スコアを離されていく。同じパターンで重ねた失点は後味が悪い。「メンタル、落とすな!」。そんなかけ声は、メンタルが落ちてきた裏返しでもある。

悪循環を断ち切ったのは、フォワード(FW)たちのプライドだった。

試合前も、ハーフタイムも、チームを導いてきたプロコーチの藤森啓介(38)は鼓舞していた。「都立大のプライド、見せてやろう」。このチームのプライド、それはすなわち、こだわって磨き上げてきたスクラムだった。

序盤は一進一退だったこのプレーを、徐々に都立大が制圧しようとしていた。高尾は感じていた。「練習にOBが集まって、相手役を買って出てくれた。そこで見つかった課題を修正して、うまく生かせている」。まさに、オール都立大でスクラムを組み上げていた。

都立大のプライドが詰まったスクラム。第3列のフランカー、渡辺蒼大(手前、院1年、川和)も推進力を与える

後半19分、勝負の時は来た。

敵陣ゴール前で相手が反則。速攻か、ラインアウトか、それともスクラムか。選択肢は三つ。藤森が船津に問いかける。「スクラム、いける?」。船津が手を上げて、うなずく。

船津、高尾、そして間庭聖貴(2年、熊谷)。堅固にまとまった最前列の3人を、残る5人が後押しした。ぐいっ、ぐいっ。たまらず相手が再び反則。こうなれば、こだわり抜くだけだ。チョイスは再びスクラム。再び、ぐいっ、ぐいっ。ナンバー8中原亮太(3年、湘南)がボールを持ち出し、インゴールにトライをねじ込んだ。

2年生も、3年生も、レギュラー争いに絡む選手が少なくて、コーチ陣から発破をかけられてきた学年だった。「意地がありました」と間庭。3年生は選手が2人に減った時期もある。「人数が少ない分、自分がやらなきゃって」と中原。そんな反骨心も詰まったトライだった。

カウントダウンの行方は…

ラグビーという力勝負で、力勝負の神髄でもあるスクラムの優劣は試合の空気を左右する。流れは一気に都立大へ。トライ後のゴール、後半25分のPGをフルバック(FB)松本岳人(院2年、所沢北)が難なく決めた。17-17の同点に追いつき、その10分後。3度目の歓喜は訪れる。

敵陣ゴール前、右隅のラインアウト。FWがボールをこぼして相手に渡してしまった。スクラムで勇気づけてくれたFWのミス、取り返すのはバックスだ。カウンターから大きく左へ。一転、右、右と揺さぶって、センター(CTB)萩原唯斗(1年、國學院久我山)が右中間にダイブした。

後半33分、萩原唯斗が勝ち越しのダイビングトライ。外側をフォローしたのは松本岳人(右)

自身、公式戦、初トライ。「ずっと、FWが前に出てくれていた。今度こそ、バックスの僕が決めなきゃ」。ずっと、意を決していた。

その瞬間、マネージャーの丁野真菜(3年、厚木)がスマホで撮影していた試合の動画は、大きく冬空へとぶれた。手の震えは止まらない。画面が選手をとらえ直しても、やっぱり、ぶれぶれだ。グラウンドを包む大歓声、そして丁野のすすり泣きが、歓喜のトライのBGMになっていた。

22-17。5点のリードを奪って、残り時間は5分を切った。

みんなの心の奥底で、3部残留へのカウントダウンが刻まれる。

ただ、いつの年も、都立大の決戦はクライマックスにドラマが待っている。うれしい逆転勝ちも、悔しい逆転負けも、ラストプレーが勝敗を分けてきた。

2023年のクライマックス、いかに。

歓喜のトライの後。実は、高精度を誇る松本のゴールキックが珍しく外れていた。

そこに、伏線は張られていた。

勝ち越しトライがもたらした歓喜。でも、その後のゴールキック失敗が伏線となって……

どんなクライマックスが待っているのか。残留か、降格か。選手は、マネージャーは、部活から何をつかんだのか。12月22日配信予定の最終回でお届けします。

ポストコロナの等身大~東京都立大学ラグビー部物語2023~

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