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連載: プロが語る4years.

中堅からベテランへ「これが藤井祐眞だ」というパフォーマンスを 川崎・藤井祐眞4

藤井は川崎(当時は東芝)に入団してから8年目を迎えた(写真提供・B.LEAGUE)

今回の連載「プロが語る4years.」は、Bリーグ・2020-21シーズンにレギュラーシーズン ベストファイブ(2年連続)、ベストディフェンダー賞(2年連続)、ベストタフショット賞を受賞した川崎ブレイブサンダースの藤井祐眞(ゆうま、29)です。2014年に拓殖大学を卒業し、同年からNBL・東芝ブレイブサンダース神奈川(現・川崎ブレイブサンダース)に加入してプレーしています。4回連載の最終回は川崎で戦う現在についてです。

怒られたくない」から始まったバスケ道 川崎ブレイブサンダース篠山竜青・1

天皇杯優勝で波に乗った中でのチャンピオンシップ2連敗

2020-21シーズンは、川崎にとって天国と地獄の双方を味わうシーズンとなった。

スタイルの定着とけが人に苦しんだ前半戦を乗り越え、3月の天皇杯でBリーグ開幕以来初の優勝を達成。その後のレギュラーシーズンも並み居る強豪を寄せ付けぬ戦いぶりを見せたが、優勝を狙ったチャンピオンシップは、宇都宮ブレックスに敗れて準決勝敗退。チャンピオンシップ敗退が決まった直後のミーティングルームの様子を、クラブの映像カメラが記録しているが、選手たちは皆、呆然(ぼうぜん)とした表情だった。

シーズン中に5度戦った内、1度しか負けなかった相手に、まさかの2連敗。藤井は「1戦目の入りが全てだったと思います」とこの戦いを振り返る。

「出だしでかなり離されて、なんとか追いついて、ラストショットが入ればオーバータイムというところまでいきましたけど、あそこで勝っていたら多分2戦目は全く違う展開になっていたと思います。2戦目の宇都宮は本当に強かったです。宇都宮が持ち味とするディフェンスだけじゃなくて、オフェンスでもみんなが動いてシュートを作れていて、シーズンで一番強かったんじゃないかな。だからこそ、1試合目で勝っていれば……って思わずにはいられないです」

試合終了まで残り9秒。タイムアウト明けのプレーで川崎のニック・ファジーカスが打った3ポイントシュートは外れた。藤井はこのこぼれ玉に食らいつき、相手のファウルを誘いながら残り1秒で3ポイントを打ったが、ボールはリングに届かなかった。当然、責める者は誰もいない。しかし藤井は1人、首をかしげ、悔しそうな表情を見せていた。

宇都宮ブレックスとのチャンピオンシップ準決勝で、藤井は大きな悔いを残した(写真提供・B.LEAGUE)

勝てば第3戦に希望をつなげ、負ければシーズン終了。第2戦は川崎にとって絶対に勝たなければいけない試合だったが、初戦をとった宇都宮は、更にエナジーの高いバスケで彼らを突き放した。第4クオーター、11点ビハインド。流れは宇都宮。こういった逆境で誰よりも力を発揮するはずなのが藤井だが、このクオーターわずか3分しかコートに立っていない。クオーター開始から程なくして相手との交錯で足を負傷し、交代。再びコートに立ったのは、試合終了まで1分半、18点ビハインドという場面だった。

「傷めた直後は『ちょっとやばいな』と思いましたけど、シーズン最後の試合になるかもしれないし、(佐藤賢次ヘッドコーチに)『出られます』って伝えてはいました。個人的には劣勢の場面の方が燃えるし、自分がなんとか打開してやろうって思っていただけに、長くベンチに下がることになってしまったのは悔しかったですが、そういうことも含めて勝負の世界だと考えています」

篠山「リーグ屈指のガードとしての貫禄が出てきた」

川崎(当時は東芝)加入から8年目となる2021-22シーズン、藤井は30歳を迎える。加入当初からしばらくは、篠山竜青と辻直人(現・広島ドラゴンフライズ)のバックアップとして、主にディフェンスでチームに貢献するのが役割だった。しかしここ数年で藤井は、攻守両面でチームに大きな影響を与え、主軸を形成する選手へと変貌(へんぼう)を遂げた。

勝負への貪欲(どんよく)さとほとばしるエネルギーは、中堅からベテランに移行しようとしている今も衰えないどころか、総量を増すばかり。2020-21シーズン、ある記者が藤井を若手と勘違いして質問する場面に遭遇したが、その記者が認識を誤るのも理解できるくらい、藤井は常に熱く、激しくコートを駆け回る。近年はさらに、リーダーとしての風格も備わってきているというのが、シーズン前の篠山の見立てだった。

「今までの祐眞は、他の選手からなかなか信頼されず、ああだこうだ言われながら歯を食いしばってやっているイメージだったけれど、今は日本人からも外国籍選手からもリスペクトされて、『祐眞についていかなくちゃいけない』と思わせる存在。リーグ屈指のガードとしての貫禄が出てきたと思います」

今シーズンこそ両獲りを

特に外国籍選手と藤井の関係の良さは、はたから見ていてもよく伝わるものがある。藤井と彼らのコミュニケーション手段は、本人いわく「基本的に日本語でゴリ押し」だそうだが、ジョーダン・ヒースとのコンビプレーは阿吽(あうん)の呼吸でなされ、パブロ・アギラールとのかけっこは試合前の恒例行事に。プレースタイルや相性など色々な要素が考えられるが、コート上で発揮される藤井の全身全霊のプレーが、彼らに「ユウマのやりたいことに協力したい」と思わせる面は間違いなくあるだろう。

8年目を迎えた今、リーダーとして思いも胸に、全身全霊のプレーをみせ続ける(写真提供・B.LEAGUE)

ゴール下での1対1、ドライブでゴールに切り込んだ時の判断、外国籍選手とのコミュニケーション……。加入からの7年で、藤井は様々な課題を一つずつクリアしてチームに必要不可欠な存在となり、リーグを代表するガードになり、バスケファンの間でしばし「なぜ藤井を日本代表に呼ばないのか?」と議論が起きるような選手になった。

チームが目指すは、2020-21シーズン果たせなかった天皇杯とチャンピオンシップの両獲(ど)り。藤井はその目標に最大限貢献したいと語った上で、「昨シーズン以上に『これが藤井祐眞だ』というパフォーマンスを発揮したい」と意気込む。藤井が持ちうる全てのエネルギーを出し尽くした先には、きっと歓喜の瞬間が待ち受けているはずだ。

プロが語る4years.

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