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連載:OL魂

立命館大・森本恵翔 高校通算31本塁打の超大型スラッガー、再び目指す甲子園

森本は大きいだけでなく、動けるOLだ(撮影・北川直樹)

大きい。小学6年生のときにはもう180cmあったそうだ。立命館大学パンサーズの森本恵翔(けいしょう、2年、初芝橋本)はいま、身長193cm、体重118kg。今年2月にOLになったばかりなのに、この春から左タックル(T)のスターターに名を連ねる。高校までは野球に没頭し、高校通算31本塁打を放った強打者だった。アメフトに転向し、再び甲子園を目指している。

野球で培われた弱音を吐かない強さ

立命のように右投げのQBで戦うチームは、パスの際に死角となる背中側を守る左Tに最強のOLを配置することが多い。森本はリーグ初戦の京都大学戦はDLにスピード負けするシーンもあったが、2戦目の甲南大学戦ではしっかり下がって長い腕を張り、相手のラッシュをはね返していた。ランのブロックでは1対1で相手を仰向けに倒したり、5ydも押し込んだり。何より、必ず最後までプレーし続ける姿が印象的だった。

この春からチームを率いる藤田直孝監督は森本について、「弱音を吐かないですね。多少のけがなら練習も休みません。そこらへんは野球で培われた強さなんでしょうね。OLは受け身の選手が多いんですけど、彼は積極的です。そこが魅力だと思ってます」と評した。

山田(71番)とのコンビネーションも徐々に高まっている(撮影・北川直樹)

森本はアメフトを始めた昨年はTEだった。巨漢でありながら、50mを6秒4で走るスピードも持ち合わせる。ずっと野球をやってきたんだから、ボールを捕るのも得意だろう。チームとしては無敵のTEになれると踏んだはずだ。しかしふたを開けると、捕れなかった。「あんまり野球のセンスがなかったんで」と森本。ブロックで頑張ろうと練習に励んだが、試合出場はキッキングゲームに限られた。

そして2月にOLに転向。大きさと強さとスピードでのし上がり、ブロックのニュアンスなど細かいことは知らないまま、コンバート後2カ月で試合に出た。がむしゃらに練習して左Tのスターターの座をつかみ、4年生OLの山田鱗太郎(りんたろう、立命館宇治)にいろいろ教えてもらいながら成長。本番の秋もオフェンスの最前線で奮闘している。

高嶋仁さんも「しかし、でかいなぁ」

森本は和歌山県のほぼ中央部にある有田川(ありだがわ)町で生まれ育った。「ほんまに田舎です。5年前にやっとコンビニができました」と森本。地元の金屋少年野球クラブで全国大会に出場。小6のときは、阪神タイガースジュニアでもプレーした。中学時代には紀州ボーイズで全国大会を経験。中2で189cmあり、関西の中学球界では知られる存在だった。智弁和歌山高校に進みたかったが、声はかからなかった。「それなら智弁和歌山を倒せる学校で寮生活がしたい」と、2001年夏の甲子園に出ている私立の初芝橋本(和歌山県橋本市)に進んだ。ずっと清原和博さんが甲子園で打った特大ホームランにあこがれていた。

高2になるとき、京都の北嵯峨、鳥羽、立命館宇治を率いて春夏通算10度の甲子園出場経験がある卯滝逸夫(うだき・いつお)さんが監督に就任した。卯滝監督は「足が速くないと試合では使わない」との方針だった。それで森本もスピードに磨きをかけた。

高校最後の1年はコロナ禍に見舞われた。夏の甲子園が中止になり、甲子園へ出るラストチャンスがなくなった。当時を振り返って森本が言う。「夏がなくなっても、みんなあきらめてなかった。周りがそういうヤツらばっかりで。だから和歌山の独自大会でいい結果が出せたと思います」。4番ファーストで迎えた独自大会。初戦となった2回戦は10-5で那賀を下し、3回戦は海南に1点差勝ち、そして準々決勝の和歌山東戦で、森本に一発が出た。翌日の朝日新聞和歌山版の「高嶋仁の目」というコラムで、監督として甲子園通算68勝の高嶋さんが森本に触れている。

しかし、でかいなあ。初芝橋本の4番・森本恵翔君(3年)は191cm、105kg。ほれぼれするような体ですね。三回の2点本塁打が与えたダメージは大きかったと思います。カウント2-2と追い込んだ和歌山東のバッテリーは少し攻め方を間違えました。変化球か、直球なら高めか内角がよかったんですけど、真ん中ちょっと外寄りの直球。一番素直にバットが出るところでした。少し芯を外れたかもしれませんけど、力で左翼席へ持っていきましたね。

高3の夏、森本は和歌山県の独自大会準々決勝でホームラン(撮影・朝日新聞社)

この日は森本の18歳の誕生日。記念日にホームランが出てコールド勝ちし、準決勝の箕島戦も2-1と勝った。いよいよ智弁和歌山との決勝だ。甲子園にはつながらなくても智弁に勝って終わりたい。しかし相手が何枚も上手だった。1-10の完敗だった。森本の第1打席はサード強襲ヒットかと思われたが、記録は失策。第2打席は空振り三振、第3打席はセカンドフライ。そして九回2死で迎えた第4打席は、ドラフト4位で広島東洋カープに入った右の本格派である小林樹斗(たつと)との対戦。自慢の直球で勝負してきた小林に対し、森本も渾身のスイングで応戦。カウント2-2からの7球目、外角高めに空振りし、小2で始まった森本の野球人生が終わった。

野球とは全然違った練習のテンポ

もちろん大学でも野球を続けて、プロ野球を目指すつもりだった。しかし、3年の春に受けた関西の強豪2大学のセレクションに失敗。そのとき森本には「あんまり強くない大学で野球を続けるぐらいなら、新しいスポーツをやってみたい」という考えがあった。高校の野球部の一つ上の先輩にアメフトの大好きな人がいて、「大学はアメフトしたら?」とずっと言われていた。だから大学でアメフトに転向することも、もともと視野には入れていた。

卯滝監督に相談すると、立命館宇治高の監督時代から立命館大のアメフト部とつながりがあり、連絡をとってくれた。パンサーズのセレクションを受けさせてもらい、進学が決まった。「もう一回甲子園ボウルで甲子園を目指せるってのも面白いと思いました」と森本。

高校まで「強豪」と言われるチームにいたことがなかった。入ってみると、練習は数分単位で区切られ、次々に次のメニューへと移っていく。「練習のテンポが野球とは全然違いました。本気で4年間取り組めるところでやろうと思ってたので、パンサーズに入れてほんまによかったです。ご縁に感謝してます」

オフェンスの仲間たちと、次のプレーへ向けて飛び出していく(撮影・北川直樹)

派手なマウスピース、「NFL」と書かれたグローブ

OLとしてやっていく上で大事にしているのは「しぶとさとしつこさ」だ。これは長らく野球をやってきた自分の強みでもあると感じている。「気を抜いたプレーはチームに悪い影響を与えてしまう。自分のパワーを最大限に生かしてブロックして、最後まで足をかき続けます」。QBの宇野瑛祐(3年、立命館守山)は森本について、「練習の映像を見たら、OLであいつのスピード感だけ全然違う。速さに驚かされてます」と話す。確かに最近のOLに見られなくなってきた前に出る爆発力が、森本にはある。しっかりダウンフィールドブロックにも出て、タックルされて倒れた味方のRBやQBに手を貸して立たせ、背中をポンポンとたたくシーンもよく見られる。野球とはまた違うチームスポーツのよさにも気づき始めているのだろう。

初戦の京大戦で1年生WRの木下(82番)に駆け寄り、声をかけた(撮影・篠原大輔)

カラフルなマウスピースをつけ、手を開くと「NFL」と書いてあるグローブを着ける。「派手な色が好きなんで、歯医者さんで一番派手なマウスピースを選びました。チームでこれ使ってる人は誰もいません」と笑った。

前半は苦しんだ京大戦。後半は先にタッチダウンを奪い、大喜び(撮影・篠原大輔)
カラフルなマウスピースをかみしめ、今日も相手にぶつかっていく(撮影・篠原大輔)

和歌山の生んだ超大型アスリートは言う。「タテにブロックして開けた道を走ってくれたときが一番うれしいです。OLとしてまだまだ覚えることも多いですけど、学生を代表する選手になっていきたいと思います」。最上級のOL魂の持ち主が、滋賀県草津市の練習グラウンドで日々成長を重ねている。

森本はチームのイヤーブックの「今年の(個人の)スローガン」に「ド根性」と書いている。

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