ラクロス

連載:4years.のつづき

どんなときもラクロスを楽しむ 岩本海介・4完

日本のチームにはないというネーム入りの自分のユニフォームを掲げる岩本

大学生アスリートは4年間でさまざまな経験をする。競技に強く打ち込み、深くのめり込むほど、得られるものも多い。学生時代に名を馳(は)せた先輩たちは、4年間でどんな経験をして、どう生かしているのか。「4years.のつづき」を聞いてみよう。シリーズ5人目は、現在アメリカのラクロスプロリーグで活躍する岩本海介(かいすけ、32、デンバー・アウトローズ)。最終回の4回目はプロとしての歩みや、本場でプレーする醍醐味などについてです。

前回の記事「ラクロス選手として進歩するためのプロ挑戦 」はこちら

3度目の正直で本場のプロに

2017年に挑戦した2度目のプロテストでは、デンバー・アウトローズのトライアウトはパスしたが、トレーニングキャンプでカットされてしまった。あと一歩のところまではきた。翌18年のトライアウトまでロサンゼルスに残ることにした岩本は、トレーニングを積んだ。とくに体の大きなプロ選手との差を埋めるため、どこを強化すればよいかを考えながら練習した。

岩本のストロングポイントはボールをキャッチしたあと、素早く正確なパスを送れること。これはアウトローズのコーチからも認められていたところだ。アメリカに来て知り合ったプロ選手と練習したり、大学の練習に参加したりして腕を磨いた。そして18年、晴れてデンバー・アウトローズの一員となった。3度目の正直だった。

岩本は2018年、日本選手として初めてMLLの試合に出た(写真は本人提供)

日本選手初出場の快挙

初めてユニフォームをもらったのは4月の末だった。背番号16で「IWAMOTO」のネーム入り。「日本のチームには名前入りのユニフォームはないので、言葉にならないうれしさがあふれてました。『すごい』としか言葉が出てこない。ユニフォームを壁にかけて、床に置いて、とにかく写真を撮りました(笑い)」

そして3カ月後の7月22日。ホームスタジアムでのダラス・ラトラーズ戦で、岩本は日本の選手として初めてMLL(Major League Lacrosse)の試合に出場した。トライアウトに初めて挑戦してから足かけ3年の夢がかなった瞬間だった。スタジアムはアメフトNFLのデンバー・ブロンコスのホームグラウンドでもあり、巨大だ。「こんな大きいスタジアムでユニフォームを着て立ってることに、感動しかなかったです」

先発した岩本は11-11の場面で交代した。結局12-13で負け、悔しい思いが残った。ただ岩本のMLL出場は、日本のラクロス界にとって大きな一歩だったのは間違いない。

この試合前にチームメイトから言われたことがある。「お前は頑張ってきたし、何も緊張することはない。これだけ練習してきたからこそ、この舞台に立てるんだ」。友だちからも「いつもラクロスを楽しそうにやってるんだから、それを貫けばいいんだよ」との言葉をもらった。アメリカのラクロスカルチャーを象徴した言葉だ。「たしかに活躍しようと思っても、できない状況になるかもしれない。その言葉をもらって、楽しむことは自分の意識次第でいつでもできる、と考えられるようになりました」

遠征メンバーを外れても自費で“参戦”

岩本のラクロス愛がよくあらわれているエピソードがある。昨年のリーグ最終戦。岩本はベンチメンバーからもれたが、この試合に負けるとシーズンは終わる。「ここまで一緒にやってきたチームメイトと最後まで一緒にいたいと思って、試合のあるアトランタまで自費で行きました」。そして、このリーグ最終戦に勝ち、セミファイナルに進出。ボルチモアでの一戦にも自費で駆けつけた。

迎えたファイナル、岩本はベンチ入りを果たした。
「コーチが『グレートチームメイトだよ』って言ってくれて。ラクロスとチームへの愛みたいなところも含めて、ベンチ入りできたんだと思います」。これが岩本だ。プレーに加えてラクロスへの情熱で道を切り開いていく。
そして、デンバー・アウトローズはチャンピオンに輝いた。「ベンチに入って優勝の瞬間に立ち会えたのもうれしかったですけど、チームメイトとの一体感に感動しました」

チャンピオンTシャツを着て、トロフィーを持ち上げる岩本(写真は本人提供)

日本の若い世代を支えたい

現在アメリカでトレーニングに励む岩本。新シーズンの目標について「去年より1試合でも多く試合に出場することです」と語った。昨年は5試合にベンチ入りして1試合の出場だった。さらに大きな目標として、MLLのオールスター戦出場を掲げる。22年にはカナダのバンクーバーで世界選手権がある。「日本代表として出場して、アメリカのラクロス仲間と対戦したいですね」。岩本は「日本でラクロスをやる若い世代の力にもなれれば」と思っている。

「あまり表立って何かをしようという性格ではないですけど、日本の大学のチームがアメリカ遠征したいと言えば、プロのプレーヤーに頼んでクリニックを開いてもらったり、ラクロス留学したい学生がいれば相談にのったり。小さいところから支えられたらと思ってます」

岩本は日本のラクロスの裾野を広げる存在でもある。最後にアメリカでラクロスをする醍醐味を聞いてみた。「レベルが高いのはもちろんですけど、人のよさが大きいです。みんなラクロスが好きで楽しいから、必死に練習する。こちらも必死に練習すると、リスペクトをもって接してくれる。刺激的な場所です」

ラクロス歴18年の岩本。アメリカではまだスタートラインに立ったばかりだが、ここからまた、道を切り開いていく。

●日本人初、アメリカのラクロスリーグでプレーする岩本海介さんの「4years.のつづき」全記事

 1.日本ラクロスの歴史を変えた男 2.慶大ラクロス部で経験した死闘 3.ラクロス選手として進歩するためのプロ挑戦 4.どんなときもラクロスを楽しむ

4years.のつづき

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