ラグビー

連載:令和のアオハルリアル~東京都立大学ラグビー部物語2024~

マネージャー、結果にコミットする 起業→課長の謎 東京都立大学ラグビー部物語3

今年からスコア係を任される高橋果帆(2年、長崎北陽台)。ルールに精通しなければ正確なスコアは記せないから、勉強の日々だ。マネージャーもそれぞれの立場で、選手と一緒に戦っている(撮影・中川文如)

この春、東京都立大学ラグビー部のマネージャーたちは、「課長」になった。

「社長」と「部長」はコーチ陣。選手たちは、「社員」。

れっきとしたフィジカル強化の一環だ。

新チームが船出した冬の終わりだった。今年の課題、何だろう。部員たちは話し合った。

いの一番に挙がったのが、フィジカル不足だった。

それは、都立大にとって積年の課題でもある。強豪校からの進学組は少ない。ここ数年、ラグビー未経験者にも広く門戸を開いてきた。鍛えれば鍛えるだけ成果に反映されるのが、フィジカル。裏返せば、筋トレや走り込みに向き合った量と質は、如実にフィジカルに表れる。つまり、高校までの蓄積に乏しい都立大の選手たちのフィジカルレベル、4年間のスタート地点から大きなマイナスを強いられるのが常なのだ。

特に、細身の面々がそろうバックスのフィジカル不足は深刻だった。

丁野真菜(左)、コーチの掛井雄馬(右)、そして北澤寧々(2年、帝塚山)は「株式会社バックス」のコアメンバー(撮影・中川文如)

とある練習でのこと。バックスの練習サポートを任される丁野真菜(4年、厚木)らが、何の気なしに、ほんの雑談程度で、バックスコーチの掛井雄馬に話しかけた。

「今年もフィジカル、鍵ですよね」と。

掛井の答えはこうだった。

「じゃあ、もっと、マネージャーもコミットしよう!」

コンサルタント業務などに精通するビジネスパーソンでもある掛井の脳が回転する。提案は続く。

「『株式会社バックス』を立ち上げよう。課長(マネージャー)は社員(選手)のフィジカルを、しっかり管理するように!」

試合に出られなくても

けがの手当て、テーピング、水や道具の準備はもちろん、マネージャーの大切な仕事だ。ただ、そこにとどまらなければならない理由はない。マネージャーは、文字通り、もっと、選手をマネジメントしていいのだ。どこぞのキャッチコピーではないが、「マネージャー、結果にコミットする」。そんな発想だった。

「担当マネージャー制度」を敷いた。マネージャー1人につき、選手2人の担当を受け持つ。選手は担当マネージャーやコーチと相談しながら、ウェートトレーニング、体重、持久力を高めるランニングメニュー「ブロンコテスト」の目標値を設定する。

この3点セットの記録を毎月、エクセルで部内共有する。目標値と実際の数値の乖離(かいり)を見極めながら、マネージャーは担当選手の自主練や食事の量と質に、コミットする。そうやって責任の所在を明確化する建てつけだ。

努力の跡と課題が詰まったエクセルシート(提供・東京都立大学ラグビー部)

以前からウェートの数値共有はしていた。それを一歩、二歩と推し進めるのが「株式会社バックス」の狙い。「フォワード(FW)も、やろうよ」。そんな声が自然発生して、「マネ=課長、社員=選手」の体制は全体に広まった。マネージャー16人の大所帯が、強みになった。

会社設立発起人の一人、丁野にとって、長く胸の内に抱えてきたジレンマを晴らすためのチャレンジでもある。

「マネージャーは、試合に出ることはできない。それでもチームの勝利に貢献したいって、みんな、悩んでいるんです。そのためにできることって、何だろう。ずっと、探してきました。このチャレンジ、その一つの答えになるかもしれないって」

LINEグループがたくさん……

選手、マネージャーという立場の壁、学年の壁を超えて、一つのチームとして結束する。自分のことしか頭になくて、自己チューに走るのではない。立場に関係なく、一人ひとりが主体的に、仲間のために行動できる文化をつくる。自分ではない、誰かのために。それが都立大ラグビー部の掲げるアイデンティティーであり、めざす場所だ。だからコロナ禍まっただ中の時も、オンラインミーティングでチームビルディングを重ねてきた。マネージャーも一緒に。

その過程で、歴代マネージャーたちは、考え続けてきた。勝つために、私たちにできることって、何だろう。その問いに、より直接的にアプローチできるチャレンジが、彼女たちが「課長」の職務をまっとうすることなのかもしれないと。

担当ごとに、いくつものLINEグループができた。ウェートの数値が停滞してしまったら、担当マネージャーが「どうしたの?」と問いかける。体重が落ちてしまったら、食事の質と量を一緒に考える。そんなコミュニケーションが選手たちの背中を押していった。

めきめきとフィジカルアップを続ける関日向(2年、狛江)。線が細かった1年前の面影は消えた(撮影・中川文如)

丁野の担当選手の一人、関日向(2年、狛江)は身長168cmの小柄なスクラムハーフ(SH)。昨年のシーズン終了時、体重は68kgだった。それじゃあダメだとオフにジム通いを続けた。株式会社バックスが設立されて、さらに意識は高まった。

いま、体重は73kg。ベンチプレスのマックス値は入学時の60kgから90kgまで伸びた。ただ、目標の100kgには、まだまだ。

「いろいろと気にかけてくれるマネージャーのためにも、という気持ちは強まりました。練習がオフの日も、同期と誘い合ってジムで筋トレしたり」

ダンサーは誰かのために

ところで、丁野の夢は理学療法士だ。きっかけは、厚木高時代に打ち込んだチアダンス。全国大会で2位になった。あの紅白歌合戦からオファーが届き、高校の先輩「いきものがかり」のバックダンサーを務めたこともある。筋金入りの、ダンサーだ。

その過程で、人の体の仕組みや動かし方、骨格や筋肉の構造に興味を抱き、理学療法士を志した。「でも、最初は、どこか漠然とした夢だったんです」

それが、都立大の理学療法学科で実習を重ね、ラグビー部の時間を過ごすうち、変わった。お年寄り、産前産後の女性。人には人それぞれの体の悩みがある。その悩み解消の助けになることができるように、理学療法士として働きたいと。

そう、自分ではない、誰かのために。

理学療法士の勉強と部活を両立させる丁野真菜。めざす夢の輪郭は明確になってきた(撮影・中川文如)

次回は7月5日公開予定。チームは最初の試練を迎えます。マネージャーたちは、次なる新たなアクションを起こします。

令和のアオハルリアル~東京都立大学ラグビー部物語2024~

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