陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

特集:第101回箱根駅伝

箱根駅伝で11度目の復路優勝! 駒澤大学OBとしてサポート側の総力戦をリポート

佐藤圭汰選手の給水を務められたのは、前回5区を走ったOBの金子伊吹さんでした(撮影・北川直樹)

今回の「M高史の陸上まるかじり」は、第101回箱根駅伝で11度目の復路優勝(復路新記録)を飾った駒澤大学のお話です。OBである私、M高史は今年も母校のお手伝いで伺ってきました。サポート側から見た箱根駅伝の話題です。

選手が全力を尽くすためのサポート体制

今季の3大駅伝は出雲駅伝、全日本大学駅伝ともに2位でした。迎えた箱根駅伝も総合2位、復路に限ると新記録を樹立しての優勝で、藤田敦史監督がおっしゃる「転んでもただでは起きない駒澤大学」を選手の皆さんが体現されました。

箱根駅伝は現役部員の皆さんのほか、お手伝いが可能な卒業生もサポートに入り、毎年一丸となって迎えています。僕も卒業(2007年3月卒)してから毎年、母校のお手伝いに伺っています。

選手の皆さんが全力を尽くせるように、各校がサポート体制を組んでいます。また、箱根駅伝おなじみのルールとして、選手のすぐ後ろを運営管理車が伴走し、監督ともう一人が乗車できます。多くのチームは主務が同乗することが多く、駒澤大学も並木大介主務(4年、大多喜)が同乗しました(M高史も学生時代、2回ほど運営管理車に乗らせていただきました)。

走り終えた選手に運営管理車から声をかける藤田敦史監督(撮影・佐伯航平)

中継所では他の部員が選手に付き添い、移動に関してはOBがサポートします。選手が走り出した後、今度は中継所まで走ってきた選手とともに、フィニッシュ地点へと向かいます。

寮で情報収集や情報共有をする「寮待機」、沿道のポイントとなる地点でタイム差などを計測し、選手や監督に伝えたり、応援したりする「現地タイム係」といった役割もあります。M高史は今回も「現地タイム係」を担わせていただきました。

また、選手のサポートとしてイメージが強いのは「給水」ではないでしょうか。走っている選手が自ら給水を取る大会が多いですが、箱根駅伝は1区と6区を除き、すべての区間で2カ所、各チームの給水員が選手に渡します。

主催者の給水要領によりますと「給水員は1地点につき1名とし、各チームの部員あるいは各チームが許可した大学関係者であること。主催者が給水場所にて配布するビブスを必ず着用すること」となっています。

関東学生連合では、9区を走った東京大学大学院の古川大晃選手に八田秀雄教授が給水をされて話題になっていましたが、駒澤大学でも「OBが給水している!」とテレビやSNSで話題になりました!

今回は円健介さん、金子伊吹さん(現・JR東日本)、安原太陽さん(現・Kao)がOBとして給水員を務められました。

7区で1時間00分43秒の驚異的な区間新記録を樹立された佐藤圭汰選手(3年、洛南)に15km地点で給水をされたのは金子さん。佐藤選手が1年生の時、金子さんは同部屋で部屋長をされていたという関係性でした。

8区では安原海晴選手(2年、滋賀学園)に兄の安原太陽さんが給水をされました。前回大会では7区を走った兄・太陽選手に、弟・海晴選手が給水。安原海晴選手は初の箱根路を区間4位。1時間04分31秒は大学新記録でした。

前回大会は弟・海晴選手(右)が兄・太陽選手に給水ボトルを渡しました(撮影・北川直樹)

M高史も過去、OBとして往路と復路合わせて6度の給水を担当させていただいたことがあるのですが、絶対に失敗できない独特の緊張感や無事に役割を果たすことができてホッとした気持ちを鮮明に覚えています。

多くのOBが給水員として登場する理由

なぜこんなにOBが給水で登場するのかといいますと、シンプルに人手が足りていないからです。「OBのサポートなくして成り立たないです」とレース後、藤田監督も感謝の言葉を口にされていました。

現在、駒澤大学陸上競技部は中長距離部員とマネージャーで構成されていて、選手が36人、マネージャーは男女合わせて13人です。

箱根を走る選手10人に補欠が6人。各区間の付き添いがそれぞれ2人ずつ。さらに関東学連の補助員(走路員)を10人ほど派遣します。箱根駅伝は補助員だけで約2000人! 往復217.1kmの長丁場、観客100万人以上と言われる道のりですので、それだけの人数が必要になってきます。

他にも競技者バス係で1人。そして運営管理車には、監督とともに主務が乗り込みます。前述した「寮待機」「現地タイム係」「給水員」も含めると、どうしても現役の部員だけでは人数が足りなくなってしまうので、毎年数多くのOBも駆けつけ、一緒になって箱根駅伝を戦っています。

運営管理車から選手に伝えられるタイム差は、沿道で計測している「現地タイム係」が収集した情報がもとになっていることも多いので、毎年やりがいと覚悟を持って務めさせていただいてます。また、大八木弘明総監督も直接沿道に足を運ばれて、今大会では2区・篠原倖太朗選手(4年、富里)、6区・伊藤蒼唯選手(3年、出雲工業)、7区・佐藤圭汰選手を激励! 勝負どころや苦しい場面での熱い檄(げき)は選手の皆さんにとってきっと追い風になったことでしょう。部員、スタッフ、OBが一丸となって「チーム駒澤」で挑むのが駒澤大学の箱根駅伝です。

箱根駅伝を終えて、慰労会でレースを総括する藤田敦史監督と選手の皆さん(撮影・M高史)

藤田敦史監督の就任後も受け継がれる〝駅伝魂〟

振り返れば大八木弘明監督時代から、たとえ往路で出遅れがあったとしても、総合優勝が厳しい状況になっても、「何としても復路優勝だけは勝ち取ろう」というチームスタイルでした。藤田敦史監督が就任されてからも、その〝駅伝魂〟は受け継がれています。

今回の復路スタート時、トップ青山学院大学との差は3分16秒でしたが、7区佐藤圭汰選手が区間新の激走! 6区の伊藤蒼唯選手、8区の安原海晴選手、9区の村上響選手(2年、世羅)も粘りの走りで、2分21秒差となりアンカーの小山翔也選手(2年、埼玉栄)へ襷(たすき)が渡りました。この時点で復路は2位に55秒リードしている状況でした。

9区村上響選手(左)からアンカー小山翔也選手(右)に襷が渡った時点で復路では2位に55秒リード!(撮影・北川直樹)

10区のテレビ中継の定点は蒲田(5.9km)、新八ツ山橋(13.3km)、田町(16.5km)、御成門(18.1km)、馬場先門(20.1km)。データ放送や速報で差を確認できるだけでなく、10kmと15kmの給水地点でタイム差を確認することもできます。さらにそれ以外でも、「現地タイム係」が待機して差を計測し、選手や運営管理車の藤田監督と並木主務に伝えます。

復路は往路を走った選手も応援に駆けつけますし、最終10区では他の地点で役目を終えた部員も、手薄な地点を見つけて応援します。前日に2区を走った主将の篠原選手が9区で村上選手の給水を担当するなど、まさに総力戦です!

10区は沿道から大きな声をかけても選手に伝わりにくいので、ボードに大きな文字を書いたり、運営管理車の声かけポイントよりも前に監督や主務に伝えたりするなど、工夫も必要です。

今回は10区の小山選手が先頭から3分15秒以内に戻ってくることが、復路優勝の絶対条件でした。

2分21秒差で鶴見中継所をスタートし、蒲田(5.9km)では2分44秒、新八ツ山橋(13.3km)では2分56秒に。序盤でグッと差が広がり、その後は定点のたびにじわじわと離されていく展開になりました。定点以外にも現地タイム係が細かくタイム差を計測して運営管理車に伝えていたため、小山選手にも情報は伝わっていたと思います。

特に運営管理車からの声かけポイントよりも少し前に、いかに最新のタイム差を藤田監督にお伝えできるかがカギとなります。そのため、現地タイム係の配置場所がとても重要になってきます。

藤田監督の声かけや、それに見事に応える小山選手の力走で、後半に入ってからは差が広がらず、田町(16.5km)では2分56秒差。御成門(18.1km)で2分55秒差。馬場先門(20.1km)で2分53秒差と少しずつ盛り返し、最終的にフィニッシュ地点には2分48秒差の総合2位で戻ってきました。復路スタート時の3分16秒差よりも早くフィニッシュし、復路新記録で11度目の復路優勝を飾りました。

小山翔也選手は総合2位でフィニッシュ、見事に復路優勝を飾りました(撮影・吉田耕一郎)

どんな順位であっても心を揺さぶられます!

現地タイム係の役目が無事に終わると、まずはホッとします。そして、「今年の箱根も終わったなぁ」とちょっと寂しい気持ちにもなります。毎年、お手伝いさせていただいていると、総合優勝した時もあれば、シード権を逃した時もありましたが、どんな順位であっても挑戦している選手皆さんの走りに、心を揺さぶられますね。感動をありがとうございます!

今回の「M高史の陸上まるかじり」は、かなり母校愛の強い、駒澤推しの記事となってしまいました(笑)。駒澤大学はもちろん、きっと各チームで様々な方が携わられていたと思いますし、運営もしていただいていると思います。全チームの選手の皆様、マネージャーの皆様、スタッフの皆様、関係者の皆様、本当にお疲れ様でした。

M高史の陸上まるかじり

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