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特集:第73回甲子園ボウル

合唱で学んだ「やるからには勝つ」 関学DL藤本潤

仲間から祝福され、笑顔のDL藤本(中央) (撮影・篠原大輔)

第73回甲子園ボウル

12月16日@阪神甲子園球場
関西学院大(関西1位)vs 早稲田大(関東)

シーズン終盤になるにつれ、関学ディフェンスで78番のDL(ディフェンスライン)の存在感が増してきた。とくに2度の立命館大との戦い。相手のOL(オフェンスライン)を打ち破ってQBを追いかけ回した。身長184cm、体重115kgの大男、藤本潤(3年、明治学院)はナイスプレーのたび、まるでお相撲さんのようにペシペシと仲間から体をたたかれ、満面の笑みをこぼした。
「1年前に立命館の安東純一にボコボコにやられて。あの屈辱感が、この1年の原動力でした。安東さんが去年3回生でよかった。リベンジする相手が残ってくれてたことに感謝してます。1対1の勝負でやり返せたと思います。勝てたと思います」。フィールド上の獰猛(どうもう)な姿からは想像できないほど穏やかな表情で、藤本が言った。

フィールドから出ると穏やかな表情の藤本 (撮影・篠原大輔)

しみこんできた関西弁

東京出身。中学ではバスケットボールをしていた。中3の秋に家から近い明治学院高の文化祭に友だちと出かけた。いろんな部活がプラカードを持って、お客さんの中学生に早すぎる勧誘をしていた。その中に、ひときわ楽しそうな集団がいた。「大きな人たちが集まって、はしゃいでたんです。アメフト部でした。そのとき直感的に『これが俺のしたい高校生活かな』と思いました」。すでに90kgの堂々たる体格だった藤本は当然のように彼らに囲まれ、この高校でアメフトをすると決めた。

「なんだ、この痛いスポーツは」。これが藤本のアメフトに対する第一印象だ。高校に入ってすぐにDLになった。大きな体は最強の素質だ。最初から当たりは強かった。そして当たっているうち、ラインの当たりにはまった。「うまい人の当たりは全然違う。質が違いました。当たりって深いな、と思いました」。本場アメリカの大学生の練習を動画で見て、マネをした。チームは弱かったが、藤本は都の選抜チームに選ばれるようになった。早くも2年生のとき、関学から声がかかった。ただ、大学のアメフト事情に疎かった藤本は思わず「関学ってどこの大学ですか」と聞き返した。QBの後輩が教えてくれた。「大学日本一に何度もなってる関西の大学ですよ」。その後輩は名を竹田淳といい、現在アメリカの短大にフットボール留学をしている。

関学に入学してアメフトの練習に参加すると、新入生の中で関西人のグループがガッチリできていて、なかなかなじめなかった。「俺は関東の方が合ってたんじゃないか、と思いました。少し帰りたくなりました。いま思えば自分の甘さだったんですよね。練習がしんどいのと、周りのキャラが濃くて入っていけないのとで。自分から行かないと始まらないから、ちょっと頑張ってみんなの輪に入っていくようにしたら、すぐに慣れました。関西弁には2回生までは抵抗してたんでですけど、もうだいぶしみこんできました」。懐かしそうに笑う。

自分でも「2回生まではデカいだけのDLだった」と言うのだから、周囲の評価も同じだったのだろう。それがこの1年で動けるようになった。「練習から、あまりプレーを読まずに、目の前のOLの動きに反応することを心がけました」
西日本代表決定戦では値千金のキックブロックもあった。第1Qに先制のタッチダウンを許した直後のトライフォーポイント。キック時の立命の穴を見抜いていた関学が仕掛けた。そして相手の壁を割り込んだ藤本の手に、キックされたボールが当たって失敗。立命に入るはずの1点が入らなかったことが、最後の逆転劇につながった。

トライフォーポイントのキックをブロックした藤本(左手前、青78番)

合唱部で「2軍」落ち

藤本は「勝負事はやるからには勝たないといけない」と言いきる。その原点はなんと、小学校の合唱部にあった。小6で身長が170cmを超え、足のサイズも29cm(ちなみに現在は30cm)に達していた藤本は、合唱部で「アルト」のパートのリーダーだった。それが小6の夏、大事なコンクールを前に、先生から「2軍」落ちを言い渡される。「リーダーなのに2軍なんて、ほんとに恥ずかしかったし、めちゃくちゃ悔しかったんです」。次の練習から毎日必死でアピールした。歌った、歌いまくった。そして本来の場所に戻れた。「あれが、勝つために必死になった最初の経験でした。やっぱり最後は気持ちだと思います。スポーツと一緒で、気持ちが歌声に出たんだと思います」。真剣そのものの顔で、大男が言う。

昨年の甲子園ボウルは、ほとんど出番がなかった。日大に負けても涙も出てこなかった。「悔しさより無力感が最初に来ました。どうして俺は出られなかったんだ、と」。そのあと、フィールドから控室に戻る通路を歩いているときに、関学ファンの声が聞こえた。「おまえら、よう頑張ったぞ!!」。関西の人は、なんてあったかいんだ。そう思ったら、自然と涙が出てきた。「もっと頑張んないとダメだ」。その思いもこの1年、藤本を突き動かしてきた。

さあ、初めて自分が主人公で臨む甲子園ボウルだ。「早稲田のOLは勢いがあって速いです。関西にはないタイプだと思います。でも絶対にライン戦では負けない。僕らDLが一番輝いていたいです。DLで勝った、とみんなに言わせるぐらい、DLユニットで勝ちにいきます」。そして試合後は晴れやかな表情で校歌「空の翼」を歌い上げると決めている。「もう声が低くなっちゃって残念なんですけど、合唱部のころを思い出して、思いきり歌います」

元合唱少年が、甲子園の芝の上で暴れまくる。そして、歌う。

甲子園ボウルでも存在感を見せつけたい

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