確実にシード権を 神大の「育成元年」
関東ではこの冬一番の冷え込みとなった12月16日、神奈川大学で箱根駅伝に向けての合同取材が開かれた。昨年は11月の全日本大学駅伝で優勝し、前回の箱根駅伝でも大きな期待がかけられたが、13位に終わった。大エースの鈴木健吾(現・富士通)ら力のある4年生が卒業し、大後栄治監督曰く「春先は不安しかなかった」という。それでも予選会3位と、しっかり仕上げてきた印象だ。
次のステージのための第一歩
会場には30人ほどの報道陣が集まった。昨年は全日本大学駅伝優勝の余波もあり、100人以上の報道陣が詰めかけたという。大後監督は「今日は適性人数ですね」と笑わせ、「去年はチームとしての力を発揮できなかった。多くの注目を集める中で結果を残す“品格”が、まだないと感じました。成功、失敗の経験をもっと積み上げ、走力以外の面で、しっかり学生に意識を根付かせていかないといけない」と語った。
今年の春の時点では、ハーフマラソンを走ったことすらない選手も多数いたという。例年はトラックシーズンのあとにロード、駅伝シーズンに入っていくが、あえて春先もトラックのレースを捨てて、5月の仙台ハーフマラソンなどに選手をエントリーさせ、長距離を走れるように経験を積ませた。チームの意識もまとまり、予選会では3位通過。今年の目標は、しっかりとシード権を獲得することだ。「今年は優勝争いより、シード権争いのほうが面白いですよ。大集団ができるんじゃないかな」。目標達成には「失敗しない走り」が重要になってくると話す。「今年は育成元年。チームも若返り、次の神大のステージのための第一歩を踏み出したと思っています。選手には、今年の経験を必ず次の年に生かしてほしいです」
苦労の1年「引退したら話します」
大後監督がエースとして名前を挙げたのが、主将の山藤篤司(4年、愛知)と越川堅太(3年、東京実)。山藤はキャプテンとして、走る以外でもさまざまな苦労があったという。「今年1年は、とにかく大変でした。まあそれは引退したあとに話します(笑)」と冗談めかして言う。「キャプテンとしてチームを引っ張っていくという、すごくいい経験ができました。個人的には春先に怪我をしてしまったけど、秋以降は順調に来てます。予選会で僕は気負ってしまって失敗しちゃったんですけど、みんながちゃんと走れて、チームとして強くなっているなと感じました。箱根はひとことで言えば、通過点。僕は競技を続けるし、ここで終わるつもりはないです。まずはしっかりと自分の走りをして、大学生活の最後を気持ちよく終わりたいです。今は箱根が楽しみで、早く走りたいなという気持ちです」。しっかりと区間賞を取り、シード権を獲得する。二つの思いにブレはない。
箱根が終わったら何をしたい? と問われると「車を買ったのでドライブして釣りに行きたいです。釣りが趣味なんです。(鈴木)健吾さんといまでも行きます」。仲のよさは今でも健在のようだ。
「神大のエース」としての自覚を
エースと呼ばれることについて自覚がありますか? と質問を向けられると「僕をエースと呼んでほしいです」と強い口調で返答してきたのが越川だ。自分が柱となってしっかり引っ張っていく、という気持ちを持って取り組んでいるという。今年は練習も積めており、より手応えを感じられる1年だったようだ。「2区しか走りたくない。去年の全日本大学駅伝のときのようだったら区間賞も狙えると思う。ほかの大学のエースと戦える選手でなければチームを任せてもらえないと思うんで、しっかり結果にこだわってやっていきたい」と気合十分だ。
リラックス方法は温泉やサウナに行って、走る以外の汗をかくこと。大事な大会の前日には、甘いものを大量に食べてエネルギーにする、というから驚きだ。
昨年5区最下位と悔しい結果になった荻野大成(3年、加藤学園)は、関東インカレ2部3000m障害で3連覇、日本インカレでは2位になるなど結果を残してきた。「今年は1区を走りたい。集団走から抜け出して走るレーススタイルが自分に合ってると思うので」という。5区のリベンジは? と質問すると「うーん、もう5区はいいです(笑)アップダウンのあるコースは苦手じゃないんですけど、やっぱりほかの区間を走りたいかなと」。また「背中で語れるような選手になりたい」とも話してくれた。
戦略家の大後監督は往路、復路のバランスに頭を悩ませているようだ。着実に育ってきた選手たちが、当日どのような走りを見せてくれるだろうか。