いろんな思いを胸に渾身の「ジョジョ立ち」を 元亜細亜大陸上部・鹿居二郎4
今回の連載「私の4years.」は、今春に亜細亜大学を卒業後、サンベルクス陸上競技部で競技を続ける鹿居二郎(22)です。スタート前の「ジョジョ立ち」というスタイルを持つ一方で、学生時代には東海選手権800m優勝・大会新、関東インカレ800m3位入賞などの実績を残しています。5回連載の4回目は「ジョジョ立ち」に込めた思いについてです。
最初は不安をかき消すためだった
勝負前の静けさの中で、一人ひとりレーンと名前が読まれる。会場の視線を一身に浴びる選手紹介は、陸上選手にとって緊張が極限に高まる瞬間。そんな神聖な時間にキレッキレの「ジョジョ立ち」をする男がいる。そうです、私です(笑)。
私を知ってくれている人の中には、「鹿居といえばジョジョ立ち!」というイメージを持つ人も少なくないと思います。今回はそんな私の選手紹介のパフォーマンスのルーツについて書いていこうと思います。
私が最初にパフォーマンスを披露したのは、大学3年生の関東インカレ2部800m決勝。決勝はテレビ放映があり、選手紹介の際には選手一人ひとりをテレビカメラがどアップで撮影します。その際、カメラに大げさに指を向けて「俺を見ろ!」みたいな感じでやったのが最初でした。なぜそんなことをしたのか。ただ目立ちたかっただけではないんです(笑)。初めは自分を鼓舞(こぶ)するためでした。
実は大会の直前に足を骨折してしまい、そこから思うように調子を上げられず、不安要素を多く抱えていました。もちろん関東インカレの決勝ともなると、周りの選手のレベルも高いです。スタート前の私の頭には「去年よりいい結果出さなきゃ」とか、「今の自分にベストなパフォーマンスをできるかな」みたいなプレッシャーやネガティブな思考が渦巻いていました。意外! と驚かれることも多いんですが、実は私、プレッシャーにめっぽう弱い方で、レース前はいつもそんな感じになっています。
弱気を振り払うためにはどうしたらいいか悩み、私はある考えにたどり着きました。「派手なパフォーマンスで注目を集めて、あえて自分を追い込んでしまおう!」と。え、逆じゃない? と思う方もいると思います。ですが当時の自分は、「どうせ緊張するならプレッシャーは大きい方が負けづらくていい!」みたいなめちゃくちゃな考えで、その結論に至りました。
やった瞬間、観客席のざわつきが伝わりました。密かに「よし、狙い通りだぜ!」なんて思っていたので、結果としてはいいリラックス方法になったのかもしれませんね(笑)。こうして自分を鼓舞(こぶ)&緊張をほぐすために始めたパフォーマンスですが、レースが終わると「パフォーマンスが面白いから800m見たけど、すごい面白いね!」とか「次もパフォーマンス期待していますね!」なんていうありがたい声をいただくようになりました。その時初めて、「自分のパフォーマンスは800mという種目自体に注目してもらえるきっかけになっているんだ」ということに気づきました。
自分の「好き」を知ってもらいたい
自分のために始めたパフォーマンスでしたが、続ける内に別の目的が生まれました。それは日本の中距離界を盛り上げることです。
800mという種目は海外では非常に人気が高い種目です。そして以前も書いたように、私は800mを愛してやみません。ですがその一方で、日本の陸上競技において記録ラッシュに沸く100mやマラソンなどと比べ、中距離種目は世界とのレベルの差も大きく、まだまだ国内での扱いはマイナー種目の域を出ていません。中距離では実力や伸びしろがあっても、大学卒業後には競技を継続する環境がなくて断念してしまう人も少なくありません。
だからこそその良さを、面白さを、もっといろんな人に知ってほしいと思っています。注目されることで中距離が少しでも盛り上がれば、800mの競技人口も増えて競技レベルも上がっていくと思うし、そのきっかけに自分がなりたいと今は思っています。
応援してくださる方々に、最高のパフォーマンスを
選手紹介は自分が独占できる時間であり、ある意味、走り以外で個性を出せる数少ない場でもあります。しかし日本における選手紹介は、武道の礼の影響を強く受けているところがあるように感じています。だからこそそこでアクションを起こすことは簡単ではないし、それに対して無礼だ! なんて言う人もいます。実際、私も派手なことをして負けた際は、心ない言葉を向けられたこともあります。
ですが、海外に目を向けると多くのトップ選手は選手紹介の際、何かパフォーマンスをしますし、それは一つのファンサービスなんだと思っています。戦う相手に敬意を払うのはもちろん大切ですが、それ以上に応援してくださっている人に対しての感謝の気持ちを込めて、楽しんでもらうことも大切なのかなと思っています。「鹿居もいろいろ考えてやってんだな」と感じた方、大会などで私のパフォーマンスを見た時は温かい目で見守ってくださるとうれしいです!
もし少しでも私の考えに賛同してくれる現役の選手がいれば、恐れずにどんどんチャレンジしてみてほしいです。ぜひ一緒に周りを巻き込んで、陸上界全体を盛り上げていきましょう!