アイスホッケー

連載:いけ!! 理系アスリート

制約あるから頑張れる 昭和大アイスホッケー伊藤悠吾(下)

2年前の春、昭和大は大学トップの明治大に大敗(GKが伊藤、写真は本人提供)

連載「いけ!! 理系アスリート」の第10弾は、昭和大学歯学部5年の伊藤悠吾(学習院)にスポットライトを当てます。実家が歯科医院を営んでいる伊藤は、兄と同様に昭和大歯学部で学び、ともにアイスホッケー部で戦ってきました。後編ではGKとしてのやりがい、2部リーグで戦うことを余儀なくされている現状について語っています。

前編はこちら

「今日からおまえはGKだ」

昨秋の関東リーグで、1部リーグの古豪を苦しめた昭和大。守り専門のポジションでありながら、チームの「エース」である伊藤は、歯学部の勉強と部活の日々で、多忙だからこそ味わえる充実感を楽しんでいる。

父の伸介さんは日本大学歯学部でアイスホッケーに取り組み、医科歯科系大学の大会でベスト6に選ばれたこともある選手だ。
伊藤は小学2年生のとき、2歳上の兄とともにアイスホッケーを始めた。高田馬場のクラブチームに入った。「最初の1年はFWでした。あるとき先輩のGKが『違うポジションがしたい』と言い出して、代わりにGKをやる人をチーム内で一人ずつテストしたんです。そしたら、僕が一番向いてるということになりまして。父に『GKのマスクを買ってやるから今日からおまえはGKだ』と言われて、『ハイ』と言うしかなかった」と、伊藤は笑う。

兄(左)とともに、伊藤(右)は小学2年生からアイスホッケーを始めた(写真は本人提供)

伊藤が小学校と中学校の最高学年になったとき、チームはともに選手の数が足りず、試合をすれば防戦一方だった。それは伊藤にとっては幸運だった。GKが上達する近道は、試合でシュートを打たれることだからだ。「自分が止めないと勝てない。小学校も中学校もそういうチームだったのが、僕にはよかったと思います。シュートを50本打たれて完封したこともあるし、45分で110本以上打たれたこともあります。GKはシュートを止めてなんぼのポジション。強いチームのGKはつまらないじゃないですか。苦しい展開ほどGKの見せ場なんで」。昨年秋の入れ替え戦で立教大学に一方的に攻められているときも、「もっと打ってこい。オレが全部止めてやる。そう思って守ってました」と、伊藤は言う。

高校時代から時間と闘ってきた

厳しい環境から逃げたり、言い訳するのではなく、きちんと向き合ってプラス方向に転化する。そう考えてアイスホッケーを続けてきたことが、いまの大学生活に生かされていると伊藤は言う。医科歯科系の学生として座学、実習をこなし、深夜0時に始まるアイスホッケー部の練習にも全力で取り組む。厳しい環境だからこそ競技に集中して打ち込めるというのだ。

「歯学部の学生として、まずは国家資格を取るのが目標です。でも、そのために勉強するだけじゃ面白くない。仮に『勉強だけに専念してくださいって言われたら、僕の場合、そんなに勉強ははかどらなくて、何かに打ち込んで、限られた時間の中で勉強しろと言われた方が集中してできる気がします」

伊藤にとって、いまはその「何か」がアイスホッケーだ。昨秋の関東リーグ2部では、優勝の立役者としてMVPを受賞している。

高校のアイスホッケーは北海道など寒冷地のチームが強いが、伊藤の同年代には東京にも好選手がそろっていたこともあり、レベルは高かった。同じ学年には現在、NCAAのレイクスピリア大学のFW三浦優希がいて、同じくFWの鈴木ロイ(今春からアジアリーグ・東北フリーブレイズ)がいた。伊藤はその二人とは違うクラブだったが、一緒に東京選抜のメンバーとして北海道の強豪チームと互角に渡り合ったこともある。アイスホッケーと並行して、中学、高校の5年間は学校のバスケ部にも在籍した。大学に入る前からずっと、時間の制約がある中でアイスホッケーに打ち込んできたのだ。

高校生のとき、東京代表として国体に出場(写真は本人提供)

東京選抜として国体に出場していたので、全国のトップ選手たちが集まる関東リーグ1部Aの大学への推薦条件も満たしていた。高校の先生や家族からもAの大学を薦められたという。伊藤が語る。「でも、僕は昔から、父の働いてる姿を間近で見てきましたから。教員を目指そうと考えた時期もありますけど、いざ自分が働いている姿を想像すると、歯医者以外に思い浮かばなかった。兄が昭和大の選手でしたし、僕も1部リーグの大学に入るんじゃなく、歯科の勉強を頑張りながら1部入りを目指そうと思ったんです」

部活には、勉強では得られないものがある

そしてこの春。最上級の6年生9人が抜けた昭和大は、14人で5月から始まる関東選手権に臨む。4月から5年生となる伊藤は、新チームのキャプテンだ。「去年の秋に逃した1部リーグ入りが、引き続きチームの目標になります。昭和大のアイスホッケー部には54年の歴史があるんですけど、常に強いチームでありたいです」

2年前の春の大会では、2年連続学生チャンピオンの明治大と対戦。0-29で敗れている。伊藤は第2ピリオドの途中から出場し、30分間に12点を奪われた。「僕にとっては夢の舞台でした。大学ナンバーワンの攻撃を経験できるんですから。それでも昭和大は大学からアイスホッケーを始めた選手が多いので、人によってアイスホッケーに対する考え方が違います。目標を統一するのは正直、簡単ではありません」と伊藤は言う。

実際に授業で使っている歯の模型を手に

昭和大では、アイスホッケー、アメフト、ラグビーが学内の「三大スポーツ」と言われている。とくにアイスホッケー部には、大きな期待が寄せられているという。「勉強だけでも大学生活は充実させられますけど、部活には勉強では得られないものがあるし、大学生活で得られるものの量が変わってきます。実際、部活をやっていなければ、僕は『ただの人』でした」

医科歯科系でも頑張るというのではなく、時間の制約がある医科歯科系だからこそ頑張れる。そうやってチームが一つになれば、また1部リーグに挑戦できるし、今度は勝てる。5月に始まる関東選手権を前に、伊藤はそう信じている。

Seriesこの連載をもっと読む

この連載の記事一覧へ

いけ!! 理系アスリート