陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

大学で競技継続の選手が多い旭川龍谷高校 インドアトラックは地域の協力と情熱の結晶

大学で競技を続ける選手も多い旭川龍谷高校の皆さん

寒い日が続きますね! 陸上競技の特に長距離は春夏秋冬どんな時期にでも試合があり、どんな天候でも走りまくります(笑)。ただ北海道や東北、北信越といった地区では冬の間、積雪や路面の凍結などもあって、雪があまり降らない地区に比べると、思うようなトレーニングができないという話も聞きます。

それでも創意工夫で結果を出している学校や選手はいますし、大学陸上界で活躍する皆さんも、そういった環境を乗り越えて活躍されています!

今回の「M高史の陸上まるかじり」では、大学でも競技を続ける選手の皆さんの原点とも言える高校時代にどんな環境でトレーニングを積んできたのか、2月の北海道へ飛んできました!

北海道の選手は、補強や動き作りが得意な傾向

北海道旭川市。旭川出身の陸上選手といえば、昨年のブダペスト世界陸上女子やり投げで金メダルを獲得された北口榛花選手(JAL)。また現役を引退されましたが、短距離の高平慎士さんも輩出しています。

その旭川市を拠点に12年連続で全国高校駅伝(女子)に出場しているのが、旭川龍谷高校です。

旭川龍谷高校の練習環境でひそかに注目を集めているのが、インドアトラックです。農業用ビニールハウスを活用し、雪が降っても室内を走れるということで、SNSで見ていて気になっていたという指導者や選手の方、陸上ファンの方の声もよく聞きます。

旭川龍谷高校に近づくとインドアトラックが見えてきます。学校の周囲はご覧の積雪量です!

インドアトラックが完成して3年。卒業生には城西大学の石川苺選手(1年)をはじめ、大学の女子駅伝界で活躍する選手も目立ちます。石川選手は今年度の全日本大学女子駅伝、富士山女子駅伝でともに4区を走って、いずれも区間2位の好走。チームは全日本4位、富士山では6位入賞を果たしました。今年度の3年生は6人が大学で競技を継続します。

旭川龍谷高校で中・長距離の指導をされているのが阿部文仁先生です。国際武道大学OBで現役時代の専門種目は800mでした。旭川龍谷高校で指導をされて22年。当初は全種目を見ていましたが、中・長距離の指導に専念されてからは13年目になります。

阿部先生も旭川市出身。真冬は雪深い環境でのトレーニングについて「インドアトラックができる前は、外で雪の中を走っていました。雪が降り始める頃と雪が溶け始める頃はあまり走れません。朝は凍って路面が滑りやすく危険です。特に雪が降り始めるのは、全国高校駅伝の前なんですよ」と教えてくださいました。当時の練習風景の動画を見せていただきましたが、ジョグだけで精いっぱいな積雪量。室内走路を求めて北海道内を移動することもありますが、どうしても追い込んだ練習を積むことができないでいました。これは北海道をはじめとする雪国の学校あるあるなのかもしれません。

ハードルを使ったドリルを行う選手の皆さん。M高史も体験させていただきました

その分、北海道の選手は補強や動き作りが得意な傾向にあるそうです。走れる環境が限られてくるので、基礎体力作りに時間を割くためです。

大学に入ってからタイムが伸びてくるのは、そのようなトレーニングを冬の間にきっちりとやってきたことも関係しているかもしれません。インドアトラックが完成してからも、旭川龍谷高校ではじっくり体作りにも励んでいます。

インドアトラックを作るにあたっては、地元のビニールハウス業者に協力していただいたそうです。走路は、土の上にホームセンターで購入してきた人工芝を部員とスタッフで張り、約30時間をかけて手作りしました。大切な練習環境を維持するため、こまめな点検も欠かせません。ちなみに人工芝を敷き詰める前、選手の皆さんは砂ぼこりの上を走ることになっていたため、練習後は顔が砂で真っ黒になっていたそうです。

さらに、昨年11月には低酸素トレーニングルームが完成。トレッドミルで走ったり、バイクトレーニングをしたりすることもでき、より一層トレーニングの幅が広がりました。

「インドアトラックは地域のビニールハウス業者、低酸素室のリフォームは地域の建設会社の協力なしではできませんでした」と阿部先生。費用面の課題を克服し、環境を整えていかれたのでした。

インドアトラック内の棚やベンチなどもすべて手作り。派手に見えますが、地域の皆さんの協力や応援、スタッフや部員の皆さんの情熱が形になったのでした。

地域の方のご協力があって完成したインドアトラック。阿部先生は感謝の気持ちをお話しされていました(提供・旭川龍谷高校陸上競技部)

走路は手作り!地域にも開放して旭川を盛り上げる

実際にインドアトラックに入らせていただきました。外は日中でも氷点下5度を下回ります。それでもこの時期の旭川にしたら、暖かいんだそうです(笑)。外は手袋をしていないと手や指が痛くなってくるほどの寒さでしたが、中に入ってみると室温は0度前後。風が吹かない分、だいぶ暖かく感じます。

しっかりとウォーミングアップや動き作りを行ったあと、メインの練習をご一緒させていただきました。この日は約8kmを集団で走ってから、そのままプラス1kmをフリー走行。選手の皆さんは、寒さを吹き飛ばす熱い走りをされていました!

伺う前から「GPS機能付きの時計は果たして反応するのだろうか?」という素朴な疑問があったのですが、しっかりと電波も拾って、ほとんどズレもなく、ほぼ正確な距離が表示されてました。最近の長距離選手はGPS機能付きの時計を使っている選手がほとんどだと思いますので、記録やデータも残ってうれしいですね! 1周306mを何秒でいくと1km何分何秒ペースという表もあって、目安になります。

インドアトラックでの練習をご一緒させていただきました。雪を気にせずトレーニングに集中できる素晴らしい環境です

短距離ブロックの選手も使用しているので、うまくタイミングをずらして、長距離の集団が走ってくる直前に短距離のダッシュがスタートするといった具合で調整しています。

ちなみにこのインドアトラックは、他の部活の生徒さんも使用しますし、スポーツ少年団のRyukoku ACや全国中学駅伝にも出場している旭川市立神居東中学校、他にも地域のランナーの皆さんに向けて一般開放する日もあり、旭川の陸上、ランニング、スポーツを盛り上げています!

昨年11月に完成した低酸素トレーニングルーム。この部屋も地域の方の協力があってリフォームすることができました(撮影・M高史)

「北海道から全国で勝負できるようにしたいです」と阿部先生はさわやかな笑顔でお話しされました。

夏場の朝練は河川敷で練習し、練習後には清掃活動をしていることもあって、地域の方からも愛されている旭川龍谷高校陸上競技部の皆さん。大学で競技を続ける選手の皆さんにも注目ですね!

昨年夏、朝練習に伺った時の写真です。練習後の清掃活動や地域の方への気持ちの良いあいさつが印象的でした

雪の上でのランニング、油断は禁物

余談ですが、インドアトラックがない場合の旭川で走ったらどうなるかも体験したくて、旭川龍谷高校さんに伺った翌朝、旭川で整骨院をされている杉山直也さんに案内してもらいながら旭川市内を走ってきました。杉山さんは柔道整復師としてアスリートや地域の方の健康を支えながら、マラソンを2時間40分で走るランナーでもあります。

雪の上を走るといっても、天気や気温、人通りの有無によって、路面がまったく違うんですね。まるで砂浜の上を走っているような感覚で、1歩1歩を丁寧に、足を出していきます。慣れてくると滑らずに走ることができますが、油断は禁物です。慣れてきた時が一番危ないかもしれません。1回だけツルッと滑って一回転。柔道の投げ技をされた後みたいになりました。うまく受け身をとれたので、高校の時に柔道の授業をとっていてよかったなと思いました。僕の出身校・世田谷学園高校は柔道の五輪金メダリストを4人輩出しているので、授業は本格的でした(笑)。

雪の上をたまに走る分には楽しいかもしれないですが、これが毎年、毎日のようにやってくるのかと思うと……。改めてそういった環境でも現状打破されている皆さん、リスペクトしています!

翌朝、外を走ってみたのですが、気温は氷点下8度!雪も積もっていて砂浜の上を走っているような感覚でした

M高史の陸上まるかじり

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