陸上

連載:いけ!! 理系アスリート

人生も5区も直感信じて 法政・青木涼真(下)

人生も5区も直感信じて 法政・青木涼真(下)
青木は今年の5区で自己記録を更新したが、区間3位だった(撮影・松嵜未来)

連載「いけ!! 理系アスリート」の第6弾は、今年の箱根駅伝で2年連続して5区の山登りに挑んだ法政大の青木涼真(りょうま、3年、春日部)です。生命科学部環境応用化学科の勉強と陸上競技の両立を最重視して法政大進学を決めた青木でしたが、思っていた以上に陸上にのめり込んでいきます。

夏合宿のけがで走り込めず

1年生のときは箱根で8区を走って区間9位だった。2年生で初めて5区を託され、9人を抜いて区間賞。前年に5区の距離が変更となって新たに生まれた区間最高記録も塗り替え、新“山の神”として脚光を浴びた。青木の活躍で法政は総合6位となり、12年ぶりの連続シード権獲得を果たした。驚いたことに青木自身は山登りに向けて特別な準備はしておらず、最後の最後までほかの区間を走ると思っていた。「やっぱりキツいですから、できれば平地を走りたいです」。つい本音がこぼれる。

3年生の一年を振り返ると、春は順調だったが、駅伝シーズンは満足のいくものではなかった。トラックシーズンに入ってすぐの関東インカレで、3000m障害の2連覇を達成。決勝でのレース展開が、青木に大きな自信を与えてくれた。「先頭集団から離れて4位まで落ちました。いつもだったら4位を死守して、あわよくば表彰台という気持ちで走ったと思うんですけど、今回は連覇もかかっていて意地がありました。絶対に勝つという気持ちで走って勝てたのは自分にとっても大きな収穫でした」。7月には同種目で8分40秒20の自己ベストをたたき出した。

しかし夏合宿に入ってすぐ、左膝と左のアキレス腱に違和感があった。とくにアキレス腱は靴を履くだけでも痛かった。9月の全日本インカレ出場を回避し、チーム練習から外れて筋力トレーニングやリハビリに取り組み、10月の第2週からようやく練習に復帰。当初は10月8日の出雲駅伝に間に合うように調整していたが、中途半端な状態で復帰して11月4日の全日本大学駅伝と翌年1月の箱根駅伝に響くのは避けたいと考えた。法政にとって、全日本には久々にシード権を取り戻せるかどうかがかかっており、箱根は最大の目標だった。

全日本に向け、青木はほぼ1カ月間走れていない状態から急ピッチで調子を合わせた。直近の練習では調子はよかったものの、いざ走ってみると粘りが出ない。夏に走り込めなかったことが響いた。結果は1区で区間5位。青木は2区の鎌田航生(1年、法政二)が三大駅伝初出場だったため、自分の走りで1年生の負担を軽減できればと考えていた。しかし難しい位置でつないでしまい、勝負に負けた悔しさが残った。チームとしては7位に食い込み、17年ぶりにシード権を獲得した。

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全日本大学駅伝では1区を走り、区間5位(手前の右から2人目が青木、撮影・大島佑介)

来年の5区でリベンジを

箱根では2年連続の山登りで7人抜き。1時間11分29秒と、前回自分で出した区間最高記録を15秒更新した。ただ今年は区間3位。3人も区間新を記録し、話題を集めた。「僕自身は“山の神”と言われるにはまだまだ力が足りないと思ってます。でも上の2人は別次元だってことを実感しました」

区間賞だった國學院大の浦野雄平(3年、富山商)とは面識があり、「平地での走りが軽くて山登りもかなり速いだろうな」と青木がもっとも恐れていた選手だった。区間2位だった東海大の西田壮志(2年、九州学院)は高校時代から名が知れた選手だったこともあり、東海大に入ったと聞いたときから、いつかは5区にくるだろうと思っていた。

青木は自分の走りを「70点。ギリギリ合格ラインかな」と評価している。夏に鍛えるのは、秋から冬の駅伝を走る選手の大前提であり、そこで走り込めなかったことが箱根にも響いた。「夏にやってないとごまかしはきかない、ということを感じる大会になりました。予想通りと言えば予想通りだったかもしれませんが、こんなに差がつくのかと思うと悔しいです。今回も区間賞だったら『来年は平地を走りたい』って言ってたと思いますけど、また5区でリベンジしたいです」

法政は6位だった。目標が5位だったことを考えると大きく落胆するような順位ではなかったが、青木は今回のメンバーが法政の歴代最強のチームと感じていたため、過去最高の3位以上も狙えると考えていた。坂東悠汰(4年、津名)がエースとして引っ張ってきたチームを、青木と佐藤敏也(3年、愛知)のWエースが受け継ぎ、さらなる高みを目指す。

トラックのための駅伝、駅伝のためのトラック

来シーズンはユニバーシアードがあり、青木は3000m障害での出場を狙っている。関東インカレ3連覇も大きな目標だ。駅伝でもエースとしての走りを期待されている。「学生のうちはトラックも駅伝も両方やって強くなるのが大事かなって。出雲、全日本、箱根といろんな距離の駅伝があって、総合的な力を強化するのが大学生のうちの目標です。トラックのための駅伝であって、駅伝のためのトラックでもあると、僕は思ってます」

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学生のうちは3000m障害と駅伝の両輪で強くなりたい

大学入学当初、陸上は大学までにして、研究内容に関連する業界に就職するつもりだった。しかしいまは、実業団で3000m障害をメインに走りたいと考えている。「自分でも初めて挑戦したいという気持ちが芽生えました。チャンスがあるなら東京オリンピックを狙いたいですけど、自分の力ではまだまだ届かないです。その次を目指すためにも、まずは挑戦して自分の立ち位置を確認できたらと思ってます」。高1でサッカー部の体験入部に参加しそびれ、なんとなく始めた陸上がいま、大きく青木の人生を揺り動かしている。現役引退後は生命科学部で学んだことを生かせる仕事ができればと思う一方で、人間的に成長させてもらった陸上の指導者ができればという思いもある。いまはまだ、両方の可能性を探っている。

最後に「文武両道に取り組むかどうかで悩む人にアドバイスするとしたら? 」と尋ねると、「僕自身はそこまでキツいと思ってないです」と言った。どっちも忙しいという状況にやりがいを見いだし、むしろ忙しいときの方が両方集中できるようにも感じている。

「自分で選んだことなら、多少キツくても頑張らないといけないし、親が送り出してくれたのであればその気持ちに応えたい。チームもある意味、自分勝手にやってる僕を許して応援してくれてますので、周りの人の応援があればやっていけると思ってます。自分より忙しい中でも頑張ってる人はいくらでもいると思えたら、自分も頑張れるんじゃないかな」

今年の箱根で関東学生連合の1区を走った東大工学部の近藤秀一(4年、韮山)に対し、青木は尊敬の念を抱いている。

理系ランナーの青木に「5区の山登りも、いろいろ分析してレースプランを立てるんですか? 」と質問する記者も多いという。「そのあたりは意外と適当で、直感で走ってます。僕がデータを生かしきれてないだけかもしれませんが」と青木は笑った。5区の険しい上りも、文武両道の道も同じ。青木は直感を頼りに信じた道を突き進む。

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