鹿児島のスーパー市民ランナー・中村高洋さん 37歳で初のサブ10達成!
今回の「M高史の駅伝まるかじり」は鹿児島県のスーパー市民ランナー中村高洋さん(京セラ鹿児島)のお話です。名古屋大学で全日本大学駅伝出場。名古屋大学大学院では日本学生ハーフ4位。社会人になってからは会社(京セラ)の同好会に所属し、市民ランナーとして年々自己記録を更新。
昨年の全日本実業団ハーフでは1時間00分57秒の好記録をマークし、世界ハーフマラソン選手権の日本代表にも選出されました(コロナ禍により派遣中止)。先日行われたびわ湖毎日マラソンでは37歳にして初のサブ10(2時間10分切り)を達成。今なお自己記録を更新し続けています。
陸上競技が楽しくて
石川県出身の中村さん。「市民ランナーをしていた父の影響で走り始めました」。小学校のマラソン大会でも上位に入賞。走ることが当たり前という生活で、中学で陸上部に入りました。
中学時代は800m、1500mを中心にやっていた3年生まで着実に記録を伸ばしていき、800mでは県通信大会6位、県総体7位に入りました。
小松高校へ進み、高校でも陸上部に。「周りのレベルも一段と高くなりましたが、モチベーションが高い先輩や同級生に囲まれて意識の高い中で取り組めました」。小松高校は進学校ということで「勉強も部活も両立していました。まわりもそうだったので自然に入っていくことができましたね」と文武両道を実践していました。
高校でも順調に記録を伸ばし、3年生では県大会で入賞。800m、1500m、さらには4×400mリレーでも北信越大会に出場しました。400mも52秒台で走っていた中村さん。「1、2年の時は中距離で速い先輩がいて(インターハイ予選に出場できる各種目の3人の枠の)メンバーに入れなくて400mに出たこともあったんですよ」。高校時代にスピードを磨いていたことが今の成長にもつながっていると感じているそうです。
一方で5000mのトラックのベストは17分台。駅伝やロードレースにも出場していましたが、目立った実績は残せなかったそうです。それでも「高校時代はとにかく楽しかったですね。練習も今思えば目一杯やっていなかったですし、陸上をずっと楽しいと思えていたのが今につながっていますね」と振り返られました。
名古屋大学で実力を伸ばし、全日本大学駅伝出場
「受験勉強も頑張りました」ということで高校卒業後は難関・名古屋大学へ。
「名古屋大学には優秀なコーチもいて、選手のモチベーションも高く、全日本大学駅伝出場を目標にしていました。そういった環境にいられたのは良かったですね」。高校時代のベストが5000m17分台だったこともあり、最初はまったく練習についていけなかったそうですが、名古屋大学ならではの練習の雰囲気で少しずつ力をつけていき、記録も伸ばしていきました。
大学3年生になり東海インカレで1500m、5000mの2種目入賞。さらに、全日本大学駅伝では1区を任されるまでに成長を遂げます。「当時は5000m15分をちょっと切ったくらいでした。自分としては出ただけ、最低限まとめたという走りでした」。1区で区間22位の全日本デビューとなりました。
大学4年生では5000m14分26秒16、10000m29分48秒89まで記録を伸ばし、東海インカレでは1500m、5000mの2種目で2位に入りました。
文武両道!大学院の研究と日本学生ハーフの好走
名古屋大学卒業後は名古屋大学大学院へ。大学院では「X線構造解析」の研究をしていました。聞いているだけで頭が筋肉痛になりそうですね(笑)。
「研究は大変でしたが、時間の融通も効きました。例えば、全体練習の時に一回抜けて、また研究室に戻ってきてということもありましたし、夜中に走ることもありました」。うまく時間をやりくりして練習時間を捻出していたそうです。
その状況で大学院1年目には東海インカレ5000mで優勝を果たし、日本インカレにも出場。並みいる強豪選手が出場する中、中村さんはスタートダッシュを決めて、400mまで先頭に。「やぶれかぶれでしたね。すぐに後続に吸収されて、やっぱり違うなと思いました(笑)」。日本インカレ初出場は5000mで25位でした。
この年は出雲駅伝にも出場。ロードの走りにも磨きがかかり、3月の日本学生ハーフマラソン選手権では4位に。「ハーフマラソンでも記録を出したかったんですよね。箱根駅伝に出場している選手たちのように63分台を出したいと思っていました。集団の中で走っていたらいつの間にか前の方にいました。まさかここまで走れるとは……と驚きましたが自信になりましたね」。暴風雨、寒さの悪コンディションの中、1時間04分08秒で4位。「コンディションが悪くて全体的にペースが上がらなかったので自分にもついていけたのかなと思います」と謙遜されましたが、飛躍のレースとなりました。
大学院2年目のシーズンでは研究で多忙な合間を縫って練習を積み重ねていきました。「限られた環境でも、年々目標を立てて、継続することを心がけていました」。5000m14分08秒01、10000m29分15秒21とさらに記録を伸ばされました。
さらに大学院卒業間際に出場し、初マラソンとなったびわ湖毎日マラソンでは、2時間20分43秒で走破。「2時間20分を切りたいという目標ができ、社会人でも続けるモチベーションになりました。ただ、ここまでのレベルで続けられるとは思っていなかったですね」
社会人になっても記録更新
京セラに入社し、フルタイムで仕事をしながら、会社の陸上同好会に所属しました。
「会社の同好会では集合練習が週2回、トラックでスピード練習をしています。それ以外の日は各自練習でフリーなのでロード走などをおこなっています。同好会ですけど5000m14分30秒前後で走るメンバーも4人くらいいるので、レベルは高いと思います」。もはや同好会の域を超えているほどハイレベルですね(笑)。
社会人2年目には1500mで日本選手権にも出場。「当時、九州選手権で優勝し、日本選手権に出場できました。25歳の時でしたね。ただ日本選手権では全く歯が立たなくて予選落ち。レベルの差を痛感しました」
その後も年々、少しずつ記録を更新。30歳で初の5000m13分台、32歳で初の10000m28分台で走破。「とにかく嬉しかったですね。学生の時から長年の目標でしたから」。学生時代からの目標達成後もさらに中村さんの快進撃は続きます。
幻の世界ハーフ日本代表からのマラソンサブ10達成!
2019年の都道府県駅伝には鹿児島県代表に選ばれて3区に出場。実業団や大学生の強豪選手たちと競り合い、4位で襷(たすき)リレー、堂々区間9位の好走でした。
「1区の高校生、2区の中学生がいい走りをしてくれて、ほぼ先頭(先頭と1秒差の2位)で襷をもらいました。他の選手に引っ張ってもらって当時の自分の力以上のものが出せましたね。先頭を走っていることに気持ちも高揚しました」。全国で上位争いできるという自信がついたレースとなりました。
都道府県で自信をつけて、臆することなくついていった2019年の全日本実業団ハーフでは1時間01分39秒で9位に。さらに翌2020年の全日本実業団ハーフでは1時間00分57秒で8位の快走!「60分台は我ながら信じられなかったですね! 自分が大学生の頃、10数年後こんな風になっているとは夢にも思わないですね(笑)」。ご自身もびっくりの走りでなんと世界ハーフマラソン選手権の日本代表に選出されました。ただ、新型コロナウイルス感染拡大により世界ハーフへの派遣は中止となってしまいました。
幻の世界ハーフ日本代表となった中村さんでしたが、コツコツと鍛錬し続け、昨年11月の八王子ロングディスタンスでは10000m28分15秒66と大きく自己記録を更新。「嬉しかったですが、最近はかなりレベルが上がっていますからね」。と謙遜されます。
5000m、10000m、ハーフマラソンと自己記録を伸ばしてきましたが、マラソンでは2018年の東京マラソンで出した2時間14分25秒が自己ベストでした。
「これまでマラソンはなかなかうまくいかなかったですね。なんとかサブ10を狙っていきたいです」と語っていた中村さんは先月28日に行われたびわ湖毎日マラソンに出場。
レース前に「30kmまでは1km3分00秒のペースメーカーについていって、そこから粘ってサブ10を!」とレースプランを描いていた通り、30kmを1時間30分04秒で通過。終盤も粘って粘って、2時間09分40秒(38位)で見事に念願の初サブ10を達成しました。
「とにかく嬉しいの一言です。このような記録を自分が出せるとは思っていなかったですし。本当にここまで続けてきて良かったと思いました。ただ周りのレベルはさらに上がってますし、自分自身もまだ行ける感じはあるので、引き続き記録向上を目指して頑張っていきたいです」。さらに高みを目指しています。
さらなる進化を求めて
最近は新しい練習も少しずつ取り入れているそうです。「スピード練習のペースの配分を変えてみたり、例えば1000mのインタバールを1200mにしてみたり1600mにしてみたりですね。1000mだと勢いで乗り切れるのですが、1600mだと粘らなきゃいけないです。キツいんですけどね(笑)」。良いものはそのまま継続して取り入れ、合わなかったら続けないなど試行錯誤しながら37歳になってもさらに進化し続けています。
また、練習会以外の日は仕事が終わって、帰宅後から走り出すこともあれば、家族との時間を過ごして21時過ぎから走り始めることも。「JOGの日は20kmくらいを基本にしています」ということから、練習が終わるのも夜遅くになりますね。
「まだまだいけるという感覚があります」。自己記録を更新し続けるための体のケアも必要不可欠です。「ストレッチは毎日しています。あとは、疲れを感じた時は温泉によく行きます。鹿児島県は温泉が豊富で銭湯みたいな感じで近くにたくさん温泉があるので、よく利用しています」。鹿児島の温泉が激走を続ける中村さんの疲れた体を癒してくれるようです。
さらに気分転換として「お酒は大好きです(笑)。レース前だけは控えるんですけどね。楽しみを見出すこと、目標を見つけていくこと、過度にストイックになり過ぎないことですね」。中村さんはあくまでも自然体で競技をそして成長を楽しまれているような感じが伝わってきました。
最近は実業団に所属していない市民ランナー的な立ち位置で活躍している選手の活躍が目立ちますが「5000m13分台、10000m28分台で走る市民ランナーもいますからね。負けたくないですし、自分も頑張らなきゃと刺激になっています」。市民ランナー界も切磋琢磨しています。
今後の目標については「世界ハーフに出場したいですね。(派遣中止となった)前回が年齢的に最初で最後のチャンスだと思っていましたが、どうしても諦められなくて……。来年また選考に絡んでいきたいです。そして、色々な種目で引き続き自己ベストを更新したいです」と力強く語られました。
今でも目標に向かって走り続けているモチベーションについては「タイムを出すことが嬉しいですし、大きな目標になっています。練習で辛いこともありますが、ベストを出すとそれも全て忘れるくらい嬉しいですね。年齢を重ねてから突然伸びることもありますから」。37歳にして現状打破し続ける中村高洋さん。さらなる活躍に注目ですね!