大学陸上・駅伝

連載:いけ!! 理系アスリート

特集:第96回箱根駅伝

医師になることの重みを心にも体にも知らされて 筑波大医学群・川瀬宙夢(中)

「4年生の10月までは普通に練習できました」と川瀬。もちろん、川瀬の努力があってのことだ(撮影・松永早弥香)

連載「いけ!! 理系アスリート」の第24弾は、筑波大学医学群医学類5年生で、陸上競技部の川瀬宙夢(ひろむ、刈谷)です。筑波大としては26年ぶりの出場となった今年の箱根駅伝で9区を走りました。3回の連載の2回目は、医学生アスリートとしての日々についてです。

インターハイのリベンジとスポーツドクターの夢を求めて 筑波大医学群・川瀬宙夢(上)

6週間の解剖実習、心が苦しかった

これで引退と決めていた高3のインターハイ。川瀬は3000m障害の予選で失格となり、リベンジのために大学でも陸上を続けると決意した。1浪を経て、筑波大学医学群医学類に合格した。入学してからいろんな先輩の話を聞き、多忙な毎日になることは想像できたが、川瀬自身は「なんとかなるんじゃないかな」と、あまり深く考えていなかったという。

1年生のとき、週1日は朝8時40分から夕方6時まで授業があったが、基本的には部活のチーム練習には間に合った。2年生になってからは実習や実験で終わりが夜7時になる日もあったが、何よりこの年に深く川瀬の心に刻まれたのが、6週間の解剖実習だ。「毎日ご遺体と向き合うんですけど、最初は恐くて、でも次第に慣れていくことに恐さを感じました」。医師になることがどういうことなのかを痛感させられ、心が苦しかった。

川瀬は4年生のときにすべてを出しきると決め、3年生で臨んだ箱根駅伝予選会が終わると、駅伝主将に立候補した。確かに、大学でも陸上を続けたのは3000m障害で有終の美を飾るためだった。しかし仲間と走る中で次第に勝負できる距離が長くなり、幼いころにテレビで見ていた箱根駅伝を目指す気持ちが膨らんできた。箱根駅伝を目指して走る先で、3000m障害を走る力をつける。その思いで競技を続けてきた。

多忙な病院実習で、世界がかみ合ってきた

駅伝主将になってからはとくに、自分がチームの中で果たすべき役割を意識した。自分は練習を引っ張れる存在ではなかったからこそ、チームの中で安定感を与える選手になりたいと考え、行動してきた。チームとして箱根駅伝を走るためにどうしたらいいのか。一人ひとりに速さを求める練習を意識させ、積極的に声をかけては選手たちのコンディショニングに気を配る。

医学生の川瀬にとっては、チーム練習に参加すること自体にも工夫が求められた。それでも川瀬は「4年生の10月から病院実習が始まって一気に忙しくなりましたけど、それまでは普通にチーム練習にも参加できました」と振り返る。もはや、忙しいことが日常の前提となっていた。

昨年11月の10000m記録挑戦会の前日と前々日は8つのテストを受けた。試験時間は2日間で14時間にもなったという(撮影・松永早弥香)

少しでも練習時間を確保するため、病院実習が始まってからは、朝練の開始時間を早めて一人で走った。毎朝5時に起き、準備運動を経て5時30分から練習開始。朝練の折り返しコースの帰り際に、スタートしたばかりのチームメイトとすれ違う。午後の練習も実習の関係で一人になることが多いが、理工学群の猿橋拓己(3年、桐光学園)や山本尊仁(2年、春日丘)とは、時間が合うときはできるだけ一緒にやってきた。練習メニューはチームのメニューをベースとし、状況を見てアレンジする。ときには川瀬一人の練習にも弘山勉監督が寄り添い、アドバイスをくれたという。

病院実習では実際に患者を目の前にして、一つひとつ学んでいく。いろいろな病状の人たちに触れ、寄り添うことに気疲れを感じてしまうことも少なくない。その一方で例えば外科では、手術で一気に治る姿を目にすることもあった。もともと外科志望だったこともあり、「そういうのっていいな、自分がやりたいのはこれだなって思いました」と川瀬。やりたかった世界とこれから広がる世界が段々とかみ合ってきたいま、医者になる責任と楽しみな気持ちで将来を見すえる。

勉強も陸上も競ってきた同期のありがたさ

川瀬自身、悩みを誰かに相談するタイプではないという。それでも、同じ医学生アスリートで同期の薬師寺亮(大手前)の気遣いはうれしかった。200mを専門としている薬師寺と一緒に練習することはない。だが医学の学びだけでなく、陸上における境遇が似ていたため、自然と互いを意識してきたという。

「2年生のときに二人ともあと一歩で日本インカレの参加標準記録を突破できなくて、3年生のときも二人ともダメで、でも4年生であいつは絶好調だったんです。それで今度は5年生で僕の調子が上向きました。勉強もいつもちょっとだけあいつが上で、だから負けられないって思うんですよね」

薬師寺(左端)とは勉強でも陸上でも競い合う仲だ(写真は昨年の日本インカレ200m準決勝のもの、撮影・藤井みさ)

二人とも真っ暗な夜7時過ぎに競技場で出くわし、「いまから練習始めるの?」と驚くこともしばしば。「なんですかね。友だちっていうかライバル。でもあいつのことを心から応援できる。お互い最後の試合が今年の日本インカレだから、それが勝負だねって言ってます」。薬師寺が4年生のときの日本インカレは200mで5位入賞を果たしたが、昨年は準決勝敗退に終わった。二人にとって現役最後の舞台となる日本インカレでは、どっちがより多く得点を稼げるか競っている。

川瀬が日本インカレで狙うのは3000m障害の優勝だ。昨年、初めて出た日本インカレで4位入賞を果たしたが、「悔いが残るレースでした」と振り返る。

5年目で花開き、つかんだ日本インカレと箱根駅伝 筑波大医学群・川瀬宙夢(下)

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