昭和浪漫でノリノリって? 僕が「チーム」で燃ゆ理由 東京都立大学ラグビー部物語2
昭和の時代にヒットした歌謡曲のタイトル風に言えば、新歓は今日も雨だった。
東京都立大学ラグビー部の2024年の新歓は、雨にたたられた。
昨年は150人が集った一大イベント、バーベキュー大会。今年は朝から雲行きが怪しかった。参加者は2割減の120人。途中で帰ってしまう新入生も目立った。誰でも大歓迎の練習体験会「キックコンテスト」に至っては、たったの参加4人。もちろん、雨だけが理由じゃないのだけれど。
昨年の新歓終了時は、初心者9人を含む選手14人が入部を決めてくれていた。今年の目標は「20人」。結果は、その半数を辛うじてクリアする11人だった。
ただ、不思議な現象が起きた。
貴重な貴重な11人のうち、ラグビー経験者が8人を占めたのだ。
部員減に歯止めをかけるため、コロナ禍まっただ中の2022年から「初心者重視」にかじを切っていた。だって、経験者のパイが小さすぎるから。それが今年、初心者勧誘が伸び悩んだ代わりに、経験者たちが部のドアをノックしてくれた。
コロナ禍に見舞われる前なら、至って普通だった景色。ラグビーの「ラ」の字も出さず初心者を呼び込んで友達づくりから始めてもらうはずが、「ラ」の字の次の次のその次まで経験済みの1年生が集まった。
高橋名人の自信
「『あ、君も経験者?』『え、君も経験者?』って感じで、気づいたら、経験者、経験者、経験者って、つながっていった」
新歓の中心を担った一人、高橋一平(3年、海老名)は、その不思議な現象に驚いた。
高橋自身は大学でラグビーを始めた初心者だ。
物心ついた頃から、体を動かすのが好きだった。水泳と剣道に打ち込んだ。両方とも練習はキツいのだけれど、「キツいからこそ、やりがいを感じてもいた」。
通っていたスイミングスクールで、3級、2級、1級のその先にある「名人」との段位を獲得した。まさに高橋名人。同時並行で通う剣道クラブでは小学6年生でキャプテン、中学の剣道部は3年生で部長を任された。水泳一本に絞った海老名高でも、1学年上の先輩たちが引退する時、言われた。「次の部長、お前な」って。
「水泳も剣道も、自分なりに練習方法を考えて『こういう風にやってみようよ』って仲間に提案したり、積極的に声を出そうって心がけていました。そういう姿勢を、評価してくれたのかも。キャプテンや部長を任されるたび、自信がつきました」
ただ、コロナ禍まっただ中の高校時代、その自信の成果をプールで披露することはほとんどなかった。感染防止のため、泳ぐのは禁止。マスクをつけたまま廊下で筋トレして走るくらいしかできない。1、2年生の時の記憶、ほとんど、それしか残っていない。
まともな大会に出場できたのは、高3の最後の夏だった。地域の大会の団体戦で優勝した。「それぞれのレースで1位になれた選手はいなかったんだけど、みんな、粘って2位とか3位になって、その成績を合わせて団体戦でトップになれたんです」
団体戦パワー
振り返れば、剣道人生でも水泳人生でも不思議な現象が起きていた。
両方とも基本は個人競技。で、個人戦では勝てないのだけれど、団体戦になると、不思議と体内にパワーがみなぎってくる。「僕がダメでも、先輩がカバーしてくれる。仲間のためにも、僕が勝たなきゃ。不思議と、そんな気持ちになって、思いっきり戦えたり泳げたりできたんです」
だから、大学に進んだら、チームスポーツにチャレンジしてみたい。そんな思いが日に日に膨らんだ。
その思いは、高3の体育祭で決定的になる。
海老名高の体育祭の一大イベント、ダンス大会。ダンス素人なのに、120人ものチームのリーダーに指名された。ダンスに詳しい女子に教えを請いながら、みんなでああだこうだと試行錯誤して、ゼロからオリジナルダンスを創り上げた。テーマは、なぜか、「昭和浪漫」。荻野目洋子さんの「ダンシング・ヒーロー」、少年隊の「仮面舞踏会」。ノリノリの昭和ポップスをつなぎ合わせて、本番でノリノリに踊りきった時、心の底から感じた。
みんなで一つになって、一つのゴールをめざす。みんなで一つになって、何かを創り上げる。それって、素晴らしいことなのだと。
そんな高揚感に浸っていると、たまたま、1枚の写真がSNSから目に飛び込んでいた。暑苦しい男たちが、みんなで、熱く、一つのボールを奪って、前に運ぶ、ラグビーの写真だった。「これだ!」。ラグビーのラの字も知らなかったけれど、直感で決めた。
いざ、始めたラグビー。熱くてキツいだけじゃなくて、難しかった。「考えて考えて考えなきゃ、できないスポーツなんだって実感する日々」。最初はバックスに配された。コーチの藤森啓介(38)に口酸っぱく言われたのは、「次の次の、その次の展開まで読まなければ、有効なプレーはできないんだよ」。初めて触れた楕円(だえん)球のパスやキックに四苦八苦しながら、脳内もフル回転させなければならない。頭も体も、こんがらかった。
上級生になった今年、フォワード(FW)に転向した。ポジションはロック。スクラムの真ん中で、ラインアウトのジャンパーとして、体を張る役割だ。控えに甘んじた昨年までとは打って変わって、主力の働きを求められそう。「バックスより、考えなきゃならないことは絞られている。いまの自分に向いている気がします。まだ、わからないことばかりだけれど」
1年生って頼もしい
頼りになるのは経験者の存在だ。わからないことがあれば、とにかく経験者に聞く。先輩はもちろん、後輩にも聞く。入ったばかりの1年生の経験者にも、恥ずかしがらず、何でも聞く。「面倒そうな顔一つせず、何でも教えてくれる。頼りになる後輩たちです」
その代わりと言っては何だけれど、後輩の初心者たちの気持ちがよくわかる。頭も体もこんがらがりがちな、後輩たちの気持ちが。「パスって、やっぱり難しいよね」「大丈夫。オレだって、できるようになったから」。何げなく話しかけながら、こわばる気持ちを、ほぐそうとしている。
先輩も後輩も、高校時代のバックグラウンドも、関係ない。いろんな色のみんなが一つになって、何かをめざしたい。そういう時間を体感したくて、高橋は都立大ラグビー部のドアをノックした。
ドアを開けたら、思い描いた通りの濃密な時間が待っていた。
その時間、あと2年足らず。
次回は6月21日公開予定。選手たちは、マネージャーたちの力を借りながら、マネージャーたちを頼りながら、ある課題の克服に取り組んでいます。