野球

連載:野球応援団長・笠川真一朗コラム

青山学院大学の下村海翔と佐藤英雄、期待の1年生バッテリー

初勝利を完投で飾った青山学院大学の下村海翔(撮影・すべて佐伯航平)

4years.野球応援団長の笠川真一朗さんのコラムです。久しぶりに現役時代に通っていた神奈川県内の球場へ。きらりと輝く原石をみつけました。

なぜここが2部なんだろう

10月2日、東都大学野球2部秋季リーグ戦の取材に大和スタジアムへ向かった。開幕して2週目を迎えている。僕が立正大学でマネージャーを務めていた頃、在学中ずっと2部だったので思い入れがある。4年生時には対戦相手に青山学院大学の吉田正尚(オリックス)や東洋大学の原樹理(ヤクルト)がいた。それはそれは素晴らしい選手だった。「なぜここが2部なんだろう」と常に感じていた。自分にそういった経験があるからこそ、きっと取材に行けば1部に負けず劣らずの選手がたくさんいるんだろうと期待した。そしてそんな僕の期待を軽く蹴散らしてくれる投手がいた。青学の1年生投手、下村海翔(九州国際大付)だ。

この日は大正大学を相手に先発マウンドに立つと、MAX147kmの速球と多彩な変化球で相手打線を翻弄した。9回を投げきり、被安打5の奪三振11でリーグ戦初勝利を挙げた。その立ち姿、表情、投げっぷりは到底、1年生には見えないたくましさだった。「あの頃の岡野祐一郎(青学大-東芝-中日)を超えているんじゃないか」と僕は完全に心を奪われた。

下村は11奪三振で初完投勝利

ストレートには言わずもがなの魅力を感じたが、テンポよくポンポンと変化球でカウントを整えて打たせて取る。柔と剛の両立がイキイキしていた。ピンチの場面でも重苦しさや硬さはなく、丁寧に落ち着いて打者と勝負していく。自分の意志で投球を組み立てている雰囲気が感じられた。

試合後に話を聞いたが、下村は自分の意志をハキハキと純粋に伝えてくれる。日々、目的目標をしっかり持って考えながら生きてないと自分の考えをこんなにスラっと言葉にできない。そんな印象を受けた。マウンドで投げる姿と話している姿に一切のギャップが無く、野球を楽しんでやってるように見受けられた。その「楽しむ」と言うのは元気に明るく野球をするというような楽しさではなく、競技に真摯に向き合って純粋にレベルアップしていこうとする意味での「楽しむ」だ。下村を見ているとそんなふうに感じた。

開幕週の日本大学との対戦では2戦目に先発投手として初登板を果たした下村。5回3分の2を投げ5安打2失点の内容でマウンドを降りている。均衡した試合で先制の2点を与えてしまうなど自分の力を発揮できなかった。下村は「初登板っていうのもあって、力だけでいき過ぎました。自粛期間中にトレーニングをしてストレートも150kmを超えるようになって、それに頼って力任せになっていました。それでバランスを崩して自分の投球スタイルで投げれませんでした」と振り返った。

巧みな投球が持ち味の下村

そして迎えたこの日。「初登板の試合が終わってから自分なりに修正しました。僕は調子が悪い時、得意なスライダーとストレート中心に組み立ててワンパターンになってしまう傾向がある。見ている方はストレートで押してるように見えるかもしれないですけど、僕は変化球が得意。いろんな変化球を投げられると自分では思っています。前の試合の反省も踏まえていろんな球をうまく使おうと思って今日は投げました」と下村は修正を試合に生かした。ストレートと変化球を巧みに使い分け、打者に的を絞らせない。長打は1本も打たせなかった。

ちなみに日大との試合でも長打を打たれていない。僕は下村に「まだ長打を1本も打たれてないけどそのあたりはどう考えてる?」とザックリとした問いを投げかけた。下村は「バッターに自分のスイングをされるのが嫌いなんで。気持ちよく打たれたらムカつく(笑)。『バッティング練習じゃないんだぞ!』って思って投げてます。今日も調子は良くなかったですけど、そういう日でも最低限のピッチングができるように。甘いところに入らないように日頃から練習してきてますし、間を変え工夫しています」と自信を持って答えた。

会話をしていて気持ちが良い。調子に乗っているわけじゃないし、大口を叩いているわけでもない。1年生とは思えない堂々としたマウンドさばきにはしっかりとした裏付けがあるように感じた。こちらとしては「立派に投げてる1年生」という目でつい見てしまう。でもプレーしている本人からすれば学年なんて関係ない。高い意識を持って練習に取り組み、試合で結果を出した人間がマウンドに立つ。ポテンシャルだけで活躍できるほど大学野球は甘くない。下村を見ていると、話を聞いていると、良い意味で1年生らしさを感じなかった。自分の感覚の中で、自分がコントロールできることの範囲をしっかり理解して野球をしているように感じた。

上の世界を見据えて

「大学野球の世界はどう?」と聞くと、「高校の頃は自信を持って投げられてたし、それなりのピッチングもできました。だから正直、大学生も簡単に抑えられると思っていました。でも速いストレートに対してもしっかりバットに当ててくる。その中で抑えれるようにと考えて練習したら少しずつわかってきて抑えられるようになりました。社会人ともオープン戦があり、どんどんレベルが上がってきます。初めて社会人に投げた試合でセンターにホームランを4本打たれて。『これが大人か』と思いましたし、それでも絶対抑えられると思いました。試合で投げていくことでいろんなことに気付きましたね。カーブの重要性とか。リーグ戦では研究されたりもするんで、簡単に抑えられるとは思っていません」と口元を引き締めた。下村の口からは上の世界を見据える言葉が多かった。ゆずれない夢があるからだ。

「プロはずっと目指しています。高校の時に行くか迷って監督に相談したら『大学生を抑えられなかったらプロはないぞ』と言われて、家族にも『大学で土台をしっかり作ってもっと安定感を増してから即戦力で獲ってもらえるように頑張ったら?』と言われて、最後は自分で進学を決めました。それでもドラフトで知り合いとかが選ばれてるのを見ると、めっちゃ悔しくて。だから、みんなの前で『ドラフト1位でいきます』と約束しました。絶対プロに行きたいです。即戦力で」と強い思いを口にした。

夢を叶えるために青学に進んだ下村は自らを磨き続ける。「高卒で入れたとしても1軍では絶対無理やと思ったんで。プロ野球に行くとなると多少、数字の部分も見られる。今は150kmですけど、153、154、155とか4年間でどこかで投げれたらと思います。でも今はリーグ戦中なんで。(スピード)ガンコンテストしてるわけじゃないので。まずは勝てる投手になれるように、先制点を絶対与えない。そこは大切にしています。あとは絶対に2部より1部の方が(プロに)行きやすいんで。絶対、1部に。勝ちを重ねてもっと有名になって3年後は上位候補と呼ばれるようになりたいです」

そう語る貪欲な姿勢に胸が熱くなった。僕は興奮してさらに質問をした。もう興味津々だ。「その勝てる投手になるためにどうするの?」と聞くと「ストレートだけじゃなくて全部の球でしっかり抑えるように、安定感を意識しています。安定感があれば自分のMAXの投球スピードから2、3km落ちても抑えられると思っているので。僕は身体もそんなに大きくないし、速球派とか剛腕とかいうイメージは自分に対して持っていません。自分で試合を組み立てるのが好きですし、相手の雰囲気を見ながらどんな球を投げるか。『そのカウントからその球投げてくるんか!』と打者が驚くような球を投げられるようにしています。それは高校時代に監督に教えてもらって自分でもわかってきたので」と答えた。

素晴らしい過程を歩んでほしい

下村は投手としてこれから先の世界で投げていくために「自分がどうしていくべきか」をすごく理解しているように感じた。自己分析をしっかりして準備を積み重ねて相手と対戦する。その対戦で得た収穫を持ち帰り、また次に進んでいく。「たまたま」が少ない選手だ。しっかりと明確な意図を持って自分の球を打者に投げ込む。その自分の球をベストで投げるには練習しかない。それを本人も理解しているからあらゆる練習に対して意識を持って取り組む。目的、目標を確かに持ってこれからも素晴らしい過程を積み重ねていくと思うと今後の成長がより恐ろしく感じられた。ポテンシャルだけで勝てるほど、東都は甘くない。

何人もの素晴らしい投手が試合で活躍できない姿を見てきたからそう感じる。でも、大きなけがさえしなければ、この下村海翔という1年生投手は3年後、本当にドラフト1位でプロから招かれる日がくるだろう。でも人生は何が起こるかわからない。だからあまりハードルを上げて、光にガンガン当てるのは好きじゃないけど、純粋に応援したい。なぜなら、取材うんぬんとか仕事の話じゃなくて彼と野球の話をしていると楽しかったから。きっと人のプレーを見て人に教えるのも上手なんだと思う。本当に魅力的な選手は自分の結果だけでチームに貢献するんじゃなくて、姿で周囲にも良い影響を与える。それがチーム全体の底上げにつながったりする。そういうスケールの大きな人間だと感じた。途中で「おれは今、年上の人と話してるんかな」と思ったくらいだ。また下村の話が聞ける日を僕は楽しみにしている。

「まずは経験、自分のやれることを」と佐藤

そしてその下村とバッテリーを組むのが、同じくルーキーの佐藤英雄(日大三)だ。大学野球で、東都で1年からスタメンマスクをかぶるのは本当にすごいことだ。しっかりと下村を支えていた。佐藤は試合後に「今日は下村の投げたい球を投げさせることができたかな、とは思います。でもまだまだですね、これからです」と謙虚に語った。試合に出ていることに関しては「正直ちょっと頼られていないところがあるので、まずは経験しながら自分のやれることをやれればと思います」と佐藤は言う。決して背伸びはせず、着実に経験を積んで理想の捕手に近づいていく。「1年生ですが、やりにくさは感じていない。どれだけ調子が悪くても最少失点で抑えれるような、投手を引っ張れて信頼されるような捕手になりたい」と目標を語った。

信頼される捕手を目指す佐藤英雄

下村は佐藤に対して「投げやすいですよ!英雄も日大三高で強いチームで下級生の頃から試合に出てるんで。経験が少ないとかは別に気になりません。まだリード面で合わないときは当然ありますけど、同じ1年生だから首も振りやすいので助かってます。雰囲気で『これを投げたほうがいいなぁ』とか、打者が待ってない球を投げるとか、そういうのは投手として大切にしてるので。ただ、英雄はキャッチングがめっちゃうまいです。低めの際どいストライクを取ってほしいコースをストライクにしてくれて、すごく助けられてます」と佐藤への信頼を口にした。

ピンチで見えた信頼関係

この日、下村の佐藤に対する信頼が表れる場面が訪れた。2点リードの六回の守り。先頭の8番、9番を2者連続の見逃し三振でテンポよく抑えた後に、1番、2番に連打を浴びた。そして3番の遠藤圭悟(4年、守谷)を迎える。前の打席で安打を許していた。1ボール2ストライクと追い込んだ後の4球目、この日最速の147kmの直球で空振り三振を奪いピンチをしのいだ。「あの場面、追い込んだらいつもならスライダーでいくことが多い。でも英雄が自信をもってストレートのサインをドーン!と出したから、思い切って腕を振って投げ込めた。あそこで英雄が迷いながら出したストレートなら首を振ってたけど、そうじゃなかったので。『これはいくしかない!』と思って投げられました。信じてよかった」と下村は嬉しそうに振り返った。その表情にふたりの信頼関係を垣間見たような気がして気持ちがよかった。このふたりが4年生になったときのことを想像すると身震いがした。誰も手が付けられない、そんなバッテリーになれる可能性を秘めているからだ。次は神宮でその姿を見てみたい。

青学は2週目を終えて4連勝と首位を走る。次のカードは2位の専修大学。1部昇格に向けてカギとなる対戦だ。2014年秋以来の昇格を目指し、1年生バッテリーも上級生に負けず劣らずの奮闘を見せることだろう。東都2部にも素晴らしい選手はたくさんいる。1部に負けず劣らずだ。

野球応援団長・笠川真一朗コラム

in Additionあわせて読みたい