陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

都大路への初切符をつかんだ水戸葵陵高校! 安全に能力を高める「LTペース」を体感

北関東地区枠で全国高校駅伝初出場を決めた水戸葵陵高校の皆さん(提供・すべて水戸葵陵高校駅伝部)

今回の「M高史の陸上まるかじり」は今年、全国高校駅伝(以下、都大路)初出場を決めた水戸葵陵(みときりょう)高校駅伝部のお話です。関東高校駅伝で北関東地区枠の最上位となり、うれしい都大路への初切符を獲得しました。

最初は長距離部員2人からスタート、元パソコン部の生徒も

指導されているのは澤野敦先生。千葉日大第一高校から日本大学に進み、大学卒業後、水戸葵陵高校に赴任。今年で16年目になります。

最初は長距離部員2人からのスタート。「当初は入学した生徒の中から走れそうな子を探していました。パソコン部だった生徒も入部してくれました。その子は最初3000mで12分40秒かかっていましたが、高校1年の秋に5000m19分台、そこから頑張って、卒業する時には3000m8分56秒、5000m15分40秒まで伸びました! その教え子と今度食事をするんですよ。初出場をものすごく喜んでくれまして。16年間、とにかく生徒に恵まれましたね」

水戸葵陵高校駅伝部で指導されている澤野敦先生

そこから少しずつ駅伝部らしくなっていきましたが、澤野先生は「さらに強くなるために寮を作りたい」と考えるようになりました。高校で急に寮を作ることは難しいため、澤野先生と自宅から遠い生徒さんたちが一緒に住むスタイルになりました。

澤野先生の奥様の維里さんは「8年前、突然『寮を作る』と聞いて、最初は驚きましたが、思ったらすぐ行動する人なので」。澤野先生のご家族も一緒に住み、寮の食事は今でも維里さんが作られています。選手にお話を聞いたところ「ご飯がおいしいんですよ」と大好評のようで、感謝の言葉を口にされていました。

寮で食事をする選手の皆さん

私、M高史は大八木弘明監督(現・総監督)のご指導と奥様・京子さんが作られる栄養たっぷりの食事で、駒澤大学時代を過ごさせていただいたことを思い出しました。自宅から通学している選手以外の皆さんのほか、澤野先生ご夫妻と4人のお子さんたちも一緒に住んでいて、寮はいつもにぎやか!(笑)。本当に家族のようなチーム。それが水戸葵陵高校駅伝部の魅力でもあります。

3年間、なるべく故障しない練習を

2018年の茨城県高校駅伝で6位となり、初めて関東高校駅伝出場を決めました。その後も関東高校駅伝には連続出場を果たしますが、なかなか全国の壁は厚いというのが現状でした。

その後、これまでは5年に1度の記念大会でのみ地区代表の増枠があった都大路が、今年から毎年地区代表が選ばれるルールに変更となり、より都大路行きのチャンスが広がりました。そして今年はエースの井坂光選手(3年)が北関東高校総体5000mで優勝を飾り、インターハイに出場。9月の記録会では14分11秒59をマークしました。

茨城県高校駅伝では優勝した水城高校に次ぐ2位。北関東と南関東の合同で開催された関東高校駅伝では8位。すでに都大路出場を決めている高校以外で北関東の最上位となり、都大路初出場を決めました。澤野先生のもとには、1週間で200件以上に及ぶお祝いの連絡があったそうで「通知が鳴りやまなかったです(笑)」と当時を振り返られます。

今年ついに都大路行きの切符を手にしました

澤野先生の指導方針はとにかく無理をさせないこと。「3年間、なるべく故障をしないで練習を継続できるように指導しています」。練習でよく組み込んでいるのがLTペース(閾値走)と呼ばれるトレーニングです。「倒れ込むような激しい練習や、スピードをめいっぱい上げるような練習はしないです。追い込まず、余裕をもったペースで行っています。けがなく安全に能力を高めていけます」

澤野先生ご自身が学生時代、けがに悩み、走れない日々が続いたご経験から、生徒さんたちには無理のないペースでコツコツと練習を継続してほしいという思いがあるのかもしれません。

そのスタイルもあってか、大学で競技を継続する選手も多く、卒業後も自己記録を伸ばす選手が増えてきています。卒業生では、埼玉医科大学グループの倉田蓮選手、第101回箱根駅伝のチームエントリーには大東文化大学の小田恭平選手(4年)と日本大学の長谷川豊樹選手(2年)が入りました。在校生の皆さんにとっても刺激になっているようです。

人に見せて恥ずかしくない練習をしよう

最近はLTペースを1人で走る練習が増えているそうです。駅伝強豪校といえば集団で走るイメージが強いですし、実際に僕が部活訪問をしていても調整を除いては、ほとんどが集団での練習ですが、取材に伺った日もポイント練習を1人ずつ行っていました。

ウォーミングアップ前にドローインを行い、腹圧を意識

「自分の体やコンディションを把握しながら、無理のないペースを刻んでいくためです。力のない選手が集団で走ると過度な緊張をしたり、無理をして故障につながったりするんです」。自分自身と向き合い、自分のペースを刻んでいく。結果的に駅伝での単独走にも生きそうだなと感じました。

取材日の練習では2年生の竹内優太選手につかせていただきました。安定したペースとリズムで引っ張っていただき、とても走りやすくて、M高史も無事にメニューをコンプリートしました!

取材日、竹内優太選手と400mを25本ご一緒させていただきました

この日は400mを走ってその場で30秒休息、それを25本繰り返す練習です。キツそうなメニューに聞こえますが、LTペースということで澤野先生いわく「心地よいキツさ」のペース。僕も実際に走ってみて「キツくはないし、まだ上げられるけど、楽ではないペース」と感じ、無理なく強化していけそうだなと体感しました。

また、全選手のタイムや走った距離といった練習結果をSNSですべて公開するのも水戸葵陵高校の特徴。「人に見せて恥ずかしくない練習をしよう」という澤野先生の思いからだそうです。

支えてくださる皆さんの思いも1本の襷に込めて

選手の皆さんにもお話を伺いました。

井坂光選手(3年)
「今年はインターハイも決めて、1年間を通して流れが良かったと思います。インターハイでは全国トップレベルの選手とはまだまだ力の差があると感じましたし、そういった選手と対等に戦わなければ、その先のステージでは戦えないと感じました。夏合宿では全員の調子が上がっていきました。練習で追い込みすぎずに、自分の力に合った練習をするのが葵陵の特徴です。全国へ向けて、個人では1区で区間1桁、28分台を出したいです。チーム全体では総合20位以内、タイムも2時間7分切りを目標にしています。大学では、箱根駅伝、日本選手権、さらに国際大会を目標にやっていけたらと思います」

エースの井坂光選手(中央)。今年は個人でもインターハイに出場。県、関東ともに1区を任されました

永井楓馬選手(2年)
「昨年の県新人駅伝で2位になり、チーム全員で今年は北関東枠を取ることを目標にしてきました。都大路を決められてホッとしています。夏過ぎまでは(ライバルチームに)勝てるのかなという不安もあったのですが、ラスト1カ月で自分も含めて全員が都大路への気持ちをしっかり持ってやれたので、なんとか決めることができました。関東ではチーム全員がかみ合って、良い駅伝ができたと思いますが、全国へ向けてもっと葵陵の力は見せられると思いますし、全員があと一段階上に行けば、さらに良い駅伝ができると思います」

2年生の永井楓馬選手。関東高校駅伝では3区を任されました

齋藤星弥選手(2年)
「チーム全体で一丸となってやってきました。今年はけがもなく練習も積めました。全国へ向けて、初出場ですが流れを作って、しっかりテレビに映るような走りをしたいです(笑)。自分より持ちタイムが速い選手が相手でも、駅伝ではしっかり勝ちたいです。葵陵は先輩・後輩関係なく楽しめる雰囲気ですし、他の高校とは違う練習の仕方で、あまりスピード練習はやりませんが、しっかりLTで中盤に耐えられる。そこが葵陵の魅力だと思います」

関東高校駅伝では4区を任された齋藤星弥選手

チームメート、ご家族、卒業生、地域の皆さんの思いも1本の襷(たすき)に込めて、初の都大路を思いっきり駆け抜けてほしいですね! 水戸葵陵高校の皆さん、現状打破!

M高史の陸上まるかじり

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