大学陸上

連載:いけ!! 理系アスリート

研究職に就き、トップ狙って走る 名古屋大・國司寛人(下)

東京マラソンで笑ってゴールした國司は、1週間後の学生ハーフマラソンでもやはり笑っていた

連載「いけ!! 理系アスリート」の第9弾は、名古屋大学大学院工学研究科の博士課程1年、國司(くにし)寛人(25、静岡・富士高校)にスポットライトを当てます。3月3日の東京マラソンで2時間15分台の自己ベストを出し、1週間後の日本学生ハーフマラソン選手権でも自己記録を更新しました。陸上に加え、学業では実験、論文作成、学会発表……と多忙な日々を送っています。今回は名大陸上部での迂余曲折、そして彼の目指すところについてです。

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本業は研究

國司はこの4月に博士課程の2年目になる。陸上でいい結果を積み上げてきたが、あくまでもこう言う。「本業は研究です。陸上を理由に研究をおろそかには絶対しません」。筋金入りの文武両道だ。実験や論文作成が立てこむと、睡眠は3時間ほどになってしまう。「体力的にキツいこともあります。ただ、僕にとっては研究も陸上も納得するまでやるのが精神的にいいんです」。こんなことを涼しい顔で言って、笑うのが國司という男だ。

彼のハードな一日はだいたいこんな感じだそうだ。
早朝ランを終えて午前9時ごろに研究室へ到着。日中は実験や論文に取り組んだのち、夕方から夜にかけて10~20kmほど走り、また研究室に戻る。「夜中3時くらいまで論文を読んだり、書いてるときもあります」。研究に行き詰まったときも、走る。「研究のことを考えながら走ったり、院生と話し合いながらジョギングしたりしてると、いいアイデアが浮かぶことがあるんですよね」

学会にも年4回ほど参加。昨年11月には全日本大学駅伝で東海学連選抜の一員として走ったその足で空港に直行し、国際学会のあるスイスに旅立った。今年の東京マラソンの2日後にも、学会に参加している。陸上の大会に遠征するときのスーツケースに、学会用のスーツと資料が入っていることも。見た目からはとても想像できないが、とにかくタフだ。

スイスで開催された国際学会で発表する國司(写真は本人提供)

全日本を走る夢がかなった一方、ブレーキも経験

國司は大学入学以来、東海インカレの10000mで2度の優勝を飾り、全日本大学駅伝には2012年に名大のメンバーとして出場し、16~18年に東海学連選抜の一員として走った。「全日本への出場がこの大学で陸上をやる最初の目標だったので、本当にうれしかったです」。1年生だった12年の全日本大学駅伝出場は、学業と陸上の文武両道を求めて入った名大で一つの夢がかなった瞬間だった。

そんな國司でも、名大陸上部をやめようと思ったことがある。3年生のときだ。14年6月にあった全日本大学駅伝の東海地区選考会で、名大は2位の中京大に48秒差をつけられ、本戦への切符を逃した。チームメイトの記録はよかったが、國司が足を引っ張った。「多少の失敗だったら大丈夫だったんですけど、大ブレーキです。僕が普通に走ってさえいれば、間違いなく勝てたレースでした」。これまで切磋琢磨してきたチームメイトの目も、当時の國司には怖いものに見えてしまった。初めて「陸上をやめたい」と口にした。なんとか退部は思いとどまったが、2カ月ほど休部した。

その後、なんとか自分を奮い立たせて冬の東海学生駅伝に出場したが、名大の総合成績は5位。チームの雰囲気は、より悪くなった。ミーティングの雰囲気もぎくしゃくしていた。國司は「もうこのチームで自分が走り続ける意味はないのかな」と、心が折れた。

名大陸上部の練習で引っ張る國司(写真は本人提供)

その國司を救ってくれたのも、チームメイトだった。2度目の休部に入った國司のことを、とくに気にかけてくれる2学年上の先輩がいた。「とにかくお前が部活にいてくれた方が、みんなのプラスになる。一緒に走る方が楽しい」と声をかけてくれた。その熱が、國司の心の拠り所になった。ほかのチームメイトも「戻りたくなったら戻ってこい」と言ってくれた。優しさが伝わった。「名大のみんなは(学生生活が)陸上だけではない分、理解と優しさがある」。そして、休部明けで走った4年生の東海インカレで優勝。「もういちど、スタートラインに立てた気がしたんです」。國司は復活した。

「本当のトップといえるところまでいきたい」

國司は名大に入学して本当によかったと思っている。「いろんなことがあるけど、先輩も同期も後輩も、同じ境遇の仲間が多いですし、研究室の先生たちも走ることをすごく応援してくれるんです」。課程を終えたら、研究職に就きたいと思っている。もちろん走ることもやめるつもりもない。それも名大陸上部の尊敬する先輩たちが、働きながら走っている姿を見ているからだ。

「着実にステップアップしていきたいです。フルマラソンだったら2時間15分台は達成したので、14分台、13分台と一つずつ着実にいきたいです。世界大会の代表を争うレベルを目指すところまで考えないと、この先の成長もないかなと思ってます。毎年記録を更新して、本当にトップといえるところまでいきたいです」

そう話す國司を見ていると、5年先なのか10年先なのかは分からないが、日の丸を胸に走る彼の姿が、頭に浮かんでくる気がした。

國司のランナーとしての視界は広がるばかりだ(撮影・藤井みさ)
文武両道で奮闘する選手たちを紹介。連載「いけ!理系アスリート」その他の記事はこちら

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