ラグビー

連載:令和のアオハルリアル~東京都立大学ラグビー部物語2024~

PDCA回った夜 マネージャー、結果にコミットした 東京都立大学ラグビー部物語4

4年生マネージャーの川添彩加、岡田彩瑛、丁野真菜(左から)。最上級生として迎えるラストシーズンに、彼女たちもかけている(撮影・中川文如)

東京都立大学ラグビー部にとって、春のシーズン最大のターゲットは東京地区国公立大学体育大会だ。文字通り、東京近郊の国公立大がトーナメントで頂点を争う。

東京海洋大学との初戦に45-19と快勝した都立大。続く準決勝の相手は東京学芸大学だった。

6月2日。激しい雨が降り注ぐ、アウェーの学芸大グラウンド。2024年のチームにとって、最初のターニングポイントが待ち受けていた。

7-52、完敗。

高校からの経験者、それもかなりのレベルの経験者をそろえた学芸大は、都立大にとって掛け値なしに格上の相手だった。個々の技術や判断力で劣るのは、やむを得ない。ただ、それ以上に、フィジカルの差は深刻だった。密集戦で押し込まれるだけじゃない。はじき飛ばされるように、タックルを外され続けた。

これでは試合にならない。春の最大のターゲットへの挑戦は、尻すぼみの幕切れに終わった。

雨中の一戦で学芸大に敗れ、厳しい表情を浮かべるキャプテン中原亮太(手前)ら都立大の選手たち(撮影・中川文如)

募る危機感。4年生の選手とマネージャーは話し合った。「一度、ミーティングを開いた方がいいのかも。自分たちがやるべきことについて、みんなで、目線を合わせし直した方がいいのかも」

実は試合前から、下級生も含めたマネージャーたちはミーティングの必要性を感じていた。課題のフィジカルを強化するため、この春から導入した「担当マネージャー制度」。マネージャー1人につき、選手2人の担当を受け持ち、ウェートトレーニングの数値や体重の増減にコミットして進化を促す取り組みだ。1年生が加わって、1人対2人の責任体制は4、5人ほどの班体制に移行していた。

これ、果たして、機能しているのだろうか?

夏合宿、そして秋の関東リーグ戦3部に向け、最初の中間レビューの必要性を感じていた。

その思いに惨敗が重なって、緊急ミーティングは敢行された。

南大沢の熱い夜

学芸大戦の4日後、6月6日。都立大、南大沢キャンパスの夜。

とある教室に、みんなが集まった。キャプテン中原亮太(4年、湘南)が問いかける。秋のリーグ戦を戦い抜くために、足りないこと。フォワード(FW)はあれとあれ、バックスはこれとこれ。選手目線で課題を列挙して、最後、やっぱり、フィジカル不足に行き着く。

議事進行のバトンを受け取ったのは、岡田彩瑛(4年、立川)。マネージャー16人を束ねる「マネ長」だ。同期の丁野真菜(4年、厚木)、川添彩加(4年、徳島北)と協力して、一晩かけてパワポで練り上げた14枚のスライドを映し出す。

選手たちへの叱咤(しった)激励と、マネージャーたち自身の悔恨に満ちたプレゼンが始まった。

タイトルは、「TMUSCLE」。最初の3文字、T、M、Uは、都立大(Tokyo Metropolitan University)の英語の略称でもある。その3文字に引っかけて、ティーマッスル。選手のフィジカル強化にマネージャーがコミットするこの取り組みを、そう名づけた。

ワーディング、なにげに大切だ。その取り組みをキャッチーな一言に昇華させることができれば、意識が緩みかけた時、いつだって、誰だって、思い出せる。ティーマッスルとつぶやけば、いつでもどこでも、フィジカルの重要性を手っ取り早く再認識できる。

で、ティーマッスル、本当に機能していたのか?

いよいよ、詳細なレビューへ。

TMUSCLEのPDCA(提供・東京都立大学ラグビー部)

そもそも、目的って何だったっけ?

チームの一番の課題であるフィジカルに対して、選手個人に委ねるのではなく、マネージャーも一緒に取り組んで、チーム全体で強化を図る。

担当制度の導入により、選手とマネージャーのコミュニケーションを増やし、チーム力の向上につなげる。

その理想のカタチは?

【Plan】目標値の設定と、その数値に対する具体的なアプローチの検討。

【Do】アプローチの実行と測定値のエクセル記入。

【Check】目標値と測定値の比較、アプローチについての反省、コーチからのアドバイス。

【Action】アプローチと意識の改善、目標値の再設定。

このPDCAに、選手とマネージャーが一緒になって取り組む。

現実は?

【選手】アプローチについて自主的に反省できていない。エクセルへの測定値記入漏れが多い。そうしたルーティンを超える取り組みが少ない。

【マネージャー】選手とのコミュニケーションが少ない。エクセルシートへの記入を促すことだけが目的になっている。数値の変動に対する感度が鈍い。

超・学生レベル

むむむ、振り返れば、選手もマネージャーも反省ばかりだ。でも、ポジティブな試行錯誤を繰り返す班もある。相澤穂香(2年、朋優学院)と林瞳俐(あいりい、1年、立命館慶祥)が仕切る5人組は、選手の食事の写真をLINEで共有して不足しがちなメニューを提案し合ったり、何なら一緒にご飯に行ってモリモリと栄養を摂取したり、明るく楽しいフィジカル強化を模索していた。

相澤と林が率いる班のアプローチを広げ、それを超えていこう。そうやって、みんなでフィジカルとチーム力のアップを導こう。

そんな風に、岡田のプレゼンは締めくくられた。

選手たちは、ただ、うなずくしかなかった。

相澤穂香と林瞳俐の率いる班が食事に凝らす工夫(提供・東京都立大学ラグビー部)

マネージャー、いよいよ、フィジカル強化に本格的にコミットし始めた。その、そもそもの発案者であるコーチの掛井雄馬からは、こんなメッセージが届いた。

「あるフレームワークを使って、検討するべき観点に漏れが生じないようにするのは一つのテクニック。今回はPDCAのフレームワークで漏れなく検討されていて、レベルが高い。社会人でも、こういう整理、なかなかできない。仕事柄、資料作成とレビューの機会は多いのだけど、アドバイスなしに、このレベルの資料を完成させたことにびっくりしました。ここまでマネージャーたちが考えて、サポートしてくれている。選手たち、意地でもフィジカルの目標を達成してください!」

自主規制はNG

ところで、掛井とともにマネージャー・フィジカル・コミット・プロジェクトを推進してきた丁野、試合ではビデオ係を務める。

あの学芸大戦。動画を撮るスマホの向こうで力負けを繰り返す選手たちの姿に、ただただ悔しかった。

「選手が活躍すれば昨年よりもうれしいし、そうでなければ、昨年より悔しい。勝負の結果が、ずっとずっと、自分ごと化された感覚です」

そして、気づいた。自主規制のような逡巡(しゅんじゅん)は、必要ないのだと。

「グラウンドでの練習以外のこと、練習時間以外のことに、マネージャーは関わっちゃいけないんだって、勝手に線引きしていた。でも、それは違うんだって気づきました。チームの課題がフィジカルで、マネージャーがそこにコミットしないのは違う。みんなでチームの勝利をめざすため、マネージャーには、もっともっと、できることがある。役割って、広げられると思うんです」

試合の動画を撮影する丁野真菜。視線の先の選手たちは、どう進化していくのか(撮影・中川文如)

次回は7月19日公開予定。悩めるキャプテンの思いに迫ります。

令和のアオハルリアル~東京都立大学ラグビー部物語2024~

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