陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

男子は四釜峻佑選手・女子は樺沢和佳奈選手が優勝の実業団ハーフ M高史が走って取材

全日本実業団ハーフマラソン!実際に走ってリポートさせていただきます

今回の「M高史の陸上まるかじり」は2月11日に山口市で開催されました第52回全日本実業団ハーフマラソン大会のお話です。社会人のハーフマラソン日本一を決める今大会で活躍した後、大きな飛躍を遂げる選手も多いです。また、大学を卒業した選手たちの活躍を見ることができる楽しみもありますね。真冬の寒空の下、熱いレースが繰り広げられました。M高史は「選手」と「報道」で伺ってきました。「全日本実業団ハーフを実際に走ってみたリポート」にお付き合いください!

一昨年は関門を突破できず、人生初の収容車を経験

僕の所属事務所「クロスブレイス」は実業団登録をしているため、全日本実業団ハーフや東日本実業団選手権などにも出場しています。「ランニング×コメディ×YouTuber」のたむじょーさんも同じ事務所で、実業団の試合に出場していますね。

ランニング×コメディ×YouTuber 帝京大卒箱根ランナー・たむじょーさんの挑戦!

僕は一昨年の実業団ハーフに初出場した時、15kmの関門で引っかかり、人生初の収容車を経験したほろ苦い思い出があります(笑)。

全日本実業団ハーフで駒澤大・山野力が4位に 好記録ラッシュのレースを走って取材!

そもそも、男子の部に出場するには、「5000m17分00秒以内、10000m35分00秒以内、ハーフ1時間15分00秒以内」のいずれかが必要です。15kmの関門が54分00秒ですので、最低でも1km3分35秒以内のペースで走らないと関門を突破することはできません。一昨年はここで引っかかってしまったのでした。

今回はまず「関門を突破すること」そして「5分後にスタートする女子先頭集団に追いつかれないこと」さらに「1時間12分19秒の自己ベスト更新」までいけるか。3段階のチャレンジで臨みました。

個人的にはレースの1週間前、紀州口熊野マラソンという大会でフルマラソンのベストを11年ぶりに更新する2時間39分18秒で走れていたので、「ハーフマラソンでもベストにどこまで挑んでいけるか」というワクワクした気持ちもありました。

事前の天気予報では雪のち雨という予報でしたが、当日は少しパラっと雨が降った程度でレース中はやみ、気温も低く風も比較的穏やかという絶好のコンディションでした。10時に男子ハーフがスタート、10時05分に女子ハーフがスタート、10時10分に女子10kmがスタートしました。

スタート・フィニッシュ地点となった維新みらいふスタジアム

1km3分20秒でも「ペース遅い?」と錯覚

スタート・フィニッシュ地点となりました維新みらいふスタジアム(維新百年記念公園陸上競技場)の周囲には1周1kmのランニングコースがあり、レース前には多くの選手がそこでアップをしていました。

僕はマイペースに1km4分40秒くらいでのペースでアップしていたのですが、レース前から、もう「ゴボウ抜かれ」です(笑)。男子選手にも女子選手にもどんどん抜かれていきました。そして走りの軽さ、しなやかさに、ついつい見とれてしまいました。一流選手たちの動きを見るというのも勉強になりますね!

スタートの5分前にスタート地点で招集されました。都市マラソンではエリートの部などを除くと、早めに並んでスタート地点を確保するため、待機している時間も長くなりがちですが、この大会では結構ギリギリまでアップをしたりトイレに行けたりもできます。

その後は持ちタイムを基準とした場所に整列しました。僕は12列目、最後列からのスタートでした。といってもスタート地点を3〜4秒ほどで通過できるので、あっという間です。

1kmを3分20秒ほどで通過しましたが、先頭集団ははるか前方。当然のハイレベルで、キロ3分20秒でも「あれ、ペース遅いのかな?」と錯覚を起こしました。時計を見ると良いペースで進んでいるので、前は気にせず落ち着いて走ろうと前回の反省を生かしました。

コースは5kmまでに高低差30mの長い上り坂があり、中盤には細かな起伏があるものの、後半は下り基調。そこで前半は余裕を持ってレースを進め、いかに後半ペースを上げていけるか、というのが攻略の鍵になりました。前半に無理をしすぎたり、細かな起伏で足を使ってしまったりすると、後半で伸びずに他の選手との差ができるコースだなと感じました。

11.8km地点に折り返しがあるので、そこで男子の先頭集団とすれ違いました。1km3分を切るペースで進む男子先頭集団。走りながらですので、すれ違う瞬間はすごく勢いを感じます。

僕も折り返しを迎えると、男子最後尾の選手のすぐ後ろに収容車が!「もう収容車にはお世話にならないぞ!」と心の中で気合が入りました(笑)。その収容車の後ろでは、男子の5分後にスタートした女子先頭集団が良いペースを刻んでいました。

後半は下り基調。いかにペースアップできるかが記録を狙う上で鍵になります(提供・九電工陸上競技部・井手貴教コーチ)

3段階チャレンジの結果は!?

15kmを通過し、まずは無事に関門を突破。そこからは必死にフィニッシュ地点を目指しました。また、15km地点で給水がありました。逆に言うとスタートしてからそこまでは1カ所もないので「さすが実業団の大会」という感じがします。トップの選手たちはハーフマラソンの距離ですと、冬場はほとんど給水しないんですね! 僕は迷わず取りました(笑)。

終盤は緩やかな下り基調のコースなのですが、意外にここがキツいです。体が後ろに傾かないよう少し前傾を意識して、フィニッシュ地点を目指します。

沿道の温かい応援、さらに実業団関係者からの檄(げき)もあって、キツい中でも粘ることができました。トラックに入ってきてから、女子の先頭が競技場に近づいているというアナウンスが聞こえてきて、必死のラストスパート。フィニッシュタイムは1時間13分32秒。自己記録には及びませんでしたが、完走者217人のうち204位で無事に完走できました。今回は「関門突破」と「女子先頭に追いつかれない」の二つはクリアできたので、次回こそ自己ベスト(1時間12分19秒、2010年)を更新したいです!

熱戦となった先頭争いのはるか後方、204位争いも熾烈でした!(提供・TOMORUN以西昭海さん)

樺沢選手「5000mでパリオリンピックを」

さて、M高史の出走リポートはこのあたりにしておき、レースは順天堂大学OBのルーキー・四釜峻佑選手(ロジスティード)が1時間00分41秒で優勝を飾りました。といっても四釜選手の走りは折り返し地点ですれ違うところしか見ていないので、結果はレース後に知りました(笑)。

ロジスティードの別府健至監督に伺ったところ「ニューイヤー駅伝に出られなかった分、大阪ハーフと今大会との連戦でうまく走ることができました」とのことです。今後はトラックで日本選手権を目指していかれるそうです。

ちなみに四釜選手は1月28日の大阪ハーフで1時間01分41秒。トップと同タイムの2位でした。今回の全日本実業団ハーフは2位と同タイムでの優勝。今回は同タイム決戦を制した形となりました!

2位となったのは早稲田大学OBの太田直希選手(ヤクルト)。3位は法政大学OBの鎌田航生選手(ヤクルト)と、大学駅伝でもおなじみだった選手たちが社会人でも素晴らしい走りをされました。

女子の先頭争いは、M高史も女子の先頭集団から必死に逃げておりましたので、折り返しの時にしっかり確認していました(笑)。折り返しの手前ではまだ10人以上の集団だった女子先頭集団。レースは残り1kmを切ってから慶應義塾大学OGの樺沢和佳奈選手(三井住友海上)が1時間10分13秒で優勝を飾りました。

確かに折り返し地点ですれ違った時、先頭集団の樺沢選手は特に余裕のある動きをされていたのが印象的でしたね。

レース後、樺沢選手にお話を伺いました。「折り返してからペースの変動もあり、それが少しキツかったです。心肺機能は楽でしたが、脚がキツくなってきました。ラスト5kmあたりから重くなったのが今後の課題ですね。優勝はうれしいですが、70分をきれなかったので、ハーフやフルマラソンは鍛錬が必要だなと思いました。今後の目標は5000mでパリ五輪に出られるようにしたいです」。優勝しても課題と今後を見据える樺沢選手。トラックでの走りにも期待ですね!

私の道は、私がつくる 慶應義塾大学・樺沢和佳奈
実業団ハーフで女子優勝を飾った樺沢選手。トラックでの活躍にも注目です!

さまざまな形で走り続けている皆さんをご紹介!

さまざまな形で競技を続けている選手たちが集まるのも、全日本実業団ハーフの魅力の一つです。特に印象的だった選手をご紹介します。

以前、4years.でも取材させていただいた名古屋大学OBの中村高洋選手(京セラ鹿児島)。フルタイム勤務をしながら年々記録を伸ばしてハーフマラソンのベストは1時間00分57秒。今年は40歳にして1時間01分30秒の好タイムで17位に! レース前後にお話を伺いましたが、残り3kmで脚がけいれんしたことを悔しそうにされていました。

鹿児島のスーパー市民ランナー・中村高洋さん 37歳で初のサブ10達成!

山本修平選手(Team Nitro)は早稲田大学、トヨタ自動車で活躍されて現役を引退。現在は社業をしながらクラブチームで走られています。そしてこの日は1時間02分09秒! なんと現役時代の自己ベストを11年ぶりに更新。全体でも50位に入り、実業団関係者の皆さまも驚きの声をあげられていました。

東洋大学OBの鈴木宗孝選手(MUSCLE TRIBE)が1時間02分54秒をマークし、学生時代のベストを更新されたことも印象的でした。東洋大では1年生の時、箱根駅伝で8区を走られていた姿が印象に残っている方も多いのではないでしょうか。社会人になっても仕事をしながらクラブチームで走られていて、ランニングイベントなどにも積極的に顔を出され、走ることを純粋に楽しんでいることが伝わってきます。

そして駒澤大学OBの金野人史選手(弘前市役所)です。金野選手は陸上競技部のOBではなく、駒大スポーツ新聞編集部のOBです。僕が駒澤大学で陸上部の主務をしていた頃、金野さんは学生記者をされていたので、選手の取材などで当時から大変お世話になっていました。また当時からバリバリ走られていました。現在は青森の弘前市役所に勤務。この日は1時間12分49秒で走りきりました。

駒大スポーツ新聞編集部OBの金野人史さん。学生時代からのご縁が今も続いています

金野選手は「レース中、沿道から何度も『青森頑張れ!』と声援をいただき、本州の北端から西端まで来てよかったと思いました。ただ、目標タイムには届かず悔しいです」とお話しされました。東日本実業団選手権にも毎年挑戦している金野選手。シニア1500mで対決するのも楽しみです。

トップを狙う実業団選手から、さまざまな形で走り続けているクラブチームの選手、社会人ランナーまで、それぞれの目標に向かって現状打破された今大会。選手兼報道で伺わせてくださり、ありがとうございました!

M高史の陸上まるかじり

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