ラグビー

連載:令和のアオハルリアル~東京都立大学ラグビー部物語2024~

開幕戦で突きつけられた絶対評価と相対評価の「溝」 東京都立大学ラグビー部物語10

東京工業大戦の後半24分、この試合のチーム初トライを決めるプロップのリモブ・ムハマドオリム(中央、3年、日大藤沢)。ただ、反撃に転じるのが遅すぎた(撮影・すべて中川文如)

練習と本番は、違う。

例えば、受験や定期テスト。何冊もの問題集をこなしても、何冊もの参考書の中身を頭にたたき込んでも、過去問を数えきれないほど解き直しても、いざ本番になれば、それは別モノだ。

必ずと言っていいほど、未知の問題にぶち当たる。かと思えば、正解して当たり前な問題で、なぜか迷ってしまう。あれ、この答え、どっちだったっけ?

それが、本番のプレッシャーだ。それが、本番というものだ。

絶対評価と相対評価は、違う。

オレ、頑張って勉強した。準備は万全だ。そうやって自分で自分をほめるのは、絶対評価だ。自分で自分をほめることができるまで、頑張った。間違いなく、その努力と満足感には価値がある。

でも、その絶対評価が、必ずしも相対評価に反映されるとは限らない。

定期テストなら、他者との点数比較で、1位から最下位まで順位がつけられてしまう。受験なら、たった一つの順位の違いで、合格と不合格が残酷なまでに染め分けられてしまう。それが、相対評価というものだ。

相手の激しいタックルを浴びるウィング(WTB)伴場大晟(4年、磐城)。バックスリーダーにとって試練の日々が続く

勉強だけじゃない。世の中の大抵のことは、相対評価で染め分けられていく。自分で自分をほめることのできた、その満足感の先にある評価で。

自分で自分をほめた先、その満足感の先、もっともっと、努力が必要な局面。それは往々にしてある。

そう、スポーツも。

練習と本番。

絶対評価と相対評価。

東京都立大学ラグビー部が、その現実を知った。

小さな綻びが……

9月15日、関東大学リーグ戦3部開幕戦でのことだった。

相手は東京工業大学。同じ都内の国公立校として、勝ったり負けたりを繰り返してきたライバルだ。3部8チーム中で「5位以上」という目標を定める都立大にとって、どうしても勝っておきたい、勝たなければならない一戦だった。

8月の夏合宿を終えてから、この一戦にターゲットを絞り込んで、分析を重ねて、対策を打ってきた。準備は万全、のはずだった。

が、思惑通りに事は運ばない。

開始早々、警戒していたはずの肉弾戦、モールで機先を制された。春先からこだわって強化を重ねてきたはずの1対1のフィジカルで、ことごとく後手に回った。シンプルに力負け。先制トライを許す。

反撃のチャンス、何度もつくった。相手陣でマイボールのラインアウト。それは都立大のトライパターンだ。なのに、スローインがぶれてしまう、ジャンパーがキャッチし損ねてしまう。

スクラムを押し込まれて、苦し紛れのアタックでボールを手放してしまう。キックミスで、自ら流れを断ち切ってしまう。どれも、自分で自分をほめることができたはずの練習で、実は、ないがしろにしてきた小さな綻(ほころ)びだった。その小さな綻びが、本番で、大きな致命傷になっていく。

そうやって、じりじりと水を空けられた。ウェートトレーニングで追い込んで自信を携えたはずのフィジカル勝負は、最後まで勝てなかった。終わってみれば、12-35。一つ一つの小さな綻びが、一つ一つの決定的なビハインドを招いて、それが積み重なった末の23点差だった。

フィジカルの差を詰めきれず、接点で相手に差し込まれる局面が重なった

練習と本番。絶対評価と相対評価。そのギャップに、準備段階で自ら気づく。自ら気づいて、そのギャップを準備段階で埋めて、勝負に挑む。それが、いかに、厳しく難しいことか。思い知らされる開幕戦だった。

試合後、選手たちは淡々と結果を受け入れているように映った。プロコーチの藤森啓介(39)は、円陣で、まずベクトルを自分に向けた。「正直、もっとできると思っていた。悔しいよ」。そして、続けた。「みんなも、もっと、自分にベクトルを向けてほしい。心から悔しい、これからもっと成長しなければ。そう、思えるかどうか」

ある者はうつむいたまま、ある者は表情を変えず、そして誰もが無言のまま、藤森の言葉を受け入れた。キャプテン中原亮太(4年、湘南)の総括は、こうだった。

「みんな、自分たちの甘さに、気づいたと思う」

「本当に悔しい?」

そんなチームを俯瞰(ふかん)している者がいた。センター(CTB)青木紳悟(川和)だ。

2年前、都立大史上最高の3部3位という結果を残した代のキャプテンは、いま、大学院2年生。研究や学会に忙しい日々を送る。本格的に練習に加われるようになったのは、9月に入ってから。この日は緊急事態に備えてリザーブ(控え)に入っていた。

パスを受けるCTB青木紳悟。そのリーダーシップとマインドセットは後輩たちに受け継がれていくのだろうか

実際、まさかの大劣勢という緊急事態が起きた。後半途中から出場。的確なパスさばき、よく通る指示で、後輩たちを鼓舞した。試合展開と雰囲気を立て直して、一矢ならぬ二矢を報いる2トライにつなげた。

「練習で手を抜いたり、さぼったり。誰も、そんなこと、全然、なかったと思うんですよ。それが、こんな形で負けてしまった。負けた後、みんなの表情を見て、感じました。本当に、悔しいのかな?」

薄氷の勝負を制しに制した末、3位にたどり着いた2年前を思い起こした。

「僕たちの代も、最初は、こうでした。どこか練習を『こなす』感覚で、うまくなったつもりで、そのまま試合に入って、負けてしまった。で、思い描いた理想と現実のギャップに気づいたんです。それからがむしゃらになって、シーズン終盤になると、みんな、泣きながら練習でタックルしていました。そういう熱さ、やっぱり、必要だと思う。根性論を振りかざすつもりはないけれど……」

「練習で出しきるのは、当たり前。練習以外の時間で、どれだけ真剣にラグビーのことを考えられるか。気持ちを胸の内に秘めるタイプが、今年のチームには多いのかもしれない。でもね、目に見える『熱さ』って、必要だと思うんです。そういう熱さって、周りに、みんなに、伝わっていくものだから」

シーズンが深まるにつれて、院生の経験値にも導かれながら、その年その年のチームを築き上げていく。それが、近年の部員不足と向き合う都立大のスタイルでもある。

先輩の、言葉と思い。

後輩に、届くだろうか。

東工大戦では負傷者も続出した。このピンチをチャンスに変えることのできるフレッシュな戦力は現れるか

次回は10月4日公開予定。昨年王者との第2戦をリポートします。熱く、巻き返せるのか?

令和のアオハルリアル~東京都立大学ラグビー部物語2024~

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