サッカー

連載:監督として生きる

仙台大・平山相太監督(下) 恩師・小嶺忠敏氏から受け継ぐ「指導者=教育者」の信念

仙台大・平山相太監督の指導法は高校時代の恩師・小嶺忠敏氏の影響を受けている(撮影・川浪康太郎)

今回の連載「監督として生きる」は、仙台大学サッカー部の平山相太監督(38)です。かつて「怪物」と呼ばれたストライカーは2018年に現役を引退し、その後は大学や大学院に通いながら指導者としてのキャリアを積みました。指導者歴7年目を迎える今年の2月、以前コーチを務めていた仙台大の監督に就任。大学という場所で第二の人生を歩むことになった経緯と決意に迫りました。後編では「指導者・平山相太」の原点と将来像を探ります(以下、敬称略)。

仙台大・平山相太監督(上) 高校サッカー界の怪物が大学で伝えたい「準備」の大切さ

目指すは「東北の大学サッカーといえば仙台大学」

「仙台大学サッカー部を、全国に名をはせるチームにしたい。『東北の大学サッカーといえば仙台大学』というのは十分伝わっていると思うので、全国でも強いと言われる存在になりたい」

平山に新監督としての意気込みを問うと、力強い言葉が返ってきた。

仙台大は東北地区リーグ17連覇中の強豪校。13年連続でJリーガーを輩出しており、昨年は歴代最多の5人がJリーグ入りを果たした。一方、全国大会では頂点に立った経験がない。昨年も夏の総理大臣杯全日本大学サッカートーナメントはベスト16、冬の全日本大学選手権(インカレ)はベスト8にとどまった。まずは全国大会で昨年を上回るベスト4入りすることを目標に定めている。

殻を破るために必要なのは、「基準」を理解すること。「守備の距離感やボールの扱い方などにおいて、いろいろな基準がありますが、そこを分かっていない選手が多いと感じています。指導者がもっと明確に基準を提示してあげないといけない」。選手一人ひとりと対話しながら、それぞれに求めることを伝えていくつもりだ。

まずは昨年の成績を上回ることが目標だ(撮影・川浪康太郎)

自分で考えて、自分で決められる選手になってほしい

平山は現役引退後に入学した仙台大でコーチとして指導者デビューし、2022年に筑波大大学院に進学してからもサッカー部でコーチを務めた。昨年は筑波大の6年ぶりとなる関東大学リーグ1部優勝に貢献。時間をかけ、着実に実績を積んできた。大学院を修了し、一度立ち止まって自身の将来を思い描いた時、かねて抱いていた「指導者=教育者」という信念が揺らいでいなかったため、仙台大に戻る決意を固めた。

指導者になった当初は「選手の時に考えていたことと指導者になってから考えることが全然違う」ことに驚いた。「グラウンドに来て、練習して帰るだけだった」現役時代と違い、指導者は「グラウンドに誰がいて、誰が何をできていないか」「この人数ならどんな練習ができるか」など、あらゆることを考えなければならない。経験を重ねるうちに少しずつ身につけていった。

国見高校(長崎)時代の恩師である小嶺忠敏氏(享年76)の存在は、指導者・平山相太にも大きな影響を与えた。「小嶺先生は、サッカーは長い人生の一部でしかないことを教えてくれました。その上で、サッカーに対する姿勢や取り組みには妥協を許さない指導者でした」。当時の記憶を胸に刻み、小嶺監督のような「サッカーを通して人を育てる指導者」になると誓った。「指導者=教育者」の信念も、小嶺監督と出会ったからこそ生まれたものだ。

「サッカーを通して人を育てる」とはどういうことか。平山は「サッカーは試合中に同じシチュエーションになることがほとんどない。自分の頭で考えて、自分で決められる選手に、人になってもらいたい」と強調する。小嶺監督から教わった、礼儀作法をはじめとする社会人として必要なことを身につけさせるのはもちろん、サッカーをプレーするからこそ磨かれる人間力もあると平山は考えている。

仙台大の監督になる前は筑波大で選手を教えていた(撮影・照屋健)

選手のプレーを尊重し「トライ」する気持ちをつくる

「失うものはない。果敢にトライしてほしい」。平山は取材中、「トライ」という言葉を繰り返し口にした。ただ単に選手にトライを求めるわけではない。「自分は『選手が主役』という認識を大事にしています。練習は選手がつくるもの。試合でも最後は選手が決断してプレーを実行する。サッカーはミスのあるスポーツなんですけど、選手のプレーをどれだけ尊重してあげられるか、選手がトライする気持ちをいかにつくれるかを意識しています」。それを引き出すことこそが、指導者の仕事でもある。

さらに、20歳近く年下の選手と接する中で気づいたこともあった。「やらないといけないこと、マストなことを、『やらないといけないからやれ』と言ってやらせるのは今の学生には合っていないと思う。納得してやる方が吸収は早いので、一方的にならないよう、対話するようにしています」。確固たる信頼関係を築くため、選手の声に耳を傾けるよう心がけている。進路に関しても、プロを目指す選手を全力で後押しする一方、「楽しくサッカーをやりたい選手は楽しくやればいい」とそれぞれの意思を尊重する。

4月からは教員としてのキャリアもスタートする。指導者であり、教育者である平山の「トライ」はこれからも続く。

指導者として選手が「トライ」する気持ちを引き出すことに努める(撮影・川浪康太郎)

監督として生きる

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