バスケも言葉も世界の壁を知らされて、それでも僕には夢があるから 馬場雄大4
今回の連載「プロが語る4years.」は、バスケットボール男子日本代表としても活躍する馬場雄大(24)です。筑波大学在学中にBリーグのアルバルク東京に加入し、昨シーズンはアメリカに渡ってGリーグ(NBAの育成リーグ)のテキサス・レジェンズで、今シーズンはオーストラリアのメルボルン・ユナイテッドなどと世界で戦っています。4回連載の最終回はNBAへの挑戦を続ける今についてです。
日本代表とBリーグで活躍、NBAからの誘いを受け
2018年5月にプロとして初のシーズンを終えたあとも、馬場は自身の加速度的成長によって、非常に慌ただしい日々を過ごした。18~19年の彼の動向をごく簡単に、駆け足で振り返っていこう。
日本代表では、八村塁(現・ワシントン・ウィザーズ)に次ぐ年少者ながらスタメンで安定した力を発揮し、21年ぶりの自力ワールドカップ出場決定に大きく貢献。アルバルク東京では、流れを変えるシックスマンという不動のポジションを獲得し、チャンピオンシップ(CS)ファイナルの千葉ジェッツ戦では満を持してスタメン起用。12得点、12リバウンド、6アシスト、1ダンクという素晴らしい活躍で、2018-19シーズンCSのMVPに輝いた。
これらの活躍がNBAスカウトの目に留まり、ワールドカップの準備が進む19年7月には、とうとうNBAから声がかかった。NBAの登竜門であるサマーリーグにダラス・マーベリックスの一員として参加し、高いパフォーマンスを発揮。8~9月のワールドカップで日本は5戦全敗に終わったものの、馬場はどの試合でも誰が相手であろうとも、強い気持ちでアタックを仕掛けていく姿で見る者の胸を打った。
帰国から数週間すると、マーベリックスから開幕ロスターを決めるトレーニングキャンプに招かれた。9月17日の記者会見の数日後にアメリカへ渡り、キャンプに参加。ルカ・ドンチッチやクリスタプス・ポルジンギスら、世界屈指の若手プレーヤーたちとともに練習やトレーニングを行い、プレシーズンマッチを3試合戦った後の10月12日(現地時間)、マーベリックスの下位組織にあたるテキサス・レジェンズに所属を移した。
言葉の壁も持ち前のキャラクターと貪欲さで
当時、テキサス・レジェンズでコーチを務めていた伊藤拓摩氏が、こんなエピソードを教えてくれた。
「サマーリーグ前のトライアウトの時に、雄大を見ていてすごいなと思ったことがありました。初日は納得できるプレーができず、英語も思ったよりも通じなかったようで、彼にしては珍しく落ち込んでいました。ところが、次の日の練習ではすごくいいプレーをしていたんです。理由を聞いてみると、雄大はこう言いました。『5時に起きて、まずチームメートの名前を全員分覚えて、自分から“Good morning,○○”と声をかけたら、みんな話しかけてくれました』と」
馬場は自らの目標のために、何を行い何を犠牲にすればいいのかをよく分かっている。それこそ、「東海大を倒すためには負けを重ねて経験することが必要」と考えた大学入学時もそう。4年生のころから始めた英語での日記付けもそう。いつかの記者会見では、有名ゴルファーをCMキャラクターにした某英語聞き取りプログラムも試してみたと、照れくさそうな表情で明かした。
やれることは何でもやってみる。なんなら失敗すらも力に変えようとする貪欲さは、大学時代から変わらぬ馬場の大きな武器。伊藤氏の言葉を聞いて、そのことを再確認した。
ブレることなく、自分を信じて行動する
馬場の途中退部を認め、Bリーグへと送り出した筑波大・吉田健司監督へのインタビューの中にも、興味深い言葉があった。
「彼の、夢を叶(かな)えるための判断は正しかったと思う。というよりも、『正しかったと言えるだけの努力をしてきた』という表現の方が近いかな」
言われてみればそうかもしれない。馬場のバスケキャリアにはいくつかの重大なターニングポイントがあった。高校卒業後にアメリカに行っていれば……。下級生のころから大学編入を考えていれば……。そういったかすかな後悔を否定し、自らの選択を正解とするために、馬場は一層の努力を注いできた。そして、これまでに誰も達成したことのない「日本の大学を卒業し、国内リーグを出発点とするNBAプレーヤー」まであと一歩、という場所までたどり着いた。
馬場は、現在大学でプレーする選手たちに、こうエールを送った。
「まずは自分が目指すものに対して、一切のブレがあってはいけないと思っています。自分の軸をぶらさず、『俺はこうしたい、こうなりたい』と周囲に発信し、それ相応の努力することで、周りの人が後押ししてくださったり、いろんなことが連鎖していったりすると思うので。僕の場合は吉田先生やJBAのみなさん、ルカ(ルカ・パヴィチェヴィッチHC)をはじめとするアルバルクのスタッフ陣といった様々な方に助けていただいた結果、アメリカの大学を卒業した(八村)塁や(渡邊)雄太とは違う形でNBAにチャレンジすることができています。自分の夢が過去、誰にも叶えられなかった夢であったとしても、自分を信じて行動することが重要。まず自分を大切にすること。そして、自分に限界を決めないこと。夢を実現するために『今できる最善の努力を、最大限できているか?』と常に確認しながら、日々を過ごしてほしいです」