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連載:監督として生きる

大阪学院大・中村良二監督(上)天理時代と異なる選手たちの境遇、当時が役立つ考え方

今季から大阪学院大学野球部の指導にあたっている中村良ニ監督(撮影・沢井史)

今回の連載「監督として生きる」は今季から大阪学院大学で指揮を執っている中村良二監督(56)です。天理高校出身で、プロの世界でも11年間プレー。母校の監督を務めた後、今年2月10日から大阪学院大の監督に就任しました。2回連載の前編は、これまでの指導者キャリアとの違いや手の届くところから進める〝改革〟についてです。

「これだけ短期間でチームは変わるのか」と驚き

今春の関西六大学リーグ戦最終節を終え、ベンチを引き揚げた中村監督にリーグ5位となった初めてのシーズンについて尋ねると、丁寧な語り口でこう振り返った。

「一言で言えば学生たちはよくやったと思います。結果は2勝9敗でしたけれど、2勝以上の試合内容もあったし、9敗しましたけれど、9敗の中でも良い経験ができた9敗だったと思うので、僕の思う以上にしっかりした11試合をやってくれたと思います。『これだけ短期間でチームは変わるのか』とびっくりしています。選手らは『勝ちたい、うまくなりたい』と。そういう気持ちを持っているんだと感じさせられました」

天理高校時代は主将として1986年夏の甲子園で優勝。近鉄と阪神で計11年間プレーするなど、関西の野球ファンの記憶に刻まれてきた選手でもある。現役引退後は少年野球チームを指導し、2008年8月から天理大学の監督となった。その後、14年2月に天理高校のコーチとなり、15年8月に監督就任。17年夏、21年春と甲子園でベスト4に進出するなど、計4回、母校を聖地に導いた。

天理高校時代には1986年夏の甲子園で優勝を果たした(撮影・朝日新聞社)

コーチ時代も含めると、10年近くになる母校での指導を離れて今年2月、大学野球界へ10年ぶりに復帰する運びとなった。

気持ちと行動一つで環境は変えられる

大阪学院大が加盟している関西六大学リーグは近年、大阪商業大学が圧倒的な強さを誇っている。そこへ好投手をそろえる大阪経済大学や京都産業大学などが追随している。この構図は、中村監督がかつて天理大で指導していた頃の阪神大学リーグによく似ているという。

「大商大さんや大経大さんが、僕がいた時の阪神大学リーグで言えば、投手力の高い関西国際大さんや大阪体育大さん。龍谷大さんや京産大さんが、大産大さんみたいな……。あれから10年以上経って、投手のレベルは今の方がかなり上がっていますけれど、それでも当時の関西国際大さんや大阪体育大さんの投手力はかなり高かったですよ」

中村監督が天理大の監督に就任した当時は2部に所属していた。翌春のリーグ戦で1部昇格を果たすと、13年春には1部優勝を果たし、全日本大学野球選手権で1勝を挙げた。

大阪学院大は近年のリーグ戦で4位が2度、5位が今春を含めて4度、6位は2度と低迷が続いているが、天理大の監督就任当時も2部だったため、当時のことがよく頭の中をよぎるという。

「天理高校のコーチに就任した頃も2年連続で甲子園に出場できなかったですし、僕はそういう巡り合わせに遭う運命なのかなと(苦笑)。ただ、大阪学院大の現状のレベルから、周りの大学をどう追い越していけるかを考えていくと、天理大時代のことは役立っているんです」

2017年夏の甲子園では天理高校をベスト4に導いた(撮影・朝日新聞社)

その一つが、気持ちと行動一つで環境を変えられるという考え方だ。「試合は相手がいることなので、いつ勝てるのか分からないですが、勝てるチームになるには、環境がまとまらないとなれないと思っているんです。うちは練習時間が短いので、その中で効率良く練習していく。全体練習でもミスを許さない雰囲気の中で、ミスが出てもそれを補えるチーム力をつけていく。そういう環境に学生たちが浸透していけば、おのずと強いチームになっていけると思います」

全国大会に出て「恥ずかしくないチーム」をめざし

春のリーグ戦後、11試合分のスコアをすべて分析し、敗因を探った。失点したのは27イニング。そのうち19イニングで四球とエラーが絡んでいた。

「エラーと四球を減らすだけで失点は減らせる。じゃあ、減らすにはどうすればいいのか。練習の環境を変えていけば、そこはクリアできる。そういう部分に目を向けて練習をしていこうと言いました」

中村がまず着目したのが〝まとまり〟だった。監督就任以降もそれまで通りに統制を重んじる中、どうしても気になることがあった。

「練習で着用するチームのTシャツが、うちは水色、白、紺と3色あるんですけれど、練習のたびに各学年が着ていた色がバラバラだったんです。まるで合同チームみたいで……。大阪学院大はチームカラーが紺。それをベースにウェアを着た方がいいと思っています。僕は統一感を気にするんですよ。色がバラバラだとちょっと手を抜いているような雰囲気にも見えてしまって……」

選手たちには「君たちが会社の採用担当だったら、こんな統一感のない、やる気も見えない練習をしている学生を採用したいと思う? 今、それに近いよ」と伝えた。すると翌日からは、同じ色のTシャツを着て練習するようになった。「アップの雰囲気も良くなったんです」と早速手応えを感じた。

まずはチームの統一感を出すところから改革を始めた(撮影・沢井史)

手が届くところから改革を進め、ミーティングを重ねることで、それまでやる気を表に出さなかった選手たちも、少しずつ同じ方向を向くようになった。

「以前は練習を無断で休んだり、遅刻したりする選手が多かったんです。でも、社会に出れば、それはあるまじき行為。今は、ちゃんとやろうとする学生が普通になって、やらない学生が浮いて見えるくらいになりました。そういう子たちを切り離すのは簡単だけれど、『みんなでしっかり良い形を作れるようにしよう』という話もしました」

根底には、大阪学院大が全国大会に進んだときに「恥ずかしくない野球部にしたい」という思いがある。「礼儀、行動から、プレー、実力も含めて。『個々の責任のもとで、大学生らしくもっともっと考えて行動しないといけないね』と。そういう話をすればするほど、チーム内の雰囲気が変わっていくのを感じました」

全国に出ても「恥ずかしくない野球部にしたい」(撮影・沢井史)

平日の全体練習が朝7時からになる理由

天理大学と天理高校では、部員全員が寮生活を送っていた。全員が生活をともにしていれば、たとえば練習の開始時間を決めただけで、練習前のグラウンド整備の開始時間も足並みをそろえやすい。ただ、大阪学院大は野球部の寮がなく、通学生がほとんどで、一般の寮や下宿生活をしているのは3、4割。授業との兼ね合いや付属の大阪学院大高校が練習でグラウンドを使う影響もあり、平日の全体練習は朝7時から行っている。そもそも全員一斉に早朝からグラウンド整備をするのが難しい。

「朝7時から練習するとなると、グラウンドには6時45分ごろには到着しなくてはなりません。遠方から来る学生もいますから、全員で一緒に、とはいかないんです。その後9時には授業が始まるので、抜けてしまう学生が出てきます」

授業の空きコマ時間に、自主練習をする学生もいて「どうしてもバラバラになりやすいんです」。天理時代とは異なり、ここでは様々な制限の中で野球を続けることが求められる。「目標を達成しようと思うのなら、それぞれの意識が高くないと難しいんですよね」。中村監督は、選手の意識向上が何より大事だと感じている。

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監督として生きる

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