陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

島原駅伝を制し、19年ぶり出雲駅伝を決めた鹿屋体育大学で「ジョグオブラ」を体感!

鹿屋体育大学は島原学生駅伝で25年ぶりの優勝を飾り、19年ぶりの出雲駅伝出場を決めました!(すべて提供・鹿屋体育大学陸上競技部)

今週の「M高史の陸上まるかじり」は鹿屋体育大学のお話です。昨年12月2日に行われた島原学生駅伝(九州学生駅伝)で実に25年ぶりとなる優勝を飾り、19年ぶりの出雲駅伝出場を決めました。

前回の島原駅伝優勝メンバー、松村勲さんが監督

鹿屋体育大学といえば「永田宏一郎さん」のイメージを抱く方も多いのではないでしょうか。第32回全日本大学駅伝で区間距離変更前となる1区の区間記録を更新(当時)。国際千葉駅伝では1区10kmで27分40秒をマーク。1500m3分43秒11、5000m13分30秒12、10000m27分53秒19、ハーフマラソン1時間01分09秒の記録は、今でも鹿屋体育大学記録として残っています。ダイナミックな飛ぶような走りで、多くのファンを魅了しましたよね! 社会人では故障が重なったことで、惜しまれながらも現役を引退されました。現在は鹿児島商業高校で指導をされていて、今でも5000m14分30秒ほどで走れるそうです!

前回、島原駅伝で優勝したときは永田さんが出場されていました。そして当時の優勝メンバーで主将をされていたのが、現在、鹿屋体育大学で指導されている松村勲監督です。

鹿屋体育大学陸上競技部、中・長距離パートの皆さんです!

強くなるための環境が整っているキャンパス

鹿児島空港から高速バスに乗り、鹿児島県鹿屋市を目指します。鹿屋のバスターミナルで松村監督が出迎えてくださいました。昼食をご一緒しながらマニアックな陸上トークで、時間が過ぎることを忘れてしまうほど盛り上がりました。松村監督は陸上大好きということが、お話の内容からも伝わってきます。

鹿屋は食事がおいしく、温泉もあり、自然も豊かで景色も最高です! 特に鹿屋体育大学の周辺は街灯もほとんどなく、晴れた夜は星が本当にきれいなんだそうです。泊まった日は曇っていてあまり見られませんでしたが(笑)。選手の皆さんは大学陸上界では珍しく、車でキャンパスやグラウンドに通っています。勉強にも競技にも打ち込める素晴らしい環境です!

キャンパスはとても広大で、トレーニングするための環境もバッチリ整っています。400mトラック、750mのロード、1.86kmのロードコース、グラウンドの周りには芝生、大学のそばには「山コース」と呼ばれる起伏の激しいロードコースもあります。鍛えがいがありますね!

グラウンドに到着すると、選手の皆さんが明るく元気いっぱいに出迎えてくださいました。中学、高校、大学と色々なチームに伺ってきましたが、元気の良さは過去一番かもしれません(笑)。皆さん「現状打破!」を気に入り、連呼してくださいました!

中・長距離をご指導されている松村勲監督です

松村監督とのお話では「理論」「実践」「自主性」というキーワードが出てきました。監督不在の時でも自分たちでしっかり練習ができるのが、鹿屋体育大学の強みです。

その一つとして走る速度に合わせた「ランニングポイント」を導入しているそうです。

ペースに応じて点数化し、例えば同じ距離を走ったとしても、ペースが速くなるほどポイントが高くなっていきます。走行距離だけでなく、ペースも加味して数値化しているため、トレーニングの負荷がよりわかりやすくなりますね。ランニングポイントはゼミの研究で活用されているそうですが、チームにも還元されているようです。

成果は記録にも表れています。例えば、男子の5000m。選手の皆さんの高校時代の5000m平均は15分27秒。そして現在のチーム平均が14分30秒ということで、約1分も記録を更新。驚きの自己記録達成率ですね!

19年ぶり出雲駅伝出場!男子長距離パートの皆さん!

「ジョグオブラ」M高史は出し切りました!

取材に伺った日は「ジョグオブラ」というまさに「理論」と「実践」を体現するかのようなトレーニングが行われていました。

オブラについて松村監督に解説していただきました。オブラはアルファベットでOBLAと書き「onset of blood lactate accumulationの略で、日本語訳的には『乳酸蓄積開始点』となります。人間のエネルギー代謝のうち、糖代謝の代謝物として血中に出てくる乳酸ですが、それもエネルギー源として再合成されます。その血中乳酸濃度がちょうど4ミリモルあたりで、その再合成より蓄積量が上回るラインとされ、OBLAと名付けられています。あまり乳酸が蓄積され過ぎると、体内に酸がたまりすぎて体が動かなくなります。そのため、マラソンはこのライン以下で走ることができると言われています」と学術的なお話を詳しく教えていただきました。このペースを感覚的に表現すると、「ある程度の距離を走ると体が動かなくなる、手前のギリギリを攻めたペース」と解説してくださいました。

OBLAは東京オリンピック男子1500m金メダルなど、数々の輝かしい実績を持つノルウェーのヤコブ・インゲブリクトセン選手もトレーニングに組み込んでいるそうです。

ちなみに、鹿屋体育大学のジョグオブラは……。1周1.86kmのロードコースで1周おきに、ジョグ、OBLA、ジョグ、OBLAを繰り返すトレーニングです。これを選手によっては4セットこなします。いわゆる変化走のような練習で、トータルでも約15km走るので、スタミナもスピードも鍛えられますね。

このトレーニングを定期的に取り入れることで、選手の皆さんもメキメキと力をつけていったそうです。

M高史はBチームの練習をご一緒させていただきました。ジョグといっても選手の皆さんのジョグは速く、1km4分前後から4分を切るぐらいのペースで進みます。そしてOBLA! 鹿屋体育大学のロードコースは適度に起伏があり、途中、芝生エリアや2カ所ほど急斜面があり、そのたびに心拍数が上がります。OBLAのペースが終わったと思ったら、今度はジョグに戻ります。このジョグもそれなりにペースが速いので、キツく、休める感覚はないですね(笑)

キャンパス内のロードコースでジョグとOBLAを交互に繰り返します

ただ「現状打破!」と選手の皆さんと連呼しておりましたので、持てる限りの力を100%、いや120%出し切りまして、無事に4セットをコンプリートしました! これには松村監督や選手の皆さんも驚いていました(笑)。

選手の皆さんはこのメニューを定期的にこなしています。僕はレースのように、いやレース以上の出力で出し切りましたので、淡々とこなしていく選手の皆さんのすごさを身をもって体感しました。

種目によってセット数、距離は各自で調整。自主性が求められます

血中乳酸濃度4ミリモルを指標にしている練習ですが、僕はかなり出し切ったので、それ以上の負荷がかかっていたことでしょう。OBLAの目安は最大脈拍180らしいのですが、僕の腕時計では多少の誤差があるかもしれませんが、209まではね上がっていました。

余談ですが、この「ジョグオブラ」をこなしてから、翌週以降の走りにさっそく変化がありました。それまでよりも速いペースを維持できるようになりましたし、キツイところで、さらにもうひと粘りできるようにもなりました! 自分でも今後続けていきたいと思います(笑)。

本当にきつかったですが、皆さんのおかげで現状打破できました!

男女が一緒にトレーニングするのも鹿屋体大らしさ

練習後、選手の皆さんとダウンジョグを行い、お話を伺いました。

佐藤主理選手(3年、藤蔭)自己ベスト800m1分47秒63、1500m3分47秒55
「高校の顧問が鹿屋体育大学出身ということもあって、高校2年生の時に合宿に参加させていただき、良い雰囲気だなと感じました。九州の国立で設備も整っていますし、教員免許もとることができます。昨年の日本選手権はワクワクと緊張がありました。プラスで拾われて決勝に進むことができましたが、勝負することができませんでした。足りない点はスピードですね。入りから違いました。今年は日本インカレ優勝、日本記録を目指しています。大記録を楽しみにしています」

日本選手権800m5位入賞の佐藤選手

内田大樹選手(3年、熊本二)自己ベスト5000m14分20秒87
「高校時代5000mのベストは16分30秒でした。不完全燃焼で大学でも続けたいと思っていました。高校までは1km3分50秒のペース走など、これがきつい練習だと思っていたのですが、大学に入ったらこのペースはジョグでした(笑)。出雲駅伝出場に関してはチームでつかめたと実感しています。4年生としての目標は出雲駅伝で関東勢に挑み、関東以外ではトップを取りたいです。個人では5000m13分台を目指せる位置にいるので挑戦していきたいです」

大園倫太郎選手(3年、鹿児島中央)自己ベスト1500m3分51秒50、3000mSC8分49秒56、5000m14分09秒23
「高校3年生の時に(コロナ禍により)インターハイがなくなって、代替の全国大会で3000mSCに出場することができ、もう少し続けたいと思いました。続けるなら県内がいいなと思っていました。練習環境も自然が豊かですし、山もあります。印象に残っているレースは2年生の時の九州インカレです。8分55秒の大会新記録で走れて自信になりました。出雲駅伝では今年以上のチームを作って、関東以外のトップを取りたいです。個人では3000mSCで日本選手権出場と5000m13分台が目標です」

男子、女子とも高め合っています。左から大園倫太郎選手、岡村颯太選手、渡部鈴夏選手

また男子と女子が一緒にトレーニングをしているのも、鹿屋体育大学らしさが出ていると感じました。女子も楠(旧姓・鍋島)莉奈選手(現・積水化学)をはじめ、数多くの選手を輩出しています。

女子は現在、日本インカレや国体の800mで決勝進出を果たした渡部鈴夏選手(3年、開星)を中心に少数精鋭で現状打破しています。

渡部鈴夏選手(3年、開星)自己ベスト800m2分06秒97
「高校3年生の夏に高校の陸上部の顧問の勧めもあり、鹿屋体育大学の練習に参加させていただきました。レベルの高さに圧倒されましたし、男女の壁もなく、お互いに刺激し合っていて雰囲気の良さを感じていました。国体では決勝に進むことができましたが、塩見綾乃さん、田中希実さんをはじめレベルが高かったです。ラストに苦手意識があったのですが、変化走を取り入れて改善できてきました。今年は島根県記録2分04秒2を更新することが目標です。それを更新できれば、おのずと日本選手権の表彰台も見えてきます。国体も日本インカレも決勝でしっかり戦いたいです」

男女関係なく、一緒にトレーニングしています!

豊かな自然に囲まれ、競技にも勉強にも集中できる環境ということもあり、鹿屋体育大学は高校時代の記録を大幅に更新している選手が多いのが印象的です。中距離、長距離、駅伝、もちろん他のブロックの皆さんも現状打破されています!

M高史の陸上まるかじり

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