ラグビー

連載:令和のアオハルリアル~東京都立大学ラグビー部物語2024~

もう逃げないと彼は決めた 後輩のため、両親のため…東京都立大学ラグビー部物語15

東京農業大学戦で突破を図る伴場大晟。プレー面でも進境著しい(すべて撮影・中川文如)

立場は人を変える。

彼は、変わった。

東京都立大学ラグビー部の伴場大晟(4年、磐城)は今年、最上級生になって副キャプテンとバックスリーダーを任された。

昨年までの3年間、レギュラーになれたことはない。公式戦に出場できたのも、数えるほど。勉強との兼ね合いで部を離れた時期もある。

それでも、副キャプテンとバックスリーダーになった。

なぜか。

申し訳ないけれど、ほかに選択肢がなかったからだ。

同期の選手は伴場を含めて、たった4人。バックスに限れば伴場たった一人だった。

そういう事情で、彼は大役を任されることになった。

「僕がやるしかないんだろうなって、昨年あたりから、薄々、感じてはいました。ただ、僕、ずっと、そういう役割から逃げてきたんです。柄じゃないし、そういう責任、背負いたくないし……。でも、僕しか選択肢がないんだから、しょうがないですよね」

人生が変わった日

福島県浪江町に生まれた。2011年3月11日、東日本大震災に襲われて、福島第一原発の事故が起きて、町ごと避難を強いられた、あの町だ。

伴場は小学3年生だった。

家族そろって、青森などを転々とした。

「スポーツ、やりたかったんです。野球とか。だけど、転校、転校で、無理でした」

中学生になる頃、福島に戻ることができた。いわき市に両親が家を建ててくれた。磐城高に入学して、友達に誘われるがまま、ラグビー部に入った。

ラグビーなら経験者も少なそうだし、何とかなるだろう。そんな、軽い気持ちだった。

当時、体重45kg。体格が物を言うフォワード(FW)をこなすのは無理だった。ほかに選択肢がなくて、バックスになった。小柄で細身。なかなかパスもキックも上達しなかったけれど、タックルだけは、なぜか性に合っている気がした。何度、吹っ飛ばされても、「次こそ!」って向かっていけた。

「お前、根性あるな」。そうやって顧問の先生がほめてくれたことは、いまも覚えている。

防衛大戦のワンシーン。吹っ飛ばされても、あきらめない。それが伴場大晟(右下)のディフェンス

姉が2人。3人姉弟の末っ子。両親の苦労は肌身で知っている。これ以上、負担をかけたくはなかったけれど、どうしても、東京の大学に進みたかった。いろんな大学の学費を調べて、都立大に進路を決めた。

1年生、2年生の時は、ただ、経験豊富な上級生についていけばよかった。3年生になると、コロナ禍の深い爪痕のせいで部員数も戦力もガクンと落ちた。それでも伴場の出場機会は少なかった。「その程度」、の選手だった。

それが、今年。副キャプテンとバックスリーダーにならざるを得なくなった。

なったからって、いきなりスキルが向上するはずもない。

だから、どんな時も、タックルだけは、あきらめず、やりきろうと決めた。高校時代、先生がほめてくれたタックルだから。何度、吹っ飛ばされても。

そして、リーダーシップなるものと真っ正面から向き合おうと決めた。

それまで逃げてきた、リーダーシップなるものに。

「せっかく入部してくれた1年生、2年生には、余計なことを考えず、プレーに集中してほしい。そういう環境をつくろうと思ったら、僕が声を出して、みんなを引っ張るしかないんですよね。4年生のバックス、一人しか、いないんだから。できることなら、逃げたいですけど。決して、柄じゃないですけど」

防衛大戦でトライを失った後、バックスの後輩たちに話しかける伴場大晟(中央)。やっぱり、あきらめない

その場の空気をピリッと引き締められるような格好いい一言なんて、発することはできない。歴代のリーダーと比べれば、器じゃないのはわかっている。それなら、自分なりに後輩たちを引っ張れる、自分なりのリーダーシップなるものを、探し当てなきゃならない。

探し当てるため、考えた。いまの自分に、できること。何度、吹っ飛ばされても、タックルすることだ。そうだ。何度、失敗しても、前向きに、明るく、後輩たちを元気づけることだ。何があっても、ポジティブに。

そう、決めた。

両親に恩返しを

秋のリーグ戦が始まった。ウィング(WTB)やフルバック(FB)としてフル出場を続けてきた。チームは大敗を繰り返してきた。トライを奪われるたび、円陣で仲間に呼びかけてきた。「次だよ、次」「もっと、タックルできるはずだよ」。何があっても、ポジティブに呼びかけ続けてきたつもりだった。

10月27日の千葉商科大学戦。いわき市から車で3時間かけて、両親が手土産持参で応援に駆けつけてくれた。照れくさかったから、込み入った会話なんて交わしてはいない。やっぱり、チームは負けてしまった。ただひたすらに、伴場はタックルを繰り返した。ただひたすらに、仲間に声をかけ続けた。

続く11月3日の防衛大学校戦。この日も、ただひたすらに、伴場はタックルを繰り返した。ただひたすらに、仲間に声をかけ続けた。

それでも、結果は、7-69。やっぱり、チームは敗れてしまった。8チーム中の7位以下に沈むことが決まった。2年連続で3部上位との入れ替え戦に回ることが、正式に決まった。

スタンドオフ(SO)新井航(左、川越)とフルバック(FB)大森拓実(日野台)。伴場大晟とともにバックスを支える2年生コンビ

負け続けるなか、それでもチームは成長を重ねてはいる。「ダメなんです。『成長しているから、まあ、いいや』ってなっちゃうのが、一番ダメ。入れ替え戦、絶対に勝たなきゃならないから」

「これ以上、両親に迷惑をかけることはできない。だから、僕のラグビーは今年で終わり。しっかり働いて、恩返ししたい。だから、入れ替え戦、絶対に勝たなきゃならないんです。後輩たちのためにも」

ちょっと厳しい表情で伴場はそう言った後、すぐ笑顔になって、後輩たちのもとに歩み寄った。致命的なミスを犯した後輩に、笑顔で「気にするなよ。でも、あのプレーはさ……」。負傷しがちな後輩に「大丈夫?」。

そんな感じで、話しかけて回っていた。

やっぱり最終章は…

決して、理想のリーダーではないのかもしれない。決して、完璧なリーダーではないのかもしれない。

それでも、伴場はリーダーになった。

伴場なりの、リーダーになった。

2024年の東京都立大学ラグビー部。物語の最終章は、2年続けて、入れ替え戦に設定された。

昨年も、そうだった。時間は待ってはくれない。最終章に向けて、瞬く間にページはめくられていく。

選手も、マネージャーも、一人ひとりが、それぞれの足跡を刻みながら、物語は深まっていく。

左から丁野真菜(厚木)、岡田彩瑛(立川)、渡辺蒼大(川和)、今井雄太郎(横須賀)、新山昂生(国學院久我山)、伴場大晟、川添彩加(徳島北)、キャプテン中原亮太(湘南)。大学院2年の渡辺を除いて4年生。マネージャーも含めて、たった7人の4年生だ

リーグ最終戦のリポートは11月29日公開予定。12月8日の入れ替え戦に向けて、チームはきっかけをつかめるのでしょうか。

令和のアオハルリアル~東京都立大学ラグビー部物語2024~

in Additionあわせて読みたい