どんな状況でも仲間と楽しむ気持ちを忘れないで 齋藤拓実4完
連載「プロが語る4years.」から、男子プロバスケットボールのBリーグ「滋賀レイクスターズ」の齋藤拓実(24)です。明治大時代には“大学No.1ポイントガード”と呼ばれ、2018年春に卒業後はアルバルク東京へ進み、19-20シーズンは期限付き移籍した滋賀で戦いました。4回の連載の最終回は大学4年間で学んだこと、プロになったいま思うことについてです。
学生ラストゲーム、秋の王者・拓殖大と対戦し
17年冬、最後のインカレ2回戦で、この年の秋のリーグ戦で31年ぶりに優勝を果たした拓殖大とぶつかった。齋藤の怒濤(どとう)の追い上げで第4クオーターでは1ゴール差にまで迫ったが、最後は突き放され、69-79で敗れた。大学ラストゲーム、齋藤はポイントガードとしてゲームを組み立て、仲間を鼓舞(こぶ)し、チーム最多の15得点をあげた。
「やっと終わったなぁという感じでした」。4年間着続けた紫紺のユニフォームを脱いだとき、齋藤はそう思ったという。「学生バスケから解放されたというか、コーチのこともいろいろあったので、やっとプロの舞台でやれるという思いもありました」。もしかすると、このようなコメントは大学を卒業したいまだからこそ言えたのかもしれない。
「大学4年間で学んだことはなんですか」 。齋藤はその質問に「うーん、なんだろうな……」としばし考え、こう続けた。
「やっぱりコーチのことになってしまいますけど、コーチがいない中でも戦えたことですかね。4年間で優勝はできなかったですけど、(コーチがいない中でも)ある程度戦えるという証明はできたと思います。僕が2年生のときの4年生は初めての経験だっただろうし、すごく難しかったと思います。その後も同じような状況が続いて、僕が3年生のときには当時の4年生のおかげで『4年生がしっかりまとまらなきゃダメだ』ということが分かりました。それは僕一人じゃなくて同期みんなが理解していたので、仲間としっかり話し合って戦えたことは、学生のときに経験できてよかったなって。いまとなってはそう思います」
いまの学生たちへ「後悔なく楽しんでほしい」
大学バスケ生活の大半を、コーチ不在という状況で過ごした齋藤。「大学で日本一になりたい」と思い描いて明大に進んだ当時は、想像もしていなかった日々だが、そんな苦難も仲間とともに乗り越えた。
そして身長171cmのポイントガードは18年春、幼いころからの夢であったプロバスケ選手になるという夢を叶えた。「ただ単純にバスケットが好きだったので。4年間いろんな思いを持ちながらも、別にやめたいと思うことはなかったですね」
自身の経験を振り返りながら、齋藤はいまの大学生たちに向け、こんなメッセージを送った。
「やっぱり大好きなバスケットをやれているということは、すごく幸せなことだと思います。なので、まずは後悔なく楽しんでほしいです。僕も当時はそうだったんですけど、4年間で様々な困難だったり思いがけないことだったり、うまくいかないことがあると思うんです。だけど、できるだけそれをポジティブに、プラスに捉えて『これを乗り越えたら自分はどうなれるのか』というのを考えればきっと乗り越えられると思うので、4年間がんばってほしいです」
「チームを勝たせられるポイントガードになる」
自身が躍進を遂げた19-20シーズンのBリーグは、「さあ、これから」という終盤戦を前に、今年3月27日、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、中止を余儀なくされた。齋藤も新天地で過ごしたシーズンに未練がないわけではない。
「シーズン序盤はチームを勝たせることができず、苦しかった部分もありました。でも、後半になるにつれてチームを勝たせることができている、という実感も徐々に増えていました。充実していた中で終わってしまったという印象で、すごく残念です」
4月24日、アルバルク東京から1本のニュースが発信された。「2019-20シーズン選手契約満了ならびに自由交渉選手リスト公示のご報告」。19-20シーズン開幕前、期限付き移籍でアルバルク東京から滋賀レイクスターズに渡った齋藤とシェーファーアヴィ幸樹が、双方合意のもとでアルバルク東京と20-21シーズンの契約を更新しないという内容だった。齋藤は明大時代からお世話になってきたチームに、一旦別れを告げた。
5月22日現在、齋藤はBリーグの自由交渉選手リストに公示されており、20-21シーズンも滋賀レイクスターズでプレーする、という断定はできない。だが、例えどのチームでプレーしようとも、「チームを勝たせられるポイントガードになる」という目標は決してブレない。
「これからも常に優勝を目指してやりたいという思いは強く持っています。チームを勝たせられるポイントカードであれば、チームは自(おの)ずと優勝に近づいていくと思うので、そこはブラさずに続けたいです。いまはこういう状況で先が見えないですけど、もしまたバスケットができる環境ができれば、それこそしっかり感謝しながらバスケットを楽しみたいです」
取材中、大学時代の話題に移ると、齋藤は「いろいろあり過ぎて記憶に残していない(笑)」と冗談を飛ばし、一瞬拒む素振りをした。そんな苦くて、深い思い出を今回の取材で話してくれた彼に、改めて感謝したい。そして来シーズン、より厳しいマークに遭いながらも爽快にコートを駆け回る姿を、いまから心待ちにしている。