三大駅伝に挑む新生・拓大、岡田正裕前監督のDNA+新しいカラーを
ものまねアスリート芸人、M高史さんが大学の陸上部や駅伝部を訪れて練習に参加し、選手たちに取材する連載「M高史の走ってみました」。今回は拓殖大学です。昨年度は出雲駅伝で4位、箱根駅伝で総合9位に入り、今年度は出雲、全日本、箱根の学生三大駅伝すべてに出場が決まっています。
亜大の選手時代から名将と歩んだ山下駅伝監督
拓殖大といえば、2010年からチームを指導されてきた岡田正裕監督が今年3月をもって勇退されました。元マラソンランナーの松野明美さんを育て、06年の箱根駅伝では亜細亜大を優勝に導き、昨年度はエチオピア人留学生のワークナー・デレセ選手(現・ひらまつ病院)を主将に任命して好結果を出すなど、数々の指導実績を積み上げられました。名将から指導の襷(たすき)を引き継いだのは、岡田前監督の亜大時代の教え子で、昨年度まで7年間コーチを務めていた山下拓郎駅伝監督です。
練習に参加させていただきました!! 取材にうかがった日は関東インカレのエントリー前日で、練習場所は味の素スタジアム西競技場(東京・調布)でした。選手たちは競技場が開く前に集まり、開門時間まで各自で入念にウォーミングアップ。山下駅伝監督も、自転車でさわやかに登場されました!!
練習前に山下駅伝監督から設定タイムや練習の意図について話があり、チームに分かれてスタートしていきます。A、Bチームは4000mペース走+300m×3+1000m×6、Cチームが外周(8レーン)でペース走。私、M高史はCチームにご一緒させていただきました。ちなみに、8レーンを走ると1周約454m。全部で30周したので約13.6kmになります。関東インカレのエントリー前日ということもあり、みなさん気持ちの入った走りをされていました。
マネージャーさんは男女合わせて10人。タイム計測、読み上げ、給水、準備や片付けなど、役割分担をしてしっかり選手をサポート。練習後は練習内容やタイムを丁寧に記録されていました。
ベースは人間力を育む指導
練習を終え、山下駅伝監督にインタビューです。選手として亜大で4年間、コーチとして拓殖大で7年間、岡田監督のもとで陸上に没頭する日々を過ごし、名将の教えを吸収してきました。
現役時代の山下拓郎選手は私にとって非常に印象深い選手でした。亜大が初の総合優勝を果たした06年、駒澤大の主務だった私は、大八木弘明監督と運営管理車に乗らせていただいておりました。この年の箱根駅伝は往路、復路とも大混戦。8区後半から9区途中まで首位だったのは箱根5連覇がかかっていた我らが駒大。そして9区区間賞の走りで駒大を逆転し、トップに立ったのが、当時、亜大3年生だった山下拓郎選手でした!! あれから13年の月日がたち、今回取材させていただけるというご縁に本当に感謝です。
「岡田前監督のいいところを引き継ぎ、そして自分なりにアレンジしていきたいです」と、謙虚に話される山下駅伝監督。岡田前監督が常々話されていた競技力の向上はもちろん、挨拶(あいさつ)や礼儀といった基本的なところから、きちんとした生活を送る、感謝の気持ちを大切にするといった人間力を育む指導方針を継承。その上で自分のカラーを出していきたい、と熱く語ってくださいました。
拓殖大は大学駅伝強豪校にしては珍しく、校内にトラックがありません。そのため普段は味の素スタジアム西競技場、武蔵野の森公園などで練習されているそうです。練習環境についても「言い訳せず、いまある環境でやれることをやる。ベストを尽くすことが大切です」と、前向きに話されていました。
チームの「4本柱」として名前の挙がったのは、前回の箱根1区を走った主将の赤崎暁選手(4年、開新)、同4区の石川佳樹選手(3年、烏山)、同7区の吉原遼太郎選手(3年、千葉南)、そしてケニアからの留学生ジョセフ・ラジニ・レメティキ選手(1年)です。ほかにもトラックの好記録は持っていなくても、ロードに強い楽しみなメンバーがそろっているそうです。
「けがなく継続して練習すること」と、山下駅伝監督は地道なトレーニングの継続を何よりも大切にされていました。
コーチ不在、マネージャーが支える
主将の赤崎選手は1年生のときから箱根駅伝に出場しています。「昨年の主将だったデレセさんがチームメイトや後輩によく声かけをしてて、頼りになる存在でした。箱根を走った4年生が5人抜けたのは大きいですけど、キャプテンとしてエースとして走りでも生活面でもチームを引っ張っていきたいです」と、力強く語ってくれました。目標としている「三大駅伝すべてで入賞」「箱根駅伝では過去最高順位」「最低限3年連続のシード権確保」に向けて、チームを引っ張る主将の覚悟が伝わってきました。
拓殖大には現在、コーチはおらず、マネージャーが山下駅伝監督を支えています。山下駅伝監督はマネージャーと接するにあたり、「信頼」「協力」「コミュニケーション」という点を大切にされているそうです。
男女計10人のマネージャーをまとめあげるのは、主務の阿部力さん(4年、那須拓陽)。度重なるけがに悩み、岡田監督から声をかけられたのをきっかけにして、1年生の11月にマネージャーに転身しました。最初は悩み、高校の恩師に電話で相談したところ「マネージャーでも最後まで部に残ってやってみたらどうだ」という言葉をかけてもらい、転身を決意したそうです。
マネージャーになりたてほやほやのころは、タイムの読み間違えもあって、先輩マネージャーに叱られることもあったそうですが、いまでは山下駅伝監督のもと、主務の仕事をバリバリこなし、監督の頼れる“右腕”にまで成長しました。「選手が自己ベストを出すのを見ると、うれしいです」と阿部さんはマネージャーとしてのやりがいを教えてくれました。
ケニアからのルーキー、ひらがなの勉強中
注目はケニアからの留学生のラジ二・レメティキ選手。ケニアから真冬の2月に来日し、第一声は「cold!! 」だったそうです(笑)。4月から授業も始まり、日本語の勉強も頑張っています。いまはひらがなを勉強中で、カタカナはこれからとのこと。チームメイトからも日本語を教えてもらっているそうです。
日本の食事はどうですか、と質問したところ「カレーライス、パスタ、ラーメン、納豆もOK!! 」。とくに好きなのは「うどん!!」と笑顔で答えてくれました。まずは次のレースで5000m13分50秒を目標に掲げています。
岡田前監督のDNAを受け継ぐ若きリーダー、山下駅伝監督率いる拓殖大学陸上競技部。今年のチームスローガンは「挑戦者」。拓大の歴史に新たな1ページを刻み込むチャレンジは、すでに始まっています!!