ラグビー

連載:令和のアオハルリアル~東京都立大学ラグビー部物語2024~

3年生の責任とは…たった1人のマネージャーは考える 東京都立大学ラグビー部物語9

2023年の最後の練習でのチームビルディング。お題は「学年ごとに仲の良い写真を撮ってください」だった。タックルバックを手にした小宮佑楽羅を選手たちが囲んで盛り上がるというのが、当時の2年生の演出だった(撮影・中川文如)

大学3年生という立ち位置について、考えてみる。

ざっくり分ければ、上級生の仲間入り。下級生の面倒を見るべき立場、導いていくべき立場になる。

でも、上には最高学年の4年生がいる。様々なプレッシャーを矢面に立って受け止めてくれる、頼れる先輩に頼ることもできる。

責任を果たそうと思えば、どこまでも果たすべき責任がある。逃げようと思えば、どこまでも逃げることだって、できる。

そんな、立ち位置なのかもしれない。

東京都立大学ラグビー部でたった一人の3年生マネージャー、小宮佑楽羅(ゆらら、英数学館)は、考え続けている。

3年生とは?

意外に少ない「ありがとう」

父の仕事の関係で、アメリカ東部のバージニア州、首都ワシントンのほど近くで幼少期を過ごした。4歳になる頃、広島県へ。小中高一貫校の英数学館で、テニスに明け暮れる生活を送った。

試合よりも、練習が楽しかった。本人いわく、「本番に弱い。だから、試合は苦手なんです」。でも、コーチと、仲間と、ラリーで打ち合いを続けることの「爽快感」は、たまらなかった。ラケットとボールを通じて、相手とコミュニケーションをつなげていくような、あの感覚が。

ほかのスポーツも、見るのが好きだった。名古屋文化圏の暮らしが長い母の影響で、広島在住にして中日ドラゴンズのファンに。ラグビー・ワールドカップで日本が南アフリカを破る「スポーツ史上最大の番狂わせ」をテレビで目撃した時は小学6年生だった。楕円(だえん)球の世界にもハマった。

そうやってスポーツ好きの視野が広がっていく過程で、なぜか、マネージャーという存在に興味を抱いた。

自分がプレーするわけでもないのに、そのやりがいって、何なんだろうと。

都立大に進むと、新歓の最初のバーベキューでラグビー部に巻き込まれた。後に同期となる選手たちが、「4年間、一緒に頑張ろう」って、熱く語りかけてきてくれた。

練習をのぞいてみた。マネージャーの仕事を体験してみた。先輩に水を渡すと、間髪入れず、笑顔と感謝の言葉が返ってきた。

「ありがとう」

とっても、うれしかった。ふと、気づいた。

「ありがとう」って、誰かが声をかけてくれること。それって、普段の日常で、意外に少ないな。これって、部活でしか体感できない、素敵なコミュニケーションなのかもしれないな。

入部を決めた。

試合中、選手に水を届ける山崎結萌(中央、2年、日大鶴ケ丘)と細野陽菜(右、1年、桐蔭学園)。選手のコンディションを気づかっているからこそ、素早く駆け寄る(撮影・中川文如)

楽しかった1年、ツラかった2年

1年生の頃は、「ただただ、楽しかった」。チームは勝利を重ねた。ラグビー経験豊富な当時の4年生たちが引っ張ってくれて、創部史上最高の関東大学リーグ戦3部3位まで上り詰めた。正直、1年生の気楽さみたいなものもあった。

その年の終わり、同期のマネージャー2人が部を辞めた。一緒に続けてほしかったけど、「ほかにやりたいことがある」って、ずっと相談を受けてもいた。同期マネを失って、不安だらけのまま、2年生になった。

チームは負け続けた。どうしたって、練習の雰囲気も暗くなりがちだった。2年生なりに、責任を感じていた。夜。2年生だけで、何度かオンラインミーティングを開いた。「2年生も、もっと、リーダーシップを発揮していかなきゃダメだよね」。チームの苦境を自分ごと化して考えてはいたつもりだった。

ただ、実際に発揮できたかといえば、そうじゃなかった。そう簡単に事は運ぶはずもなかった。

実行あるのみ

そんな悲喜こもごもを経て、3年生のシーズンがやって来た。芽生えた責任感に、実行を伴わせるシーズンだ。

昨年と同様、今年も、リーグ戦は茨の道になりそうだ。4年生たちが練習前後にコーチと話し合う姿、危機感が漂っている。こんな時こそ、3年生が逃げちゃダメだ。果たすべき責任を、果たそう。同期の選手7人と、思いは一致している。

試合に出たり出なかったり。出たとしても、お世辞にも活躍しているようには映らなかった同期が、主力としてレギュラーに定着しつつある。ボールを手に突破を図るだけではない。4年生の肩をたたいて、下級生の肩をたたいて、チームを鼓舞しようとしている。

大けがとその手術でシーズンを棒に振ってしまいそうな同期は、ここぞとばかり、ウェートトレーニングに時間を費やしている。あっというまに、ひと回り、体が大きくなった。

なかなか試合出場のチャンスが巡ってこない同期も、やっぱり、いる。部活の帰り道が一緒だ。あえて、口にする。「頑張ってね」と。だいたい返事は「いや、頑張ってるんだけど」。苦笑いの奥に覚悟があるのだと、信じている。

8月、長野・菅平での夏合宿で記念写真に納まる3年生たち(提供・東京都立大学ラグビー部)

2年生マネは5人、1年生マネは7人。後輩が増えた分、自らのマネージャーとしての責任も重たくなった。テーピング、練習の動画撮影。先輩たちが教えてくれたその技術、あますことなく、後輩たちに伝えなきゃ。

でも、それ以上に、大切なことがあると思っている。

選手がミスした時、チームが負けそうな時、負けてしまった時。そんな時こそ、暗い顔は厳禁。そんな時こそ、あえて、ちょっと明るめに、声をかけてあげたい。例えば、「ドンマイ」って。

それこそ、大切な、マネージャーの役割だと思っている。それこそが、選手と一緒に戦うということなのだと。

「ただでさえ選手が不安な時に、私たちまで不安そうなしぐさを見せたら、選手のメンタルにネガティブな影響を与えてしまうかもしれない。だから、あえて、ポジティブな声かけをしたいんです」

「そんなことをしたら、選手に、うざがられるかもしれない。そもそもマネージャーはプレーできないんだから、プレーや試合のことで選手に声をかけるのは、失礼なのかもしれない。最初は、そう考えていました。でも、先輩マネージャーたちは、そうじゃなかった。積極的に声をかけて、チームに、試合に、『参加』しようとしていた」

マネージャーを選手に見立て、別のマネージャーがテーピングを巻く。こうした取り組みの繰り返しで、果たすべき役割は受け継がれていく(撮影・中川文如)

また、ミエナイチカラを

その結果、劇的な瞬間が生まれたことがあった。

練習で、グラウンド内外のチームビルディングで、試合で、選手とマネージャーが心を通わせたコミュニケーションを積み上げる。そうやって、立場や学年の壁を超えてチームが一つになる。

すると、勝負のターニングポイントを迎えた時、普段なら起こり得ないような、スーパープレーが飛び出す瞬間がある。控え部員が、マネージャーが、まるで選手の背中を押しているようなプレーが。

都立大では、それを「ミエナイチカラ」と呼ぶ。

リーグ戦は9月15日に幕を開ける。今年もまた、ミエナイチカラと巡りあうことができるだろうか。

そのために、どんな時も、「ありがとう」と「ドンマイ」のラリーを続けよう。

それが、たった一人の3年生マネージャーの誓い。

チームの伝統、練習前のチームビルディングで笑みをこぼす小宮佑楽羅(中央)。あの手この手のレクリエーションで、選手もマネージャーも笑顔になる。その積み重ねが、ミエナイチカラにつながる(撮影・中川文如)

次回は9月20日に公開予定。いよいよ、関東大学リーグ戦3部が開幕します。因縁の相手との初戦をリポートします。

令和のアオハルリアル~東京都立大学ラグビー部物語2024~

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