ドイツ在住の夢追い人・中山イチローの「人生なんとかなってきた」#7帰国へ
ロサンゼルスの日本食レストランでは、日本人の料理長がお寿司と小鉢など一品料理を担当し、メキシコ人のホセが焼き物、僕は揚げ物とまかない作りを担当することになりました。
ひたすら天ぷらを揚げ続けた
ランチの時間帯にはたくさんのお客さんが押し寄せるので、天ぷら初心者の僕にとっては恐怖の時間でした。僕は「あれやれ!」「これやれ!」と言われた方が楽なのですが、料理長もホセも僕のことを「日本からやってきた天ぷら職人」だと思い込んでいるので、何も指示してくれません。
エビを解凍し、皮をむき、背ワタを取って、エビを伸ばす……といった下処理のやり方は覚えましたが、何よりもまず、どれくらいの量のエビを仕込めばいいのかが分からない! これが非常に難しい! 営業中に仕込んでいたエビの量が足りなくなって、あわてて下処理! ということもしばしばでした。衣をつけてきれいに揚げるだけでも大変なのに、下処理もしながら天ぷらを揚げるなんて素人には無理で、店の中で僕だけ汗だくで働いてました。
毎日イライラしながら働いていると、ホセがひとこと。「俺が焼くステーキよりも、お前の天ぷらの方がおいしいから、天ぷらの注文が多いんだよ」。彼の言葉のおかげで、その後は忙しくてもイライラすることなく、「俺の天ぷらがおいしいから忙しいんだ」と思えるようになり、お客さんに愛情を持って料理を提供できるようになりました。
それからしばらくして、ステーキの注文ばかり続いたとき、ホセが「なんで、今日の客はステーキばっかり注文すんだよ! なんでほかの物もオーダーしないんだ!」とヘラで鉄板をガンガン叩いてキレたのです。僕が思わず「おい!」と大きな声で突っ込んだのは言うまでもありません。
オーナーの甘い言葉
そうこうしていると、あっという間に3カ月が過ぎ、日本に帰らないといけない日が近づいてきました。そんなある日、店のオーナーさんから「就労ビザを出してやるから、いったん日本に帰って、すぐに戻って来なさい」と言われました。
夢にまで見た就労ビザが目の前にある。でも、休みは1週間のうちの0.5日間だけ。それ以外の時間はずっと天ぷらばかりを揚げている毎日でした。果たしてそれでいいのか、自分では決断できず、ホセにだけ悩みを打ち明けました。
「実は俺、就労ビザもなく働いてたんだ。でも、オーナーが就労ビザを出してくれるって言う。この話を受けた方がいいかな?」。そう尋ねた瞬間、ホセは言いました。「やめとけ。俺はオーナーに就労ビザを出すって言われてもう10年になるんだぞ」
迷わず、帰国してロスには戻って来ないことにしました。
あきらめなければ、なんとかなる
ひたすらエビの天ぷらを揚げ続けただけの毎日でしたから、帰国後、友だちからは「わざわざアメリカ行かんでも、“駅前留学”でよかったんちゃうん?」と笑われましたが、僕にとっては人目を気にせず、あきらめずに物事に立ち向かえば「やっぱり、なんとかなる」ということを学んだロスでの3カ月間でした。
次回は、日本に帰国してからのことについて書きます。