岩政大樹 学生時代から「振り返り」を続けたことが、日本代表という未来につながった
先日、「Aruga」という個別育成のツールを運営している会社のアドバイザーに就任させていただきました。若者たちが一から作り上げた面白いサービスなので、ぜひみなさん使ってみてほしいと思います。
このサービスの根幹は「振り返り」です。日々起こったことを振り返り、考えて、具体的に解決策を見つけて、次へ向かう。成長するために、自立していくために必要な、そんな頭の回し方をつくっていく作業を手伝ってくれるサービスです。
「なぜ」「どのようにしたら」を重ねて原因を振り返る
私はサッカーの才能に恵まれませんでした。小さい頃からテクニックがなくて、“どんくさい”。誰もプロサッカー選手になるなんて思ってもみないほどの少年でした。時々、不思議に思ってしまうことがあります。なぜ私はプロサッカー選手になり、日本代表にまで上り詰めることができたのか。選手だった時の自分は、どこか“今の私”と結びつかない気がすることも少なくありません。
ただ、人一倍してしていたことがありました。それが「振り返り」でした。
練習時間はそう多く取れない事情がずっとありました。山口で過ごした中学生の時は、陸上部しかない学校で、平日は昼休みにボールを蹴るくらいしかできなかった。高校生の時は、島から1時間半かかる学校まで通っていたので、居残り練習は一切できなかったのです。
しかし、負けず嫌いだった私は練習が終わるといつも振り返りをしていました。それも「うまくいった」「全然ダメだった」という現象や感情の振り返りに終わらず、その現象の「なぜ」「どのようにしたら」を重ねて原因を振り返る、ということをしていたのです。インターネットも手元にない時代でしたからね。生まれ育った島の景色を眺めながら、私は妄想にふけるように、頭の中でシミュレーションをして、サッカーを考え続けていました。
その作業は、今になって、かけがえのないものだったと実感しています。子どもの時に身についた習慣は一生ものです。私は大学にいっても、プロに入っても、その振り返りの作業を人一倍行っていきました。そもそも、それが“人一倍”だったと気づいたのは歳をとってから。私にとってはただの当たり前の作業だったのです。
その経験から、指導者となった今では、接する選手たちに「自分で考える」という意味を知ってほしい、サッカーを通じて身につけてほしい、というのが私の指導哲学となっています。そして、それが「サッカーが上手い選手」、「チームを勝たせる選手」になることにつながるとも思ってます。
振り返りを毎日続けることが、いつか自分に返ってくる
先日、今指導している高校生にも同じような話をしたのです。“話をした”と言うより“問いかけ”ですね。練習が終わって、ある生徒に「今日の練習の中でうまくいかなかったな、と思い浮かぶシーンは?」と尋ねました。すると、「アプローチしたけど入れ替わられてしまった場面」と答えました。問いかけはここでは終わりません。
「なぜ入れ替わられてしまった?」
そう聞くと、
「寄せられませんでした」
と。ふむふむ。ここからが大事です。そこから、
「なぜ寄せられなかった?」
「パスが出てから反応して行ったので遅れました」
「なぜ反応が遅れた?」
「パスが出る前に準備ができていませんでした」
「それはどんな準備?」
「予測とステップ」
と、続いていきました。いいですね。「それなら、明日からパスが出る前に予測して、足を止めずに準備をしよう」と、その選手の次への答えが出ました。それも自分の頭の中で考え、自分の口から発せられて。
こうした問いかけを続けて、だいぶ選手たちも言葉にすることができるようになってきました。振り返りを毎日続けることが、いつかとてつもなく大きなものとして自分に返ってきます。そして、それはサッカーに限ったことでなく、様々なことに使える「自分で考える」につながります。それを分かってもらえたら、私は指導者として本望です。
さて、この振り返りの作業の重要性は、もう40歳手前となった私も同じです。日々、出来事を振り返り、「なぜ」を重ねて、次の「どのようにしたら」をつくっていきます。激動の2020年も、もう残りわずか。師走は今年一年の振り返りをして、新年を迎えたいと思います。よいお年を。