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特集:第71回全日本大学バスケ選手権

東京医保大・平末明日香 遅咲きスラッシャーが仲間と目指すインカレ3連覇

平末は鋭いドライブでディフェンスを切り裂く(写真はすべて東京医療保健大提供)

バスケットボールの全日本大学選手権(インカレ)が12月9日から15日まで、東京・駒沢オリンピック公園総合運動場体育館で開かれます。4years.の注目選手を紹介していきます。

「スラッシャー」という、ちょっぴりマニアックなバスケットボール用語がある。「切り込む」という意味の英語「Slash」に由来し、ディフェンスを鋭いドライブで切り裂き、得点チャンスを生み出せる選手のことだ。東京医療保健大の平末(ひらすえ)明日香(4年、四日市商)は、日本女子バスケ界屈指のスラッシャーと言える存在だ。

東医保大女子バスケがリーグ戦全勝優勝 恩塚HC不在を乗り越え4年生が躍動

仲間のけがをきっかけでスラッシャーに

平末は目にも止まらぬ速さのドライブでディフェンスを抜き去り、レイアップシュートを決める。少女のように華奢(きゃしゃ)な体の一体どこに、爆発的なエンジンが隠されているのか。彼女のプレーを見るたびに、不思議な気持ちになる。彼女自身が認識する自らの持ち味も、やはりドライブ。「自分のスピードにディフェンスがついてこられてないのが分かると、うれしいです」と、小さく笑う。しかし、彼女や周囲がドライブに光るものを見出したのが大学3年生の秋以降だと聞き、驚いた。

きっかけは仲間のけがだった。スタメンを張ってきた岡田英里(4年、明秀学園日立)と藤本愛妃(4年、桜花学園)がそろって秋のリーグ戦を欠場。加えてリーグ戦前半は、女子日本代表のアシスタントコーチを兼任する恩塚亨ヘッドコーチ(HC)も不在という状況だった。「自分がドライブでゴールにアタックしないと、チームは勝てない」。平末はジャンプシュート主体だった自らのプレースタイルを変えることを決意。そして、スラッシャーという、想像もしていなかった自分に出会った。

脚力やスピードなど、元々の素質も優れていたのは間違いない。しかし彼女の進化の根底にあったのは、たゆまぬ努力だ。チームはこのリーグ戦の1年ほど前から、ドライブのスキル練習を取り入れ始めた。平末はこれを、誰に言われるでもなくコツコツと磨き続けた。「気づいたら身についてたっていう感じでした。3ポイントは意識して身につけたと思ってるんですけど……」と本人。恩塚HCも「日本一のレベルにまで到達するとは想像してませんでした」と明かし、「自分自身が努力して、技術をマスターしていったのが立派だった」と、彼女の姿勢を高く評価している。

「自分の力を信じてほしい」という監督の言葉

高2のときに全国ベスト8、高3のときには国体で5位入賞。東海地方の強豪大学から早い段階でオファーを受けていたが、卒業後に競技を続けるかどうか迷っていた。恩塚HCの熱さに感化されて東京医療保健大に進学したが、入学直後の肉離れで戦線離脱。けがが癒えたあとも、なかなかベンチメンバーに定着できず、苦しい日々が続いた。

1年生のとき、平末は自分を「脇役」と感じていた

そんな経験があったからか、当時の平末は自らを「脇役」としてとらえる傾向が強かった。「1年生のときは『私、そこまでの選手じゃないです』っていう雰囲気でしたね。いつだったか、試合に出そうとして『明日香! 』って呼んだときの、『え? 自分ですか?』という表情は、いまでも忘れられません」。恩塚HCはそう振り返り、平末は「恩塚さんには何かあるたびに『1年のときのお前は甘えてたな』って言われます」と、ばつが悪そうに笑った。

転機となったのは2年生の春の関東学生選手権。平末は控えとして主力選手のつなぎ役をつとめていたが、主力のけがを受け、優勝がかかった決勝リーグの最終戦でいきなりスタメンに抜擢(ばってき)された。チームはこの試合に敗れ、準優勝。試合後、平末は「本当に自信のがなくて、練習してきたことがまったく生かせなかった」と落ち込んだ。そんな姿を見て恩塚HCは「お前は変わらなきゃいけないし、変われる選手だ。自分の力を信じてほしい」と言葉をかけた。

平末は心を決めた。「ミスをして周りの選手に励ましてもらってるようじゃダメ。自分が活躍してチームに貢献しよう」。そこからは練習の取り組み方も変わった。「スタメンを勝ち取る」という明確な目標のもと、一つひとつのプレーから勝負にこだわり、スタメンと対峙(たいじ)するときはとくに燃えた。

試合中も不安にとらわれる余地もないくらい、目の前の相手を倒すことに集中できるようになってきた。少しずつチームの信頼とプレータイムを増やし、3年生のときの関東学生選手権でようやくスタメンの座を手に入れた。今年の夏は初めて学生選抜に選出され、全勝優勝という偉業を達成したリーグ戦では、総得点でチームトップの241点をたたき出している。

技術も心も、4年かけて一歩ずつ成長

岡田と藤本は中学、高校時代から注目を集め、大学でも下級生から活躍してきた。また永田萌絵(4年、長崎商)は、高校時代はまったくの無名ながらエースにのし上がり、日本代表候補にも選出された。彼女たちと比べると、平末は遅咲きかつ、いささか地味な存在ではある。しかし、技術も心も4年間を通じて一歩ずつ成長させてきた過程は、彼女だけの勲章だ。

(左から)岡田、藤本、平末、永田が東京医療大の「スタメン4年カルテット」

「私は体も細いし背も高くありません。見てくださる方に、身体的な才能がない人間でも活躍できるんだと、勇気を与えられるようなプレーをしたいです」。4年間の努力の集大成を出しきった先には、きっとチームのインカレ3連覇が待っている。

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