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連載:OL魂

関西学院大学のセンター高木慶太 賢く、強く突き詰めたOL道、最後に花開かせる

関学のセンター高木慶太は甲子園ボウルの終盤、リードブロッカーとしてRB三宅昂輝の独走TDを演出(撮影・篠原大輔)

アメリカンフットボールの日本選手権プルデンシャル生命杯第74回ライスボウルは2021年1月3日、東京ドームでキックオフを迎える。社会人Xリーグを7年ぶりに制したオービックシーガルズに、3年連続の出場となる関西学院大学ファイターズが挑む。そのオフェンスの中心にいるのが、OLの5人の真ん中に位置するC(センター)で副将の高木慶太(4年、関西学院)だ。関学中学部で競技を始めたときからOLひとすじ。ライスボウルは社会人が11連勝中だが、10年のフットボール人生を締めくくる戦いでの番狂わせに燃えている。

甲子園でみせた完璧なブロック

12月13日の甲子園ボウル。第4クオーター(Q)10分すぎに決めたタッチダウン(TD)のプレーで、高木はOLとしては珍しく目立った。自陣47ydからの第1ダウン10yd。QB奥野耕世(4年、関西学院)はRB前田公昭(3年、関西学院)の左へのカウンタープレーと見せてボールを手渡さず、左のWRの位置から回り込んできたエースRB三宅昂輝(4年、関西学院)へハンドオフ。広い右サイドへのリバースプレーだ。

高木(65)ほど機動力のあるセンターも珍しい(撮影・北川直樹)

三宅が右オープンに出た瞬間、彼の前で関学のブロッカー3人対日大ディフェンス3人という状況になっていた。激しくしつこいオープンブロックには定評のあるWR糸川幹人(2年、箕面自由学園)が大外で完璧なブロック。奥野にボールをスナップしてから右へ張りだしてきた高木も110kgの巨体を揺すって三宅の前を疾走。高木が2人をブロックする形になり、三宅はエンドゾーンまで駆け抜けた。「相手が想定してたよりも内側に残ってました。幹人もナイスブロックしてたんで、三宅なら内の選手につかまることはないと思って、オープンサイドの選手をブロックにいきました。全力疾走しました」。高木は笑顔で振り返った。

母の弁当がおいしくて

兵庫県西宮市で生まれ育った。小学生のころは野球と体操をしていたが、5年生からは受験勉強に専念するためにやめた。6年生の受験期になると、お母さんの作ってくれる弁当がおいしく、かなり食べて太った。志望校の関学中学部に合格したころは身長が153cmで体重は65kgほどあった。それでも野球部かサッカー部に入ろうと思っていた。新入生のオリエンテーションキャンプに参加すると、リーダー役の人がとてもフレンドリーに接してくれた。それが中3でタッチフット部の齋藤圭吾さん(現・高等部コーチ)で、「アメフトやってみたら?」と誘われ、仮入部してみることにした。

仮入部の時期はやたらとボールに触らせてくれたが、入部して防具を着けるようになると、訳のわからないポジションにいけと言われた。それがOLだった。「ボールに触られへんし、『一生当たっとけ』みたいなことを言われて、何やねんと思ってました」。高木が苦笑いで振り返る。訳のわからないポジションになってもフットボールをやめなかったのは、小さな喜びを積み重ねてこられたからだ。相手を全力でブロックにいきながら、正しいステップが踏めるようになった。パスプロテクションのとき、前より手が上がるようになった。練習の映像を見たときに「俺、できるようになってる」と感じる瞬間がたまらなくうれしかった。

QB奥野との絆

関学高等部に進んでアメフト部に入ると、大阪府池田市の公立中学校から受験で入ってきた同級生と仲よくなった。それが現在のエース奥野耕世だ。いまも練習後、毎日のように定食屋へ一緒に行く仲だ。OL同士の絆が強いのは分かりやすいが、OLとQBがこんなに仲がいいのは、あまり聞かない。なぜそんなに仲がよくなったのかと高木に尋ねると、こんな答えが返ってきた。「僕は内気な性格というか、なよなよしてるところがあるんですけど、耕世は男らしいというか、違うと思ったことはちゃんと『違う』って言ってくれるんです」。質問に対するまっすぐな答えにはなっていないが、分かった気がした。

奥野の声を合図に元気よくハドルブレイク(撮影・篠原大輔)

高木は中学からずっと、OLの中でも5人が横に並んだ両端に位置するT(タックル)としてプレーしていた。高3の最後にCの両隣にセットするG(ガード)になった。当時の高等部は復活期にあり、高木たちは3年の冬に3年連続の高校日本一をかけて佼成学園(東京)とのクリスマスボウルに臨んだ。その戦いの過程で、同級生でTEだった武内彰吾さんが試合中のヒットに倒れ、亡くなっていた。高木は武内さんにも支えてもらっていた。「一緒にオフェンスを引っ張ってた仲だったんで、いつもいろいろ相談してました。僕が相談するばっかりやったんですけど、いつも適切なアドバイスをくれてて、頼りにしてました」。ショックは大きかった。何とか武内さんに3連覇を捧げたかったが、負けて高校生活を終えた。

緻密な関学OLでもまれ、2年からスターター

大学ではGになった。関学のOLはどこよりも緻密(ちみつ)だ。高木はOLのミーティングに驚かされた。「毎日ほぼ同じ練習をして、映像で細かくチェックして。ミーティングの多さと一回の長さが尋常じゃないと思ってました」。一つのプレーの映像を見ていても、コーチや4年生が「もし相手がこうきたら、どうする?」という話をし始めて、どんどん話が広がっていくのだという。プレーの面では、初めての夏合宿で大けがをして練習に復帰できないまま、最初の1年が終わった。チームは甲子園ボウルで日大に負けた。

2年生の春、定期戦の明治大学戦で初のスターターとなった。同じ試合で奥野も初めてスターターに名を連ねた。そこから二人とも、ほとんどの試合に先発で出続けて、3年ともライスボウルまで進んでいる。最初は相手が速すぎて当たらせてもらえなかった高木だが、食らいついていく中で手にできたものもあった。「スピードに慣れたし、自分の不得意なことも分かったので、それを夏に必死のパッチで誰よりも練習しました。秋は『練習したら、ちゃんと結果はついてくる』と思えたシーズンでした」

175cm、110kgと大きくはないだけに、下からカツンと当たるのが信条(関学ファイターズ提供)

3年生の秋のシーズンで忘れられないのが関西学生リーグ1部第4節の神戸大学戦だ。オフェンスが機能せず、17-15の辛勝だった。「悔しかったですね。練習は必死でやってたつもりやったけど、いざ試合になったらOLのせいでQBがボール投げられへんし。試合をぶちこわしてしまった」。最後のオフェンスで時間をつぶしているとき、情けない思いがこみ上げ、高木は泣き始めてしまった。すると奥野が怒った。「試合中になんで泣くねん」。奥野はOL全体に対してもこう言った。「この点差と、今日やられたことを覚えとけ」と。このシーズンのOLたちが本質的に変わるきっかけとなった試合だった。

副将に立候補、スナップ磨く

学生ラストイヤーを前に、高木は副将に立候補した。2年生のとき、立命館大学に大苦戦して逆転サヨナラフィールドゴールで勝った西日本代表決定戦。あの試合中の光藤航哉主将ら4年生の姿が頭にあった。「負けてるとき、僕は内心『うわー、どうなんねやろ』と思ってたんですけど、4年生は焦ってなくて常に堂々としてました。そういう先輩を見てきたんで、自分も4回生としてチームを引っ張って、試合中に堂々としてる姿を見せたかった。それにOLが頑張ればチームは強くなるというのはチーム内でずっと言われてたんで。緻密な準備と地道な練習を重ねて、それを引っ張っていけたらいいと思ったんで立候補しました」

副将になるとともに、チーム事情でポジションもGからCに変わった。中1からOLひとすじとはいっても、Cはほぼ初めてだ。まず何よりもQBへ安定したスナップを供給できないことには始まらない。スナップの練習には奥野や控えQBの山中勇輝(3年、関西学院)、平尾渉太(同、啓明学院)が付き合ってくれたほか、練習前には毎日のように主務の末吉光太郎(4年、三田学園)が捕ってくれた。Cはほかの4人のOLより前にセットしているため、DLとの距離が近い。速く当たりたいと思えばスナップが乱れ、スナップを気にすると足が出ない。そのジレンマに悩んだときは1学年上のCだった森田陸斗さん(現・電通)に連絡をとり、アドバイスをもらった。「センターは目の前の相手には一歩出すか出さんかっていうところで当たらないといけないんですけど、森田さんのブロックはめっちゃ力が伝わってる。いつもケツが入ってるのがすごいと思って、そこを練習しました」

今シーズンはセンターとして奥野にスナップを出してきた(撮影・篠原大輔)

異例のトーナメントになった関西学生リーグ1部の戦いが始まると、関学のOLのスターターで4年生は高木だけ。4人の同期のOLは控えに回った。「フィールドに出て後輩を引っ張っていくのは自分やと思ってたんで、ほかの4回生の分も、最後まで体を張り続けるブロックだけはやろうと思ってました」。オフェンスの真ん中で決意に満ちたブロックを打ち続け、奥野らとともにチームを3年連続のライスボウルまで引っ張り上げた。

「5人で立ち向かう」

改めて関学のOLの強みを語ってもらった。「練習とミーティングを重ねて、ここに足を置けば自分は一番強く当たれるというのが分かってたり、相手のセットしてる位置によって自分のステップを決められたり。さらに試合の状況によって相手の動きが変わってくるので、それを瞬時に判断してプレー直前に隣のOLとコミュニケーションをとる。それができるのが、一番の強みなんじゃないかと思います」。賢く、そして強く。関学のOL道を突き詰めた人ならではの言葉だ。

12月29日のオンライン記者会見でにこやかに語る高木(関学ファイターズ提供)

いざ、ライスボウル。「僕らのOLはあまり強くないんで、コミュニケーションのところと、どんな相手が前にいてもスタートにかけて、先に当たれるかどうかがキーになると思います。1人が負けてても1人が助けにいくような、5人で強いOLになって立ち向かっていきたい」。奥野とフットボールができるのも最後だ。「一緒にずっと試合に出てきてるんで、お互いにしんどいときは声を掛け合ったりしてきました。そういうのがなくなると思ったら、ちょっと寂しいですね。まあ、試合はいつも通りなんで、いつも通りやって、4年間のすべてをぶつけてきます」。そして奥野は言う。「今年の慶太は覚悟が違う。めちゃめちゃ覚悟を決めてやってます」

1月3日、東京ドームで高木が奥野にスナップを出したところから、2020年シーズンの関学オフェンス最終章が始まる。

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