サッカー

連載:監督として生きる

価値を示すために勝つ、スポーツで人々を幸せにしたい 早稲田・福田あや監督3

自分が目指すものとチームが目指すものが一致し、福田さんは早稲田大ア式蹴球部女子部の監督に就任した(写真は全て本人提供)

早稲田大学卒業後、なでしこクラブなどで監督・コーチを経て監督兼経営者へ。そして昨年より、母校である早稲田大でア式蹴球部女子部の監督として後輩たちを指導しています。連載「監督として生きる」ではそんな福田あやさん(36)の現役時代も含め、3回の連載で紹介します。最終回は早稲田大ア式蹴球部女子部の監督として、そして夢についてです。

スポーツとビジネスをつなぐ会社を設立

福田さんは2018年、東京国際大学女子サッカー部監督に就任。80人規模で2チーム構成にしても選手があふれるほど。それほどの大所帯のチームを指導するのは初めてのことだった。スタッフ同士のコミュニケーションを密にしチームを支えようとしていた最中、福田さんは体調を崩し、志半ばで退任。入院したベッド中で、自分のこれからのキャリアについて改めて考えた。

「今では現役選手もデュアルキャリアやセカンドキャリアを考え、人生のプランニングに動いています。指導者もただ指導しているだけでは生き残っていけないだろうし、置いて行かれてしまうんじゃないかという危機感がありました。もっと高い視座が必要だし、多方面に勉強しないといけないという意識は私の中にずっとありました」

福田さんは19年に合同会社Wetanz(ウィタンジー)を設立。スポーツやアスリートと社会の融合を掲げ、互いの価値を高めることを目指している。

1つはアスリートのマインドを変えること。「その競技の第一線で活躍し続けることは、言ってみれば東大に入るよりも難しいことだと思うし、もっと誇っていいことだと思っています。なのに引退が近づくと『自分にはサッカーしかない』というマインドになってしまうのはもったいない。もしそう思っているなら、何か身につけてもっと自分に自信をもって、セカンドキャリアに踏み出してほしいんです」。もう1つはスポーツの可能性を感じている企業をスポーツとつなぐこと。双方がつながればもっと価値を生み出せる。福田さんはそう確信しているからこそ、その橋渡しとなる役割を担えたらと考え、今はそのための布石を打っている途中だという。

2019年にはインドのアメリカンスクールでサッカーを教えるなど、福田さん(右端)は様々な可能性を模索した

監督就任初年度にコロナ禍、今できることを

そして昨年、早稲田大ア式蹴球部女子部から監督のオファーを受けた。それまでは即決で監督やコーチを引き受けてきたが、この時は双方がどんな思いを持っているのか、ともにどんな未来を作っていけるのか、時間をかけて話をしたという。

「早稲田は強豪で勝つことが求められますが、それと同時に世界をリードする競技力や社会力、人間力を育てることも大切なことであり、サッカー界を引っ張る人材を輩出することも使命です。そのあたりが私の中で思い描いていることと、これから必要になっていくこととで合致があったので、監督を引き受けました」

しかし就任してすぐに新型コロナウイルスの影響を受けて大会が延期・中止となり、練習もできなくなった。この先どうなるか、誰も分からない。それでも限りがあるのが学生スポーツだ。

福田さんはこの時間をどうプラスに捉えてチームの成長、自分の成長につなげられるか、まずはそこから考えるようにした。ときには遊びの時間も設けながら、選手たちはオンラインを通じてミーティングを行い、トレーニングプランを考える。また、「高校生応援プロジェクト」を立ち上げ、高校生を対象にサッカーや進路の相談に乗るなど、自分たちが今できることを考え、行動した。「コロナ禍になったことは決していいことではないけど、だからこそ視座を広げてアイデアが広がり、周りのために何かできることはないかという発想も増えたと思います」と福田さんは言う。

大学4年間という限られた時間の中でどう成長できるか。それを福田さん(右上端)は学生たちに問い続けている

またこの時間を通じて、元なでしこジャパンの選手や海外で働く人、医療従事者、ビジネス界などで力を発揮しているOBOGとオンラインセッションをすることもあった。これは自らもOGである福田監督が提案したもので、学生にとっては将来に対するヒントになり、OBOGにとっても学生たちから刺激をもらうきっかけになったという。

この勝利は自分たちの未来にもつながっていくもの

昨シーズン、早稲田は5年ぶりに関東大学リーグを制したが、インカレでは2回戦敗退となった。スタッフも一新して臨んだシーズンは、手応えも課題も感じた1年だった。その経験を経て臨む今シーズン、チームは4冠(関東リーグ、関東大学リーグ、皇后杯関東予選優勝、インカレ)を目標に掲げた。関東リーグは8月26日時点で1位、関東大学リーグは前期を暫定3位で終えて後期に入った。2年目を迎えるにあたり、福田さんは様々な取り組みも始めたが、1年目に比べてチームの方針はシンプルになってきたと話す。

「なんで4冠を掲げているのか、なんで勝つことを目標にしているのかを選手によく聞いています。試合に勝つことは当然のことなんですけど、挑戦していることの証明やこれからの自分たちの価値を示していくために、結果が必要だよねと。その勝利は自分たちの未来にもつながっていくもの。その上で4冠を目指し、何か活動の提案があった時も、『それはどう4冠に、未来につながるの?』とシンプルに考えられるようになりました」

もちろん葛藤はあり、迷いもある。それでも芯となる部分が明確になったからこそ、皆が行動し、状況を判断して誰かがフォローし、より大きなアクションへとつながっている。そんな人間力の高さは、福田さんが早稲田大ア式蹴球部女子部の部員だった時から変わらず、部に受け継がれているものだという。

4冠の先にどんな未来があるのか、福田さん(右から3人目)は学生たちにイメージさせることで行動を促してきた

福田さんはこれまでを振り返ると、節目となるところで「サッカーに呼ばれた」と感じている。指導者として「どこよりも魅力的なチームにしたい」「見ている人の心に刺さるようなプレーを見せたい」と思いながらチームを支えてきた。チームを勝たせることは監督として必要なこと。その上で、サッカー業界に携わる1人として「サッカーやスポーツの力でもっと多くの人々を幸せにしたい」という夢がある。

「大人になればなるほど、夢がホワっとしてきました。昔はそれこそ、監督業をするのであれば代表監督になりたいと夢があった。でも今はもっと広く全体の空気感で、サッカーやスポーツの力でもっと多くの人々を幸せにしたいし、子どもたちにもっと夢をもたせられるような世界にしていきたい。例えば早稲田の活動が、女子サッカー、サッカー界、スポーツ界に対して『ああいうことをやっているんだ。だったら自分たちもできるんじゃないか、ああしたらいいんじゃないか』というきっかけになって、少しでも世の中を変えていく旋風を巻き起こせたらいいなと思っています」

だから今は、目の前のことに一生懸命取り組む。サッカーやスポーツで皆が笑顔になれる未来をまっすぐに見据えて。

監督として生きる

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