明日のために、ジョーは戦う 院生が伝えたい気持ち 東京都立大学ラグビー部物語13
家って、何だろう?
苦しい時、悲しい時、崖っぷちに追い込まれた時、困り果てた時。
心が折れそうになった時。ポキッと、折れてしまった時。
その場所に帰れば、どんな気持ちも、リセットできる。ポジティブになれる何かが、そこには必ず転がっている。そして、時に、とことん、自分と向き合うことになる。
家って、そういう場所。
東京都立大学ラグビー部が、家に帰って来た。
10月13日、関東大学リーグ戦3部第4戦、駿河台大学戦。
大敗、大敗、3連敗で迎えたリーグ戦唯一のホームゲームだった。
東京の西の外れ、八王子市の緑豊かなキャンパスのホームグラウンド。多くのOB、OGが応援に駆けつけた。家族のような視線と声援で、後輩たちの背中を後押しした。
ネガティブな流れは、変わらなかった。
7-76。前半終了間際のトライで一矢報いるのがやっとの、みたび喫した大敗だった。
時計の針が進むにつれて尻すぼんでいく仲間を、獲物を射るような表情で、どこか怒りを携えながら、鼓舞し続けた選手がいた。
船津丈(院1年、仙台三)、昨年のキャプテンだ。
8チーム中の7位に沈み、4部との入れ替え戦直行を強いられた昨年のリーグ戦。4年生として、キャプテンとして、先頭に立ち続けて、乗り越えた。
今年、院生へと立場が変わった。研究に忙殺される院生になったのにもかかわらず、練習はほぼ皆勤、夏合宿はフル参戦。自身5度目のリーグ戦も、全試合フル出場を続けている。
昨年まで、スクラムを最前列で支えるプロップ一筋だった。今年、チームの苦しい台所事情を受け入れて、ほころびを取り繕うように、フランカー、ナンバー8とポジションを変えてきた。スクラムの負担が軽くなった代わり、パスにサイドアタック、キック処理と一気にタスクは増えた。
駿河台大戦は「人生初」のロックで先発。「慣れなくって、苦労しました」。それでも、攻守とも、先頭に立ち続けて、相手に体をぶつけ続けた。
そういう痛い仕事こそ、自分の仕事。彼のプレーは、そんな覚悟に満ちている。
覚悟には、理由がある。
多くのOB、OGが駆けつけてくれた、この家を。
どんなにトライを奪われても、家族のような応援で背中を押し続けてくれた、この家の雰囲気を。
ずっとずっと、つなげていきたいから。
船津が1年生だった2020年、東京オリンピックが翌年に延期された年だった。コロナ禍、まっただ中。ラグビー部が練習を再開できたのは、秋も深まる頃だった。
やっと入部できて、やっと練習できて、同期はマネージャーも含めて、たった3人だった。
「来年、再来年、どうなっちゃうんだろう?」
「15人のチームを組めなくなったら……」
不安に押し潰されそうになりながら、それでも先輩たちが、無理やりにでも明るく引っ張ってくれて、部の歴史はつながった。ここまで、来ることができた。
「丈ロス」に込めたメッセージ
今年のチーム編成、学年間で大きく偏っている。コロナ禍の爪痕がまだ色濃かった頃に入部した4年生は選手4人、3年生は7人(うち休部1人)。日常が戻って来た頃に入部した2年生は8人、1年生は10人。
「下級生が頑張らないと、相当に厳しいな」
春先。そう、船津は直感した。
だから、自ら、学年と年齢の壁を溶かすように、下級生に歩み寄った。院生だからといって、距離を空けられることのないように。
あえて、イジられ役を買って出た。オフ期間を逆説的に「丈ロス」と命名して、後輩をご飯に誘った。言わずもがな、丈は船津丈の丈だ。丈さん、丈さん。後輩たちが、そうやって練習中も気軽に声をかけやすい雰囲気をつくった。その声に応えるように、声を返した。「一緒に盛り上げていこう」「もっと元気出そう、もっと走ろう」と。
「4年生って、いろんなプレッシャーを抱え込んでしまうものなんです。昨年、キャプテンを経験して実感しました。そんな時、経験豊富な院生の先輩たちが頼りになった。後輩たちの、思いきったプレーに救われた。今年も、そういう流れを生み出して、苦しい4年生を支えたい。そのための、僕は『土台』になりたいんです」
「土台」には、ちょっと、不満がある。今年のチームの課題、フィジカルやスキルそれ以前に、気持ちを前面に押し出すこと、試合への思いを表現することが苦手だなって。そして、この流れを変える鍵は、下級生なのだとも。
「人数的にも下級生が多くて、試合に出る下級生も増えている。だから、僕ら院生が下級生を引っ張り上げて、一緒になって、気持ちを表現していかなきゃ。気持ちって、外に出さなきゃ、周りに伝わっていかないから」
「そうやって、ハッピーエンドで4年生を送り出してあげたい。自分たちも、そうだったから」
振り返れば下級生だったコロナ禍の頃、マスクを外して、このホームグラウンドに立てるだけで、うれしくなって、幸せになって、笑顔になれた。自然に、かけ声が飛び交った。自然に、互いを、鼓舞し合っていた。
戻って来た日常に慣れた、いまの下級生は違うのかもしれない。
でも、だからこそ、あの頃の気持ちを伝え残していかなきゃならない。
悔しくないか?
まだまだ足りない。何かが足りない。
殻を破るために、何が、足りないのか。
悔しさ。負けず嫌いの、悔しさだ。
船津は、そう思う。
「負けても、負けても、毎試合、進歩はしている。でも、勝つために必要な何かを超えることができたかといえば、そうじゃない気がするんです」
勝つために必要な何かを超えるための、決定的な何か。
それって、悔しさ、なんじゃないだろうか。
みんなで悔しさを発散させて、発散させた悔しさをオーラに変えて、目の前の相手にぶつけていくことなんじゃないだろうか。
それが、気持ちを表現することが苦手な、いまのチームに決定的に欠けているものなんじゃないだろうか。
3連敗の後。だから、彼は、どこか怒りを携えながら、後輩たちを鼓舞していた。
ジョーは戦う。
仲間のために。勝つために。部の歴史をつないでいくために。
明日のために、土台になる。
今年も入れ替え戦直行が現実味を帯びてきました。彼らは部の歴史をつないでいけるのか。次回は11月1日公開予定。大勝負となる第5戦をリポートします。