野球

連載:4years.のつづき

上原浩治ら選手たちが引退後も輝けるように 澤井芳信・4完

澤井さんは早稲田大の大学院に通いながら2013年、株式会社スポーツバックスを立ち上げた

大学生アスリートは4年間でさまざまな経験をする。競技に打ち込み、深くのめり込むほど、得られるものも多いだろう。学生時代に名をはせた先輩たちは、4年間でどんな経験をして、社会でどう生かしているのか。「4years.のつづき」を聞いてみよう。シリーズ7人目は、引退を表明したばかりの上原浩治投手(巨人)ら、アスリートのマネジメントを手がける株式会社スポーツバックスの代表取締役、澤井芳信さん(38)。最終回は大学院に通いながらの起業、今後のビジョンなどについて語ってもらいました。

上原が「世界一」の胴上げ投手となり、状況一変

「お前と一緒に仕事するから、独立せえよ」。上原のひとことで独立を決意した澤井さんは、早稲田大の大学院に通いながら起業の準備を進め、2013年8月、株式会社スポーツバックスを立ち上げた。スポーツバックスの「バック」には「スポーツの裏側」の「バック」、「支援する、サポートする」の「バックアップ」、そして「守備、ディフェンダー」の「バック(ス)」と、三つの意味が込められている。

潤沢な資金が用意できたわけではない。大学院の学費の支払いもあり、当初は自転車操業が続いた。

「奨学金も申請して何とかやりくりしましたけど、あの年はほんとに大変でした。そしたらね、映画の世界みたいな、すごいことが起きたんです!!  泣きましたね、あれは」

上原のマネージャーとして、大学院生として、澤井さんは超多忙な日々を過ごしていた (写真は本人提供)

13年秋、上原の所属するボストン・レッドソックスがワールドシリーズで優勝を飾った。上原はリリーフとして、ポストシーズンを含めるとメジャーの全投手中最多の86試合に登板。そして、ワールドシリーズの胴上げ投手となった。シーズンを終えた上原が帰国すると、取材の申し込み、テレビ番組出演のオファー、CM出演の打診などが殺到。会社の状況は一気に好転した。

「上原さんが帰ってきてから、とんでもないことになりました。僕の友人に言わせると、5分に1回は僕の携帯電話が鳴ってた、って。それをさばきつつ、修士論文を書いてました」

スポーツをやりきる、勉強もやりきる

上原のシーズンオフの間は、朝8時過ぎから東京都内のグラウンドでトレーニングのパートナーを務めた。午後、上原が体のメンテナンスをしている間に所属アスリートの仕事の調整や事務作業。夜は上原のテレビ収録、取材、会食などに同行し、その後に論文執筆。夜中にカラオケボックスにこもり、論文を書き進めたこともある。殺人的なスケジュールだが、ここで大学時代の経験が生きてくる。

「大学時代、2~3週間に1回、2000~3000字のレポートを書いてましたから、文字を書くことに抵抗がなかったんです。当時はキツかったですけど、あの経験が社会人になって効きました」

15年3月、大学院の全過程を修了し、スポーツ科学の修士号を取得した。大学生活で野球も勉強も両方やりきった。それがいまのビジネスにつながっている、と澤井さんは強調する。

「大学3回生の時、一番難しい必修科目があったんですけど、必死で勉強して、僕、試験で99点とって、1位やったんです。あとから振り返ると、同じ時期に野球でもベストナインをとれた。勉強を必死で頑張ってたときに野球でも結果が出て、両方が充実してたんです。野球やったら野球をやりきる。ほかのスポーツやったらそのスポーツをやりきる。もちろん勉強もやりきる。いい点がとれればいいですけど、それより『やりきることが大事なことやと、僕は思います」

東京オリンピックのあとが大事

あこがれていたプロ野球選手、メジャーリーガーにはなれなかったが、一流アスリートたちを裏方として支える仕事に就けた。立ち上げのときは自分一人だったスポーツバックスが、現在は社員4人を雇えるようになった。8人のアスリート、元アスリートに加え、スポーツ料理研究家・村野明子のマネジメントも手がけている。19、20年と、国内では世界的なスポーツイベントが続けて開催される。澤井さんのビジネスにとっては、これも追い風といえるだろう。

「東京オリンピックも確かにすごく大事なんですけど、僕はそこを大きな目標だと考え過ぎないようにしてます。もちろんマネジメントとしては、弊社に所属する人たちにはオリンピックの仕事にたくさん関わってもらいたい。でもオリンピックの仕事を取ることがすべてではなくて、そのあとにどんな仕事をやっていけるかがもっと大事なんです」

東京オリンピックのあとも、現役アスリート、元アスリートたちが輝けるようにと考えている

スポーツマネジメント以外に、スポーツファシリティコンサルティング(地方自治体や競技団体などにスポーツの価値を最大限に引き出す施設を提案する事業)や、治療院、コンディショニングの事業にも新たに乗り出した。それでも今後のビジョンに関して、決して楽観視はしていない。

「スポーツマネジメントって、はたから見ると華やかに見えるかもしれないですけど、難しい仕事です。スポーツ界にとってプラスになることをこれからもやっていきたいし、その流れに乗っていきたいですけど、自分の思いだけで食べていける甘い世界じゃないです。日々考えたり悩んだり、でもまぁいいか、って思ったり(笑)。いろんな思いがあって、逡巡してますね」

折しも5月20日、上原が今シーズン限りでの現役引退を表明した。上原浩治という元アスリートをさらに輝かせるために、澤井さんはエネルギッシュに闘い続ける。

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