大学陸上・駅伝

連載:M高史の駅伝まるかじり

特集:第96回箱根駅伝

わずか数秒に魂を込める! 箱根駅伝の給水の裏側とは

今年も4区と8区で給水員を務めさせていただきました!(写真提供・@hecyapon さん)
M高史×西村菜那子の箱根駅伝直前、陸上大好き対談【往路】「給水ってすごい!」

第96回箱根駅伝は青山学院大が2年ぶり5度目の総合優勝。総合タイム10時間45分23秒は大会新記録を大幅更新。連覇を狙った東海大は総合2位(復路優勝)。國學院大がチーム史上最高順位の総合3位。僕の母校・駒澤大は総合8位という結果でした。

区間新も続出し、まさかの10位となった東洋大までが総合11時間を切るという箱根駅伝史上かつてない高速レースとなりました。僕が学生だったころの優勝タイムはだいたい11時間5分前後でしたので、この15年近くで一気に20分の短縮。各区間平均約2分も速くなっています!

さて今回は、選手のみなさんのことを支えた給水員のお話です。

給水と現地タイム係で母校をサポート

僕は駒澤大を卒業して13年になりますが、毎年母校のお手伝いをしています。今年も給水員と現地タイム係で母校のサポート。1区15kmと10区18kmの沿道で、タイム差を計測したり選手に声をかけたりする現地タイム係をしました。

箱根の情報戦を制するために
選手が見やすいようにボードに大きな文字で監督からの指示を書いて伝えます

給水の方は、往路4区10kmで小島海斗選手(3年、市立船橋)に、復路8区15kmで加藤淳選手(3年、西脇工業)に給水を渡す係でした。ちなみに給水員は、現役の部員またはチームが認めた関係者ができます。

選手のみなさんは1km3分を切るペース、時速20km以上のスピードで駆け抜けていきますので、給水も確実に無事にできるか毎回ドキドキしています(笑)。

主催者から指定された水、スポーツドリンクが配られ、給水のビブスを着ます。レースの情報を随時確認。大八木弘明監督や青山尚大主務(3年、中京大中京)から連絡がきます。給水を渡す際に選手に何を伝えるのか、事前に確認します。レース展開次第では直前で伝える内容も変わります(笑)。

給水直前もあらゆることに気を配ります(撮影・藤井みさ)

スマホの着信に気がつかないことがないように、細心の注意を払います。選手が給水ポイントまであと1kmくらいに近づいて来たら、ペットボトルの蓋を外します。選手が飲むものなので、蓋が開いている時間はなるべく少なくしたいと思いますし、何かのはずみで間違えてこぼしてしまっても大変です(汗)。

選手がいきなり来て慌てることがないよう、主務と連絡をとり、いま何km地点なのか確認します。選手が通過する直前に戦況が変わると指示も変わることがあり、直前に電話がくることもあります(笑)。

選手に力を! 手をふって応援します(撮影・藤井みさ)

選手が見えたら応援! 手を振って合図をします。

前のチームとのタイム差を計っておきたいので、目印にしやすい建物、看板、道路標識などを起点に前のチームが通過した時点でストップウォッチを押しておき、自分のチームの選手が通過した時点でタイム差を測ります。

8区・加藤淳選手に給水を渡しました。加藤選手の給水は昨年の4区に続いて2度目でした(写真提供:IMO-DENさん)

事前に選手に渡す順番を確認しておくのですが、確認していた通りにスポーツドリンク→水の順に渡します。給水を渡しながらタイム差を伝えます。区間順位を伝えることもあります。併走していいのは50mと要項で決められているため、わずか数秒の間にわかりやすくハッキリと大きな声で伝えます。まぁそのあとに、大八木監督からもっともっと大きな声で檄が飛ぶので心配ありませんが(笑)。

ボトルを回収し、すぐ後ろを通過する大八木監督にタイム差を報告し、共有している部員とサポートメンバーのグループLINEに投稿して任務完了です。

大八木監督にもタイム差を報告! このあと運営管理車から選手にも伝えられます(撮影・藤井みさ)

僕の学生時代、タイム差などの情報はすべて電話連絡でしていたので、情報伝達は格段に便利にスピーディーに、そして正確になりました。僕よりもずっと上の先輩は公衆電話から寮の電話に連絡していたそうです(笑)。テクノロジーの進化とともに選手のサポート体制もより緻密になっていきますね!

ちなみに8区15kmではOBの安西秀幸さんが駆けつけてくれて、後ろのチームとのタイム差も計ってくれました。給水をしながら前のチームとのタイム差を計るのはできるのですが、すぐ後ろとのタイム差を計るのは難しいので、ありがたかったです。

五輪代表選手も登場したアツい8区15km地点!

今大会の給水が豪華すぎるとTwitterでも話題になっておりましたね! 特に8区15kmで給水をご一緒したみなさん、熱かったです!

東京オリンピック日本代表・競歩の川野将虎選手もこの日は8区の給水員として登場(写真提供・IMO-DENさん)

僕と同じ8区15km地点、東洋大の給水は、競歩で東京オリンピック代表に内定している川野将虎選手(4年、御殿場南)が担当! 普段は歩く速さを競う川野選手。今回の給水のために2日前から走る練習もしたそうです! 競歩選手が走るという貴重な光景(笑)。

ただ8区15km地点では、駒澤大のすぐ13秒後ろに東洋大・前田義弘選手(1年、東洋大牛久)が迫っていたため、僕は川野選手の給水シーンは直接見ることができず。東洋大の運営管理車の酒井監督から給水後の川野選手にねぎらいの声をかけてらっしゃったのが印象的でした。酒井監督の気配り、お人柄が垣間見えましたね。

東海大の8区を走った小松陽平選手(4年、東海大四)に給水を渡したのは中島怜利選手(4年、倉敷)です。前回まで3年連続で山下り6区を担当し好走していた中島選手ですが、今年の箱根は故障の影響もあり、走ることができませんでした。

8区で区間賞を獲得した小松選手に給水を渡した中島選手。ともに4年生最後の箱根駅伝(写真提供:IMO-DENさん)

しかし、給水で小松選手を盛り上げ、小松選手は区間賞も獲得。中島選手は給水で小松選手の好走をアシストしました!

また、今回大躍進を遂げた東京国際大の8区15kmは、OBの石崎智大さんが給水。石崎さんは学生時代選手として入学したものの途中からマネージャーに。現在は青戸アスリートクラブというチームで小学生、中学生の指導をしています。

OBも母校のアシストをできるのも給水の醍醐味ですね!(撮影・藤井みさ)

「OBなのに給水で声をかけていただいたのはありがたいですね!」とお話されていました。

ちなみに今回の給水で僕が最年長かな? と思っていたところ、なんと関東学生連合チームの給水は大東文化大でコーチを務める馬場周太さん! 学生時代は箱根駅伝5区山上りでもご活躍された馬場さん。「無事に給水できるか心配(笑)」とお話されていましたが……。

関東学生連合チームは大東文化大学コーチの馬場周太さんが給水に登場(写真提供:安西秀幸さん)

馬場コーチから吉井龍太郎選手(大東文化大3年、西海学園)へ給水。心配されていたのもなんのその。吉井選手に声をかけてしっかりお役目を果たされました。次回は連合チームではなく大学としての出場が期待されますね!

他にも駒大OBが登場!

駒澤大の給水ですが、僕以外のOBも出動します!

9区・神戸駿介選手に給水を渡す渡邉聡さん(写真提供・きなこさん)

富士通の競歩コーチをしている高野善輝さん、駒大高校陸上部の顧問をしている渡邉聡さん、4年前に箱根駅伝6区を走った宮下紘一さんも担当。

大八木監督に恩返しを 駒大高・渡邉先生

宮下さんは3区で田澤廉選手(1年、青森山田)の給水。「3区は田澤君がかなり追い上げていたので、事前情報を確認しながらスタンバイしていました。いまは陸上と離れた生活をしているのですが、毎年箱根になると緊張感を味わえます。思い出すものがありますね」と振り返っていただきました。

3区・田澤廉選手に給水を渡す宮下紘一さん(写真提供・サキさん)

現役アスリートも給水に続々登場!

往路を走り終わった選手が給水で復路の選手をサポートしたり、惜しくも走ることのできなかった選手が給水の際に笑顔で給水を渡して元気づけたり。箱根駅伝の給水シーンはそれぞれストーリーがあります。

男子だけではなく、早稲田大は9区の新迫志希選手(4年、世羅)に女子400mハードルの日本インカレ優勝者でもある小山佳奈選手(3年、市立橘)が給水を渡しました。長距離だけでなく短距離や他の種目の選手たちの応援やサポートもあってこその箱根駅伝ということを実感します。

女子400mハードルで日本インカレ優勝、日本選手権2位の実績を誇る小山佳奈選手も給水に登場(写真提供・青猫さん)

神奈川大は4区15kmに鈴木健吾選手(現富士通)10区15kmに鈴木祐希選手(現カネボウ)、中央大は10区15kmに堀尾謙介選手(現トヨタ自動車)が給水員として登場!

10区15km地点で給水をする中央大OBの堀尾謙介選手と神奈川大OBの鈴木祐希選手(写真提供・みさとさん)

選手はあこがれの先輩から給水を受け取り、水分補給とともにパワーもいただいたことでしょう!

給水は一期一会、心をこめて

僕が給水をさせていただき、選手の力になれたかどうかはわかりませんが、卒業して何年たっても母校や箱根駅伝に携わらせていただいて、本当にありがたい感謝の気持ちです。給水のお役目を無事に果たすと、緊張感から解放されドッと疲れを感じます。50mしか走っていないのに(笑)。

給水の際は一期一会と思って、心を込めて務めさせていただいております。もし翌年同じ選手に渡したとしても学年も違いますし、走るメンバーも変わります。同じシチュエーションは2度とありません。

わずか数秒の出来事ではありますが、人生をかけて走る選手に僕も人生をかけてといったら大げさかもしれませんが、覚悟をもって給水をさせていただきました。本当にありがとうございました!

鹿児島実高、山梨学院大、トヨタ自動車でマネージャー歴20年 辻大和さん

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