「2年ぶり2度目の4年生」の背を押す不完全燃焼感 東京都立大学ラグビー部物語14
絶対に負けられない戦いが、そこにはある。
決して、テレビ局の宣伝じゃない。
本当に、ある。
一世一代の大勝負というものが。
人生をかけたつもりになって、勝ち負けを決める舞台というものが。
日本時間、10月27日。海の向こうでは、大谷翔平がワールドシリーズを戦っていた。世界一になりたくて、だからエンゼルスからドジャースに移籍して、チームのために、仲間のために、打ちまくって、走りまくって、たどり着いた舞台だった。
真面目な視線で私たちの暮らしに目を向ければ、衆院選の投開票があった。政治家たちが自身の命運をかけた舞台、それはすなわち、私たちが私たちの暮らしの行く末を決める舞台でもある。
逆算の全員集合
一世一代の大勝負の重さに、命運をかけた舞台の重さに、レベルやステージは関係ない。
東京都立大学ラグビー部も、一世一代の大勝負に臨んでいた。
開幕4連敗で迎えた、関東大学リーグ戦3部第5戦。相手は千葉商科大学。ここで敗れれば、最終的に8チーム中7位以下に沈む可能性が一気に高まる。それはすなわち、2年連続、4部との入れ替え戦直行を強いられることを意味する。
「この一戦に勝つために、準備してきたんだから。あとは、やるだけ。出しきろう」
連敗に苦しみながら、悩みながらチームを率いてきたキャプテン中原亮太(4年、湘南)が声をかけた。
その声の先には、この一戦から逆算してリハビリを重ねて、けがを克服した多くの仲間がいた。
試合が始まった。
先手を取ったのは都立大だった。開始早々、ディフェンスで前へ前へと圧力をかけて相手の反則を誘う。開幕戦の負傷交代から帰って来たフルバック(FB)大森拓実(2年、日野台)がペナルティーゴール(PG)を決める。
3-0。今年のリーグ戦を通じて、初めてリードを奪う。
タックル、タックル。言わば「攻める防御」で圧力をかけ続ける。千葉商科大のスピーディーな個人技でトライを失っても、気持ちは切らさない。前半を終えて、3-19。十分に逆転可能な点差で耐えて、ハーフタイムを迎える。
「みんな、戦えている。後半、気持ちを切らさないように、一つ一つのプレーの精度にこだわっていければ、必ず勝てるよ」
個別具体的な指示を授けて最後、プロコーチの藤森啓介(39)は、そんな言葉で選手たちを再びグラウンドへと送り出した。
春から地味で地道な練習を積み重ねて蓄えてきた運動量には、自信があった。走り勝って、逆転するプランだった。
でも、一世一代の大勝負、なかなか思い通りに事は運ばない。
成長をカタチに
後半、先にスタミナ切れを起こして、先に気持ちが切れてしまったのは、都立大だった。
キックオフ。相手の巧みなキックで背後に走らされる。攻める防御で押し返したが、またしても個人技に屈する。千葉商科大バックスにスペースを与えてしまう、スピードあふれるランに、振りきられる。前半と同じ展開から、あっさり、トライを許す。
4分後、この日のチーム初トライで息を吹き返しかけた。3分後、前で前で相手を止め続けてきたタックルが、緩んでしまった。やっぱり、トライを許す。取っては取られての攻防を繰り返すうち、先に気持ちが切れて、走れなくなっていったのは都立大だった。
22-41。結局、ダブルスコアに近い敗戦。2年連続の入れ替え戦直行は濃厚になった。「出しきろう」と仲間と誓って大勝負に挑んだキャプテン中原の言葉は、円陣で、いつになく熱を帯びていた。
「オレたち、成長はしてきたのかもしれない。でも、その成長を目に見える形で体現できなきゃ、試合には勝てない。最後に体現できるように、もっと、もっと、成長していかなきゃ」
悔しい熱を、帯びていた。
切れてしまった都立大。ただ、切れなかった選手もいる。
渡辺蒼大(院2年、川和)。今年、彼は「2年ぶり2度目の4年生」を生きている。
誰もが認める、都立大ナンバーワンのハードタックラー。大学でラグビーを始めた初心者の後輩たちが「タックル野郎」へと育っているのも、彼の背中を追っているからだ。
高校時代はバックスだった。その頃から、パスよりも、キックよりも、タックルが好きだった。その素養を都立大でコーチの藤森に見いだされて、どのポジションよりもタックル回数が多いフランカーに転向した。
最初の一歩が早い。そして獲物のみぞおちのあたりに突き刺さる。そして獲物の両足を両腕でガッツリ抱え込んで縛り上げるのが渡辺流タックル。そうやって、獲物を倒しきる。
青あざの勲章
千葉商科大戦も、そうだった。そうやって、何度も一発で獲物を仰向けに仕留めた。
「僕にできることって、コンタクト(体のぶつけ合い)くらいだから」
試合後、左目の上に青あざをつくり、右足をアイシングしながら、彼は苦笑した。
「でも、もっと、タックルできたと思う。いや、もっと、タックルしなきゃダメなんです」
不完全燃焼感に、突き動かされてきた。
4年生だった2年前、チームは部史上最高の3部3位にたどり着いた。ただ、自身は「輪の中に入れなかった」。試合中に左足首の靱帯(じんたい)を切って、骨も折れた。リーグ戦終盤を棒に振った。
大学院に進んで、復帰できたのは1年2カ月後のこと。昨年のリーグ戦は、最後の入れ替え戦に何とか間に合わせた。そして、今年。研究の合間を縫って練習参加率は高い。不完全燃焼で幕を閉じた「4年生」を、もう一度、やり直しているような感覚がある。
2年ぶり2度目の4年生になったのは、いまの4年生のためでもある。
「僕の代は選手が10人いて、ラグビー経験者も多かった。今年の4年生は選手たった4人、下級生は初心者ばかり。僕らが想像できないような苦しさ、つらさが、いまの4年生には、あるんだと思う。僕のタックルで役に立てるのなら、いまの4年生を、助けたい」
2年ぶり2度目の4年生をやり遂げたら、卒業だ。今度こそ、ラグビー人生はエンディングを迎える。
「練習して準備して試合に出て、自分の持てるプレーを出しきって、そこで勝ち負けがつく。出しきることができれば勝てるし、できなければ負ける。そんなヒリヒリした経験、社会に出たら、なかなか、できないと思う。だから、いま、やりきりたいんです」
「みんなで、同じ練習をしてきた。だから、みんな、できるはずなんです。最後の最後、練習してきたことを試合で出しきれるかどうか。それって、結局、気持ち、メンタルな気がします。特に、タックル、コンタクトを左右するのはメンタルの強さ。みんな、もしかしたら、まだ、足りないのかもしれない」
不完全燃焼感に突き動かされる、2年ぶり2度目の4年生。心の底から、完全燃焼を欲している。
そのマインドセット、後輩たちに語りかけている。
本当に、出し尽くせているか?
後輩たちに、不完全燃焼で終わってほしくないから。
一世一代の大勝負に敗れ、立ち直るため、何かのきっかけが必要な、ブレークスルーが必要な、いまの都立大。次戦のリポートは11月15日公開予定です。