陸上・駅伝

チームにとっての4年生の存在と、メンバー起用の決め手 大志田監督×榎木監督対談2

7区を走った原富は区間2位の走りで、後続との差を広げた(代表撮影)

箱根駅伝2位の創価大学・榎木和貴監督と10位の東京国際大学・大志田秀次監督は、96年に中央大学が総合優勝したときの選手と指導者(肩書きはコーチ)という関係だった。2人の対談の2回目は、今年の箱根駅伝復路の走りと4年生について。自身のチームの特徴、相手のチームの印象、96年の中大総合優勝時のエピソードなどを語り合ってもらった。

中央大では指導者と選手 東京国際大・大志田秀次監督×創価大・榎木和貴監督対談1

選手層が現れた創価大の復路

創価大は5区の三上雄太(3年)が区間2位の走りで、2位に上がった東洋大学との差を2分14秒に広げると、2日目の9区まで独走した。山下りの6区は濱野将基(2年)が区間7位(58分49秒)で、2位に上がった駒澤大学に1分8秒差まで詰められたが、7区の原富慶季(4年)が区間2位(1時間03分12秒)で駒大との差を1分51秒まで広げた。8区の永井大育(3年)が区間8位(1時間05分10秒)で1分29秒差に追い上げられたが、9区の石津佳晃(4年)が区間賞(1時間08分14秒の区間歴代4位)と快走して3分19秒差まで広げた。10区の小野寺勇樹(3年)がそのリードを守れず、残り2.1km付近で駒大に逆転されたが、チーム最高順位の2位でフィニッシュした。

一方の東京国際大は往路を6位でフィニッシュすると、復路の6区で7位に後退したが、7区の佐伯涼(4年)が区間賞(1時間03分10秒)の走りで5位に浮上した。8、9、10区は苦戦が予想されたが、熊谷真澄、加藤純平、杉崎翼と4年生が踏ん張って10位でフィニッシュ。シード権を確保した。

東京国際大のアンカー杉崎は、主将の中島への思いを書いた腕をアピールしながらゴール(撮影・藤井みさ)

榎木和貴監督(以下、榎木): 復路も7区の原富と9区の石津の4年生2人は、往路の5人と同じ仕上がりで、選手の走りたいようにさせました。心配だったのが8区と10区でした。8区の永井は最初の5kmを14分50秒切りを目安に走り、余裕を持つことができたので、最後の5kmもペースダウンしませんでしたね。10区の小野寺は15分そこそこで入りましたが、単独走への自信のなさや、精神的なものが10km以降に出てしまいました。練習ではクリアした部分でしたが。

大志田秀次監督(以下、大志田): 復路では創価大の選手層の厚さが現れたと思う。10000m平均タイムはウチと同じで29分05秒だったけど、タイムトライアルで28分台を何人も出したと聞いていたし、16人のメンバー外の選手たちも記録会の5000mで14分一桁で走っていた。層は厚いし、勢いもあると感じられて、怖いなと思っていた。

榎木: 11月末の10000m挑戦会までは全員がほぼ同じ流れで練習してきました。箱根駅伝のチームエントリー後、16人は箱根用の練習に入りましたが、メンバー外の選手はもう一度5000mにシフトします。それでも12月の合宿に参加したメンバー外の選手3~4人が15km走を単独で44分台で走り、これは強いな、と自分のチームですが思いました。

東京国際大は20kmを走り切れるチーム

大志田: 強くなっていくチームは、メンバー外の選手がどれだけ頑張っているか、が1つの目安になる。今年の創価大はそこが上手くいっていた印象がある。

10区で逆転を許したものの、創価大は出場3回目にして過去最高の2位でゴールした(撮影・藤井みさ)

榎木: 東京国際大もブレーキをしない強さがありましたよね。ウチは前回9位でシードを取ることができましたが、取りこぼした区間が多かったんです。それに比べ今年の東京国際大は、大きなブレーキがありませんでした。去年は伊藤君(伊藤達彦、現Honda)など攻めていく区間もありましたが、今年も10000mの平均タイムは良くなくても20kmを走り切るチーム作りができていると感じました。シード権は確実に取るだろう、と思っていましたね。

信頼できる4年生と起用できない4年生

東京国際大は復路の7~10区を4年生が走った。7区の佐伯は区間賞と快走したが、8区の熊谷と9区の加藤の2人は区間14位、10区の杉崎は区間12位。順位を上げる走りはできなかったが、4年生たちが“ブレーキをしない”安定した走りでシード権確保に貢献した。それに対して創価大は、1区の福田(悠一)、7区の原富、9区の石津と4年生が重要な働きをしたが、前回走った複数の4年生がメンバーから外れている。

――同じくらいの力の選手の場合、東京国際大では4年生を起用した、ということでしょうか?

大志田: 佐伯のように最後だから頑張る、という選手が現れてくれました。駅伝は走ることへの思いが一番重要になるのですが、この1年はその点で4年生が強かった。ウチは毎学年たくさんの選手が入って、途中で駅伝メンバーにはなれないと判断してやめている選手も何人か出てしまう。残った4年生は、そういった現実も理解した上で競技をしてきています。夏合宿などもその思いで取り組んでいるので、最終調整になって1人で走ることをキチッとやっていけるのは4年生。それに対して1年生は、スタッフが付いてあげないとわからない部分が出てきます。

経験も大事だけど、経験よりも大会に合わせる気持ちや体力をつけることが重要で、その点で今回は、4年生を起用した方がいいと判断しました。新チームをスタートしたときから8、9、10区は4年生になりそうだぞ、と言ってきましたが、「だからこの1年しっかりやれよ」という意味で言ったわけです。それに見合う練習、取り組みを彼らがしてくれたから起用できました。

佐伯(左)は区間賞を獲得。5位に浮上し、シード権獲得への道筋をつけた(代表撮影)

榎木: 基本的な考え方は同じです。ウチも10月くらいまで16人中8人は4年生になりそうな状況でした。4年生は積み上げてきたものがありますし、4年生に走ってほしい気持ちもあります。起用した3人は前回も走って、それ以上の走りを、という気持ちが1年間見えていました。彼らは信頼のもと、起用することができたんです。しかしこれまでの箱根駅伝を見ていて、戦う覚悟を持てていない4年生もいると感じていました。年間を通して練習に覚悟の有無が現れます。新体制がスタートするとき、今年は勝負するぞ、ということは伝えています。練習にその覚悟が見えない4年生なら、若い選手の方を起用する選択肢が入ってきます。

大志田: 榎木が言った信頼を持てるかどうか、そこが一番大きいと思う。どこでそれを判断するかだけど、近々の練習なのか、日常生活なのか、今の勢いなのか、トータルなのか。指導者の勘もあるし、スタッフと相談して決めていくこともある。

9区石津は陸上人生ラストレースで区間新記録にせまる走り。監督からの信頼も厚かった(代表撮影)

榎木: 本来、信頼を持てていた4年生でも、ケガをした影響で本人から、「残り4週間で100%に持っていく自分が見えない」という申し出があって、他のメンバーも良い状態なので、その4年生を外す判断をした選手もいました。スタミナが課題だったにもかかわらず、年間を通してその部分の練習が継続できなかった選手も外しています。11月末や12月の10000mで28分台は出せるかもしれないけど、21kmを走るのは厳しいから、若い選手を起用する。そう本人にも言いました。

大志田: 選手を鼓舞するために「4年生」という言葉を指導者も使うんです。最後だから頑張ろうと奮起する選手が現れます。でも、なかには「おれは去年走っているから選ばれるでしょ」と考えて取り組みがおろそかになる選手もいます。中大が優勝した翌年が上手くいかなかったのは、そういうところもあったよね。

榎木: 半年間くらい、浮かれた雰囲気が続いていましたから。

中大が優勝した年は、半年ぐらい浮かれた雰囲気が続いていたと思い出す榎木監督(撮影・藤井みさ)

大志田: 4年生だから使う、のではなくて、本番で走ってくれると期待できる練習や取り組みをしているかどうか。それを判断したり、選手の気持ちを盛り上げるときに、4年生という言葉が出てくる。

榎木: 石津は前回9区で区間6位でした。私から見たら100%の走りでしたが、本人はシード争いをしていた中央学大に離されたことがすごく悔しいと感じて、この1年間頑張ってくれました。今年のチームはそういう気持ちで1年間を過ごした選手たちの思いが、結果に上手くつながりました。新チームがどうなるか、ですね。他大学の選手がトラックで記録を出すなどされたら、一度、自信をなくすかもしれません。そこからどう這い上がるか。出雲駅伝、全日本大学駅伝でしっかり戦えないと、優勝を目指すとは言えなくなるんじゃないかと思っています。

***

続きは明日公開です。96年の中央大学優勝時は、どんなチームだったのか?いま2人が語り合います。

in Additionあわせて読みたい