陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

大学で寮長になる選手も多い名経大高蔵高 元トライアスリート・加藤良寛監督の指導法

名経大高蔵高校で監督をされている加藤良寛さん。学生時代はトライアスロン選手でした(すべて提供・余語順子さん)

今回の「M高史の陸上まるかじり」は、名経大高蔵高校陸上競技部で監督をされている加藤良寛さんのお話です。2022年に全国高校駅伝初出場を果たすと、2024年には2度目の出場。学生時代はトライアスロン選手だった加藤さんのこれまでや指導哲学についてお話を伺いました。

筑波大学大学院在籍時は、アイアンマンで世界選手権にも出場

1980年生まれの加藤さんは、名古屋市出身。「中学には陸上部がなく、バスケ部でした。陸上は高校から始めて、800m、1500mといった中距離をしていました。高校時代は全然実績もなくて800mで県大会に出場したくらいです」

高校卒業後は筑波大学に進み、トライアスロンを始めることに。「持久系は得意でしたし、新しいことに挑戦したいなぁと。スイム、バイクは大学からです」

トライアスロンにはオリンピックディスタンスやアイアンマンといった種目がありますが、加藤さんはどちらにも挑戦されたそうです。

「オリンピックディスタンスでは関東インカレや日本インカレにも出場しました。アイアンマンは(筑波大学)大学院の時、ハワイでの世界選手権に出場することができました。大学の競泳部のプールを使ったり、バイクの練習で筑波山に行ったりとトレーニング環境も良かったです。トレーニングと研究にメリハリがあって、自分で計画的に取り組むことは、いまにも生きています。またトライアスロンは3種目あるので、効率よく体を動かすことなどは、かなり勉強になりました」

選手たちとも一緒に「現状打破!」(後列右端が加藤さん)

当初は男子部員3人からのスタート

筑波大学大学院修了後は、名古屋市にある名経大高蔵高校に赴任しました。

「高校の時から教員、指導者になりたいという気持ちはありました。当時の陸上部はほとんど活動していない状況でした。短距離の女子が2、3人いるようなところからのスタートでした」。部員が少ない状況からスタートし、その後は女子が東海高校駅伝に出場するようになりました。

2013年ごろからは男子に特化して強化するようになりました。最初はサッカーや野球をしていた子たちにも声をかけて、部員3人からのスタート。ここから粘り強く強化していきました。

名経大高蔵高校赴任後、コツコツと粘り強く強化してきました

愛知県高校駅伝初出場時は24位。その翌年から8位、7位、5位、4位、3位と順位を上げて、そこから3年連続の2位。2022年に初優勝を果たし、念願の都大路初出場を決めました。

「教員になってすぐ都大路を見に行きまして、この場所で高蔵の生徒たちが走ってくれたらなと思っていました。実際に初出場の時は、感動しましたよね。いま思うと、それだけでした。レース展開とかの対策を何もできなくて、ただ準備をして走ってというのが初出場時の印象でしたね」。このときの結果は41位でした。

そして2024年、再び愛知県駅伝を制し、2度目の都大路出場を果たします。

2024年愛知県高校駅伝を制し、2度目の都大路出場を決めました。アンカーは田中智稀選手

「思えば、最初に愛知県で2位になったときは豊川高校さんと5、6分の差があったんです。その後は同じ2位でもだんだん差が縮まっていきました。劇的に変わったというよりも、1年1年ちょっとずつ変われたのかなと思いますし、それが強みですね。2度目の都大路は初出場の時の反省を生かして、準備も対策もしっかりできたのですが、課題が残る結果となりました。対応力が課題ですね」。34位と順位は初出場時を上回ってきましたが、全国の高いレベルへの対応に課題を残しました。

全国高校駅伝出場が決まり、歓喜の胴上げ!

動きと体作りを大切に、「凡事徹底」を積み重ね

チームスローガン「凡事徹底」の言葉通り、ここまで基本を大切に、コツコツと積み重ねてきました。「チームマネジメントもすごく大事だと思っています。子どもたちも毎年卒業しますし、引き継ぎもして、残さなきゃいけないものを整理しつつ、着実に積み重ねています」

元トライアスロン選手という異色の経歴については、「自分の経験がない分、固執してることがないです。柔軟に良いことは採り入れることができています。ただ距離だけ踏む、練習だけするのではなく、動きや体作りを大切にしています。長距離選手ですので、もちろん走るのがベースにはなってきます。ですが、そこに向けた走る土台、動きがないと練習ができないです」。中京大中京高校をリレーの日本一に導かれ、現在は日本福祉大学でコーチをされている北村肇先生も月に1度、走りの基本やドリルを教えてくださっているそうです。

名経大高蔵高校のチームのカラーを伺ったところ、「1学年10~15人いますので、3学年がそろうと40人以上になります。多い人数の中での役割分担ですね。自分の役割を果たしながら、運営に携わりながら、全員が責任を持って仕事をして、チームを作っています。卒業してから大学で続ける子も多いですし、うちの卒業生は大学で寮長になる子が多いんですよ」。取材に伺った日も、学年ごとにリーダーシップを発揮する選手がいたり、ジョグの際には私、M高史を誘って一緒に走ってくださったり、一人ひとりが自立している印象でした。

「一緒に走りませんか?」と声をかけていただいた宮崎航選手。愛知県高校駅伝では5区で区間賞を獲得

部員と一緒に、小牧マラソン10kmにも出場

余談ですが、加藤さんも指導や授業であまり時間が取れない中でもトレーニングをされているそうで「朝練習の前に起きたら5kmをジョグして、自宅から学校までの5kmを自転車で通勤しています。朝練習を見て、授業をして、学年主任もしています。本練習を見て、また自転車で帰ります」という1日を過ごされています。

先日、部員全員が出場した小牧マラソンの10kmに加藤さんも出場し、36分48秒でした。「子どもたちだけ走れ。じゃダメですもんね(笑)。今はシューズも多様化して、履いた感じも様々で、接地の感覚も変わってくるので、走って気づくこともあります。ただ、シューズが良いので呼吸だけ我慢すれば(1km)3分40秒ペースでは走れると感じました」。加藤さん自らも走ることで、得た感覚を指導にも生かされています。

今後の目標について伺ったところ「全国高校駅伝8位入賞です。教え子には大学や実業団でも競技を続けてほしいです。あとは社会に出て、自分の仕事を責任を持って果たせるような人になってほしいです。タイムが伸びるのもそうなんですが、自分の仕事や役割をきちんとできるようになってくると、自信を持って行動できるようになり、顔つきも変わってくるんですよ」。競技力はもちろん、人間力の成長も大切にされている加藤良寛さんの指導者人生は続きます。

競技力はもちろん、人間力の成長をとても大切にされている加藤良寛さんの指導者人生は続きます

M高史の陸上まるかじり

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