ラグビー

連載:令和のアオハルリアル~東京都立大学ラグビー部物語2024~

明日のために、ジョーは戦う 院生が伝えたい気持ち 東京都立大学ラグビー部物語13

駿河台大戦で仲間を鼓舞する船津丈。笑いにあふれるオフの姿と試合でのそれは、後輩から「別人」と言われる(すべて撮影・中川文如)

家って、何だろう?

苦しい時、悲しい時、崖っぷちに追い込まれた時、困り果てた時。

心が折れそうになった時。ポキッと、折れてしまった時。

その場所に帰れば、どんな気持ちも、リセットできる。ポジティブになれる何かが、そこには必ず転がっている。そして、時に、とことん、自分と向き合うことになる。

家って、そういう場所。

東京都立大学ラグビー部が、家に帰って来た。

10月13日、関東大学リーグ戦3部第4戦、駿河台大学戦。

大敗、大敗、3連敗で迎えたリーグ戦唯一のホームゲームだった。

東京の西の外れ、八王子市の緑豊かなキャンパスのホームグラウンド。多くのOB、OGが応援に駆けつけた。家族のような視線と声援で、後輩たちの背中を後押しした。

ネガティブな流れは、変わらなかった。

7-76。前半終了間際のトライで一矢報いるのがやっとの、みたび喫した大敗だった。

駿河台大戦の都立大唯一のトライはモールから生まれた

時計の針が進むにつれて尻すぼんでいく仲間を、獲物を射るような表情で、どこか怒りを携えながら、鼓舞し続けた選手がいた。

船津丈(院1年、仙台三)、昨年のキャプテンだ。

8チーム中の7位に沈み、4部との入れ替え戦直行を強いられた昨年のリーグ戦。4年生として、キャプテンとして、先頭に立ち続けて、乗り越えた。

今年、院生へと立場が変わった。研究に忙殺される院生になったのにもかかわらず、練習はほぼ皆勤、夏合宿はフル参戦。自身5度目のリーグ戦も、全試合フル出場を続けている。

昨年まで、スクラムを最前列で支えるプロップ一筋だった。今年、チームの苦しい台所事情を受け入れて、ほころびを取り繕うように、フランカー、ナンバー8とポジションを変えてきた。スクラムの負担が軽くなった代わり、パスにサイドアタック、キック処理と一気にタスクは増えた。

駿河台大戦は「人生初」のロックで先発。「慣れなくって、苦労しました」。それでも、攻守とも、先頭に立ち続けて、相手に体をぶつけ続けた。

そういう痛い仕事こそ、自分の仕事。彼のプレーは、そんな覚悟に満ちている。

覚悟には、理由がある。

多くのOB、OGが駆けつけてくれた、この家を。

どんなにトライを奪われても、家族のような応援で背中を押し続けてくれた、この家の雰囲気を。

ずっとずっと、つなげていきたいから。

新潟食料農業大学戦ではナンバー8を担った船津丈(手前)。サイドアタックを仕掛けてパスをさばく

船津が1年生だった2020年、東京オリンピックが翌年に延期された年だった。コロナ禍、まっただ中。ラグビー部が練習を再開できたのは、秋も深まる頃だった。

やっと入部できて、やっと練習できて、同期はマネージャーも含めて、たった3人だった。

「来年、再来年、どうなっちゃうんだろう?」

「15人のチームを組めなくなったら……」

不安に押し潰されそうになりながら、それでも先輩たちが、無理やりにでも明るく引っ張ってくれて、部の歴史はつながった。ここまで、来ることができた。

「丈ロス」に込めたメッセージ

今年のチーム編成、学年間で大きく偏っている。コロナ禍の爪痕がまだ色濃かった頃に入部した4年生は選手4人、3年生は7人(うち休部1人)。日常が戻って来た頃に入部した2年生は8人、1年生は10人。

「下級生が頑張らないと、相当に厳しいな」

春先。そう、船津は直感した。

だから、自ら、学年と年齢の壁を溶かすように、下級生に歩み寄った。院生だからといって、距離を空けられることのないように。

あえて、イジられ役を買って出た。オフ期間を逆説的に「丈ロス」と命名して、後輩をご飯に誘った。言わずもがな、丈は船津丈の丈だ。丈さん、丈さん。後輩たちが、そうやって練習中も気軽に声をかけやすい雰囲気をつくった。その声に応えるように、声を返した。「一緒に盛り上げていこう」「もっと元気出そう、もっと走ろう」と。

「4年生って、いろんなプレッシャーを抱え込んでしまうものなんです。昨年、キャプテンを経験して実感しました。そんな時、経験豊富な院生の先輩たちが頼りになった。後輩たちの、思いきったプレーに救われた。今年も、そういう流れを生み出して、苦しい4年生を支えたい。そのための、僕は『土台』になりたいんです」

駿河台大戦でボールを持つ相手に追いすがるCTB(センター)押村俊希(中央、1年、金沢二水)ら。ただ、その背中は遠く、12トライを失った。下級生の成長が待たれる

「土台」には、ちょっと、不満がある。今年のチームの課題、フィジカルやスキルそれ以前に、気持ちを前面に押し出すこと、試合への思いを表現することが苦手だなって。そして、この流れを変える鍵は、下級生なのだとも。

「人数的にも下級生が多くて、試合に出る下級生も増えている。だから、僕ら院生が下級生を引っ張り上げて、一緒になって、気持ちを表現していかなきゃ。気持ちって、外に出さなきゃ、周りに伝わっていかないから」

「そうやって、ハッピーエンドで4年生を送り出してあげたい。自分たちも、そうだったから」

振り返れば下級生だったコロナ禍の頃、マスクを外して、このホームグラウンドに立てるだけで、うれしくなって、幸せになって、笑顔になれた。自然に、かけ声が飛び交った。自然に、互いを、鼓舞し合っていた。

戻って来た日常に慣れた、いまの下級生は違うのかもしれない。

でも、だからこそ、あの頃の気持ちを伝え残していかなきゃならない。

悔しくないか?

まだまだ足りない。何かが足りない。

殻を破るために、何が、足りないのか。

悔しさ。負けず嫌いの、悔しさだ。

船津は、そう思う。

「負けても、負けても、毎試合、進歩はしている。でも、勝つために必要な何かを超えることができたかといえば、そうじゃない気がするんです」

勝つために必要な何かを超えるための、決定的な何か。

それって、悔しさ、なんじゃないだろうか。

みんなで悔しさを発散させて、発散させた悔しさをオーラに変えて、目の前の相手にぶつけていくことなんじゃないだろうか。

それが、気持ちを表現することが苦手な、いまのチームに決定的に欠けているものなんじゃないだろうか。

3連敗の後。だから、彼は、どこか怒りを携えながら、後輩たちを鼓舞していた。

ジョーは戦う。

仲間のために。勝つために。部の歴史をつないでいくために。

明日のために、土台になる。

懐かしいホームグラウンドに駆けつけた歴代の選手とマネージャーたち

今年も入れ替え戦直行が現実味を帯びてきました。彼らは部の歴史をつないでいけるのか。次回は11月1日公開予定。大勝負となる第5戦をリポートします。

令和のアオハルリアル~東京都立大学ラグビー部物語2024~

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