自転車

連載:いけ!! 理系アスリート

世界を語れるドクターに 慶應・大前翔(下)

世界を語れるドクターに 慶應・大前翔(下)
全日本学生RCS第2戦で力走する大前(写真は本人提供)

連載「いけ!! 理系アスリート」の第5弾は、慶應義塾大学自転車競技部でロードレースに取り組みながらスポーツドクターを目指す医学部生、大前翔(かける、3年、慶應)です。慣れ親しんだ水泳から自転車に転向した大前は、挑戦の場を世界に広げました。

文武両道の限界

2018年の夏、大前はフランスにいた。「ヨーロッパに行ったら絶望するぞ」。先輩たちは口々にそう言った。ロードレースにおける日本とヨーロッパの差は歴然。日本でつけた自信など打ち砕かれる、と。大前はその覚悟で、「U23のツール・ド・フランス」と呼ばれる「ツール・ド・ラヴニール」に出場した。結果は156人中107位。覚悟していた分、絶望はしなかったが、文武両道の限界を思い知った。このまま医学との両立を続けていては、世界では戦えない。

これまで大前は文武両道のために工夫し、努力し続けてきた。医学部の試験範囲は教科書1000ページ分に上る場合もあり、試験期間のレースには出なかった。試験とレースが1週間でもずれているなら、試験後の1週間でできることを最大限やって出場してきた。「スケジュール的に厳しいときは、余計なことを考えずにレースに臨むのが一番だと思います」と大前。忙しくても時間を見つけて15分でもローラー台に乗る。ときにはローラー台に乗りながら勉強することもあった。

世界に挑むために休学

大前が目指すのは、より高い競技レベルのアスリートに関わるスポーツドクターだ。自分の競技レベルを上げることで、患者のすそ野を広げられると考えている。しかし、いまのままでは国内のU23のレースやインカレ優勝を目指す選手までしか、実体験に基づいて支えることができない。自分自身が世界で活躍する選手になれば、同じように世界で戦う選手にもアドバイスできるようになるはず。だからこそ、自分の可能性にかけて自転車に打ち込みたい。19年8月末には、強くなってもう一度「ツール・ド・ラヴニール」を走りたい。遠いフランスでの戦いを見すえ、大前は休学を決意した。

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いまだからできること、いましかできないことを考え、大前は休学を決意した(撮影・松永早弥香)

休学すると伝えた時、父はうなずき、母は自転車に転向したときと同じように背中を押してくれた。実は、大前は究極の文武両道には大学1年のときから疑問を持っていた。「選手はいつか引退しなきゃいけない。逆に学問や医師に引退はないわけで。それだったら若いうちにできることをやっておいた方が、将来人生を振り返ったときに後悔しないだろうと、ずっと思ってました」。これまでの大前は、医学にも自転車にも全力で取り組んで好結果を出せていたため、休学に踏み切れなかった。しかし「ツール・ド・ラヴニール」は大前に世界レベルの厳しさを知らしめた。これ以上ないほどに勉強も自転車も頑張ってきた大前だからこその選択と言えるだろう。

今年、大前はUCIコンチネンタルの「愛三工業レーシングチーム」に移籍し、名古屋を拠点に自転車に打ち込む。「予測できないことをするよね」と、普段から友人や恋人に言われるそうだ。大学スポーツは通常4年間だ。そんな常識を壊してでも挑戦したいことが大前にはある。だったら文武両道を、4years.を超えてゆけ!!

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