マネージャーも15人 入れ替え戦へ、思いよ届け 東京都立大学ラグビー部物語16
その1勝は、遠かった。
関東大学ラグビーリーグ戦3部、最終戦。東京都立大学は千葉大学と戦った。得意のスクラムで、久々に相手を圧倒できた。リーグ戦7試合目にして、初めて接戦に持ち込むことができた。
でも、接戦に持ち込むまでが、限界だった。チャンスをつかんでも、ミスで自滅を繰り返した。そんなこんなで最終盤、相手に走り負けた。
7-10。競り負けた。
7戦全敗。4部上位校との入れ替え戦行きが決まった。11月17日のことだった。
本当なら、この日が今年のチームにとってラストゲームの日に、最後の部活動の日になるはずだった。
そうは、ならなかった。
入れ替え戦まで、あと3週間。このチームは生き続ける。
ガチだから、泣いた
7戦全敗の現実を突きつけられて、選手の何人かは泣いていた。キャプテン中原亮太(4年、湘南)は円陣で言った。
「オレたち、頑張ってきたつもりだったけど、甘かった。オレたち、特に4年生のオレたちが、さぼり続けてきた結果なんだと思う」
マネージャーの何人かも、泣いていた。
彼女たち、グラウンドに立つことはできない。
試合で、リアルに戦うことはできない。
でも、真剣に、勝とうとしていた。
チームが勝つために、自分にできることって、何だろう?
真剣に、自らに問いかけてきた。
その思い。選手たちに、届かなかった。
だから、泣いていた。
いま、都立大には15人のマネージャーがいる。部の歴史上、多分、最も多い。
学年の壁、選手とマネージャーの壁を溶かして、一人ひとりがつながって、チームの喜怒哀楽を自分ごと化できる組織に。そんなクラブカルチャーに憧れて、多くのマネージャーが入部した結果だ。
人数が多いからって、一人ひとりが手持ちぶさたになるのは御免だ。マネージャーの仕事って、水くみだけじゃ、水運びだけじゃない。
チームが勝つために、選手たちを勝たせるために、自分たちにできることを探そう。自分たちにできることを、増やしていこう。
15人のマネージャー、そんな思いで過ごしてきた1年間でもあった。
「正」に託す
春先。選手たちの積年の課題、フィジカル不足と向き合った。選手たちと、一緒に。
選手もマネージャーも一緒になって、4、5人の班をつくった。LINEグループをつくって、意見交換を重ねた。「昨日のウェートトレーニング、どうだった?」「ベンチプレスの目標数値、ちょっと低くない?」「たんぱく質が豊富な食事をとった方がいいよ」「じゃあ、一緒にご飯に行こう!」。例えば、そんな具合に。
練習前、ちょっと早めにグラウンドに姿を見せる班もあった。走力アップのためだ。
中距離走の目標タイムを設定して、選手が走る、マネージャーは測る。「ファイト!」。そんな応援が飛び交った。
夏合宿が終わると、マネージャーはペンとメモを手に練習を見守るようになった。選手一人ひとりのパスミスや捕球ミスの回数を「正」の字で記録する。ナイスプレー、ポジティブな声かけの回数も記録する。
その「正」の数を一人ひとりにフィードバックして、プレーの精度とモチベーションのアップを促した。
秋が深まり、冬の足音が近づいてくる。すると今度は、練習場の片隅でiPadを囲むマネージャーが現れた。
もちろん、さぼっているのわけじゃない。終わったばかりの試合の分析をしているのだ。選手一人ひとりが、どんなプレーを何度試みて、何度成功したか、何度失敗したのか。スクラムやラインアウトの場面を抜き出して、ユニットごと、ポジションごとにプレーの巧拙をわかりやすく可視化する動画も編集した。自分たちのチームも、もちろん対戦相手も。
ひと通りのルールくらいは覚え込んだつもりだったけど、いざ、こうやって試合を見返してみると、案の定、新たな気づきだらけだった。コーチの知恵も借りながら、1試合80分間の分析を終えるのに、3人がかりで6時間はかかる。この時期、授業後の夜の練習場、もう、かなり、肌寒い。それでも、分析担当のマネージャーたち、部室にこもろうとはしなかった。練習場の片隅で、背筋を震わせながら、iPadとにらめっこを続けた。
選手たちと一緒の空間で、部活に関わり続けたかったから。
そうすることが、チームの一体感を高めることにもつながる、チームの勝利に近づけると信じていたから。
リーグ戦の7試合。思いは、届かなかった。
マネ長の悩み
15人のマネージャーを束ねる「マネ長」は、岡田彩瑛(4年、立川)。最高学年で迎えたラストシーズン。肌を刺す空気感、日に日に、ピリピリと、とがってくる現実を感じる。
勝てない。どうしたって、選手たちはナーバスになってしまう。ささいなことが、気になってしまう。水出し、練習道具の準備、テーピング。その一つ一つの所作、マネージャーたちもミスは許されない。そんな空気感だ。
「だから、マネージャーの後輩たちを注意する時もあります。本音を言えば、嫌われ役になんて、なりたくはない。でも、そうやって厳しく接することが、互いのためになる時も、あると思うんです。特に、いまは、チームが勝つために」
嫌われ役になることで、心が折れそうになる時もある。そんな時、同期マネージャーの2人が、支えになってくれる。
丁野真菜(厚木)は、岡田と同じく健康福祉学部の理学療法学科に通う。筋肉の構造、けがの予防法、テーピングに効果的なストレッチ。ラグビーに役立つ専門知識を、岡田と2人で一緒になって、チームに注ごうとしてきた。
高校時代はダンス部で、ガチの体育会系だった。だから、選手たちの気持ちがわかる。チームのブログに、こう、つづっている。「昨年1年間、しんどい練習を積んできた2年生が、今年になって試合に出場できる機会が増えた。彼らが活躍する姿に、涙腺が破壊されます。そういう姿を見られることが、マネージャーのやりがいです」
川添彩加(徳島北)は看護学科。看護師を夢見て都立大に入学して、卒業後は看護師になる。入部の動機は、「けがの簡単な手当てを覚えれば、将来に生かせそうだな」。それが、変わった。
「マネージャーの仕事って、奥が深い。選手のちょっとした表情の変化やしぐさを観察することこそ、大切なんだって気づきました。そうやって観察することが、練習や試合で、個々に適切なけがの対応につながる。温かいコミュニケーションと人間関係にもつながる。それこそが、将来につながるんだって」
この秋、3人はドライブに出かけた。紅葉狩りをして、温泉に入って、おいしいご飯を食べた。授業やバイトや部活の日常を忘れて解放感に浸りたかったはずが、気づけば、結局、会話の中心はラグビー部のあれこれに戻っていた。
「やっぱり、絶対に、勝ちたいよね」と。
ラグビーの試合で、実際にグラウンドに立てる選手は15人だ。
都立大の15人のマネージャーは、彼らと一緒に、戦ってきた。
80分間、一人ひとりのマネージャーが、一人ひとりの選手の背中を押し続けてきた。
入れ替え戦も、そう。もっと、もっと、強く、後押しする。
思いを、届けるために。
思いを、結果につなげるために。
次回は12月13日公開予定。入れ替え戦の様子をお届けします。